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強襲! ヴァルガンさん

『これでお主の魔王レベルは六だの』


 ホントに上がったのかな? なんだかすっごくそんな気がしないんだけど。


『この調子でどんどんキスをするの。何ならとびきりのシチュエーションを用意してやるがのぉ』

「遠慮しておきます」


 邪神さまが調子良さそうにコケコッコーって鳴く。まるで笑っているかのようで、それを聞いている私はなんだかムカついてくる。

 そもそも、どうしてキスをすると魔王レベルが上がるんだろ?


「まあ、キス以外にも方法を探しましょう。でないとお互いに困りますからね」


 セバスチャンさんの言う通りだよ。キスって神聖な意味があるはずだし、それを何度もやってたら新鮮さがなくなっちゃうよ。

 例え強くなるとしても、そんな風になるのは何だかヤダ。


『わがままだのぉ。まあいいの。他にもとびきりの秘策はあるの』

「卑猥なことですか?」


 え? セバスチャンさん、なんでそんなにキリッとしているの? もしかして私に卑猥なことをするつもりですか?


『それも奥の手の一つだの』

「えぇっ!?」


 奥の手にあるの!?


『だがそれ以上に強力なものが存在するの。それは――時の刻印の解呪だの』


 時の刻印?


「それって何ですか?」


 何となく訊ねてみると、邪神さまが少し目を鋭くさせた。


『時の刻印とは、魔王の紋章のことでもあるの。元々お主は、死んだ人間。訳あって魔王として蘇った者だの。まあ、生きていれば本来は七年の歳月は経っているのぉ』


 邪神さまはゆっくりと空を見上げる。

 その後、少し何かを思ったようにして、静かに私へ顔を向けた。


『時の刻印の解呪は、お主が失った七年を一時的に取り戻すという意味にもなる。だが、それはもろ刃の剣。成功すれば絶大な強さが手に入るだろう。しかし、失敗すれば――お主は記憶を失うかもしれん』


 なんだか震えた。とても怖くて、つい私は助けを求めるようにセバスチャンさんを見つめちゃった。

 もし失敗をすれば、今までの思い出がなくなっちゃう。それどころか、私が私でなくなっちゃうかもしれない。

 でも、そんな不安をセバスチャンさんは吹き飛ばしてくれる。


「大丈夫ですよ。あなたは今までたくさんの困難に立ち向かい、乗り越えてきました。失敗はありません。まあ、万が一のことがありましたら、思い出すまで一緒にいてあげますよ」


 セバスチャンさんはニッコリと笑う。いつものように笑ってくれる。

 だからかな。私、とっても安心しちゃった。


「教えて、邪神さま。時の刻印の解呪の仕方を」


 私の隣にはセバスチャンさんがいる。それだけで、心強い。


『全く、バカな奴だのぉ』


 邪神さまはゆっくりと私に近づいてくる。そして、白い翼を私に差し出したんだ。


『わしの羽を抜け。もし黒く染まれば成功だの。だが、そうでなければ失敗よ』


 私はゆっくりと邪神さまの羽に手を伸ばす。

 もし黒くならなかったら記憶を失う。全部の記憶を失うのは怖い。だけど、だけど、私はみんなを助けたい。セバスチャンさんの隣に立っていたい。

 だから、自分を信じる!


『ほう』


 引き抜かれた羽は、白かった。だけどそれは段々に黒く染まっていって、気がつけばカラスのように真っ黒になっていた。


『お主の覚悟、しかと見届けたの』


 せい、こう、した?

 成功したの? じゃあ、私は――


『それは大切に持っておくのだの。そうすれば〈きっかけ〉さえあれば解呪される』

「え? 毎回やるんじゃないんですか?」

『わしをハゲにする気か?』


 な、なんだぁー。毎回やる必要はないんだ。

 でも、これでどうにかなりそう。でも解呪するための〈きっかけ〉ってなんだろ?


『言わんでもわかるだろ? お主らはいつもやっているようだしの』

「キスなんですね」


 ええー! 結局キスをするの!?

 まあ、やり慣れてないことをするよりはいっかな。もし失敗しちゃったらとんでもないことになりそうだし。


「まあ、これでヴァルガンさんに対抗できるんだね」

「へぇー、それは驚きだ」


 ……ん? 隣から聞き慣れない声がしたんだけど?

 赤いオールバックをしている黒スーツの人。口から牙が出てて、どこか危ない香りが――


「って、ええー!」


 ヴァルガンさんだ! なんでこんな所にいるの!?


『貴様!』

「マオ様!」


 邪神さまとセバスチャンさんが慌てて飛びかかる。だけどヴァルガンさんは軽く手を振っただけで風が起きた。

 途端に地面は裂けて、二人の進行を止めてしまう。


「セバスチャンさん!」

「ふふふ、遅いから迎えにきたよ、マイハニー」


 慌ててセバスチャンさん達の元へ向かおうとした瞬間、私は遮られるように片手で身体を抱き寄せられた。

 その力は、私じゃあどうにもならないほど強い。どんなに抵抗しても抑えられた身体はピクリとも動かなかった。


「さあ、お城に行こうか。今日の夜は、たくさん楽しもうね」


 ひっ、何だかわからないけど背筋に悪寒が。


「や、ヤダァー! 離してぇー!」


 私の叫び声は空しく空間に消えていく。セバスチャンさんが私の名前を叫んでいた気がするけど、それはハッキリとしない。

 気がつけば私は、魔王城にいた。


やっと希望の兆しが見えてきたのに連れ去られてしまったマオちゃん。

一体どうなってしまうのだろうか?



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