トランプ兵とパール
夢世界って、なんだかとっても不思議な世界だなぁー
だって、意識しただけで空が飛べちゃうし、変な生き物がいっぱいだし、それに美味しそうな雲がたくさんあるし。
でも、食べちゃうと二度と目覚めなくなるって言われちゃったしなぁー。一口だけでもいいから食べたいよ。
『主様、ここから気を引き締めてください』
パールがとても真剣な顔をしている。もしかして何か危ない生き物がいるのかな?
『そこの者達、とまーれー』
空を飛んで進んでいると、誰かに声をかけられた。顔を向けるとそこには、トランプの身体をした兵隊さんが立っていたんだ。
『あれはこの先にあるドリマール王国の門番です』
『え? この世界にそんな王国があるの?』
『ええ。主様の心と身体の状態に合わせて夢世界を作っている王国でもあります。本来ならば我々は歓迎される立場なんですが――』
トランプ兵はゆっくりとこっちに近づいてくる。そして、私の顔を見た瞬間、鬼のような形相になった。
『貴様、黒き女王だな!』
え? 何それ?
よくわからないけど、トランプ兵は持っていた槍を突き出して突撃してきた。
わわっ、敵意を剥き出しだ。このままじゃケガしちゃうよ。
『主様、これを!』
どうしようって困っていると、パールが何か投げ渡してくれた。咄嗟に受け取ると、それは虹色に輝く光の剣だった。
ちょ、ちょっと待って! 私、剣なんて扱ったことないよ!
『そんなもので!』
トランプ兵は容赦なく槍を突き出した。思わず目を瞑って剣を盾にする。
すると思いもしない大きな音が響いた。
『なっ』
ゆっくりと瞼を開いてみる。するとそこには、上半身裸になった男の人がいた。
『……え?』
なんで上半身裸になっているの?
というか、この人ってトランプ兵じゃなかったっけ?
『さすが主様です! まさか虹の剣をこんなに簡単に使いこなすとは思ってもいなかったですよ!』
『使いこなすって、ただ盾にしただけなんだけど……』
『なんと! 偶然なんですか!?』
気づいてなかったの?
ま、まあ、何が起きたかわからないけど、ひとまず攻撃は防げた。
『く、くぅ!』
って、トランプ兵がとーっても震えているよ! もしかして怒っちゃったの?
『ま、まさか、私が裸にされるとは……。惚れたぜ、黒き女王』
はい?
何を言っているんですか、この人は?
『おお、さすが主様です! トランプ兵が仲間になりたそうにしていますよ!』
『え? そうなの?』
『あなたのために身も心も捧げよう。さあ、私を仲間にしろ!』
『すごく高圧的なんだけど!?』
え、えー?
なんか仲間にしたくないよぉー。それよりも、どうして裸にされたのに仲間になろうって思ったんだろ?
うーん、わかんないなぁー
『ひとまず、トランプ兵を仲間にしますか?』
『うーん、まあいいよ』
『ではニックネームをつけましょう』
ニックネーム? そんなのつけないといけないの?
『ちゃんとした名前はないの?』
『ありません。強いて言えばトランプ兵Aでしょう』
なんかかわいそう。
そうだなぁー、せっかくだしいい名前でも付けてあげようかな。
『そういえば、このトランプ兵ってハートの二だね』
『なんだか微妙な柄と数字ですね』
『微妙というな! こう見えても槍の扱いは一番なんだぞ!』
うーん、そうだなぁー。ハートの二、ハートツー、ハーツ。
『じゃあ、あなたの名前はハーツにするね』
『ハーツ? ほう、思ったよりもいい名前だな』
『さすが主様です! こんな微妙な奴にはもったいない名前ですよ!』
パール、それ言いすぎだよ。
ほら、ハーツがとんでもない顔で睨んでいるし。
『ま、これで王国の中に入ることができます。おい下僕、王国がどうなっているか教えろ』
『だれが下僕だ!』
『主様に身も心も捧げたのだろ? ならば僕の下僕になったとも言えるんだよ!』
すごい理屈だ。そんなのじゃあ、納得しないと思うけど。
『くっ、優しくしろよ』
うわっ、なんだかわからないけど背筋に悪寒が……!
何この震え。とんでもなく嫌な汗をかいているんだけど。
『気持ち悪い。やっぱ近づくな』
『そんなっ! 俺をこんな気持ちにさせといて、それはないだろ!』
ひ、ひとまず私も距離を取ろう。
なんか変な人を仲間にしちゃったなぁー
『くっ、こうなればやむ得ない! 優しくしないと裸でついて行くぞ!』
『どういう脅しだよ! って、脱ぐな! 男の裸なんて見たくないよ!』
『ならば私と触れ合えー! そうしなければ脱いでやるー!』
私の夢って……
なんだか、頭が痛い。どうしてこんな変なのがいるんだろ?
『わかったよ! わかったから服を着ろ!』
『夜も優しくしろよ?』
『気持ち悪い! やっぱ近づくな!』
パール、頑張ってね。
私はどこか心の中で応援して、遠い目で微笑んだ。
『主様、見捨てないでー!』
パールの絶叫を知らないふりをして、私はドリマール王国があるだろう方向に顔を向けた。
この先にどんな光景が広がっているのか。どこか気になりながらも、少し楽しみにしながら遠くを見つめていたんだ。
なんだかホモォな奴を仲間にしたマオちゃん。
さあ、次はドリマール王国へ突入だ。




