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第6章 大乱闘と大団円-3




「ここまで来れば大丈夫かしら?」


 そう言って夏恋がオレと悠花と降ろしたのは、岩金邸から百メートルと離れていないあぜ道だった。


 どうしたんだ、夏恋の奴。そのまま忌野神社までぶっ飛ばして帰るくらいのこと平気でやりそうなもんだが。


「ば、じゃなくて、梅子姉さん。岩金のアホが発砲する前に何かを真坂鈴に言おうとしていたよな?」


「お前は意外と洞察力に長けているんだね」


「意外は余計だろう」


「教えるべきかどうか迷ったんだけどね。あの娘の未練を断ち切るためにもちゃんと教えておいた方がいいと思ってね。あの娘の父親は俗に言う鉄砲玉だったのさ」


 真坂鈴の父親は岩金組の四代目の命を狙って返り討ちに遭ったっていうのか? しかし、真坂鈴は父親が射殺される現場を目撃していると言っていた。


「子連れなら相手の油断を誘うことができるからね」


「そっか。あの人は自分の父親が鉄砲玉だったってことを知らなかったんだな」


 知っていれば真坂鈴が岩金に復讐しようなんて考えなかったかもしれない。けど、今そのことを知ってしまえば真坂鈴は後悔の念に囚われてしまう。だから、ばあさんは四代目の霊を強引に引き離したのか。見かけによらず優しいとこあんだな。萌花が言っていた通りだ。


「ごめん、翔ちゃん。限界みたい」


 夏恋がいきなりガクッと膝をついた。


 よく見ると、夏恋の服には数箇所の穴が開いていた。もしかして、岩金が撃った弾が当たっていたのか?


「どうしたんだよ?」


「力が入らなくなっちゃった」


「拳銃の弾くらいじゃビクともしないんじゃなかったのかよ?」


「そのはずだったんだけどなぁ。でも、翔ちゃんと翔ちゃんの大切な人は守れたからよかった。翔ちゃんに何かあったら教授に申し訳ないものね」


「あんな親父のことなんか気にしてんじゃねぇよ」


 オレは倒れそうになる夏恋を支える。密着する肌の温もりは人間のそれと同じだった。


「私はね、桃子さんの願いを叶えるために作られたの」


「ばあさんのためだろう?」


 夏恋は小さくうなずくと、ばあさんへと視線を動かす。


「桃子さんね、駆け落ちしたこと後悔してたのよ。梅子さんに教授のこと認めてもらえるまで何度も説得すればよかったって。でも、桃子さん素直じゃないから、うまく言えなくてケンカしちゃったみたい」


「あの子が素直じゃないのは母親譲りだからね」


 そう言ったばあさんの目頭には涙がにじんでいた。


「教授もね、本当は翔ちゃんともっともっとお話がしたいのよ。でも、翔ちゃんとどう接したらいいのかわからなくて戸惑っているの。私が完成した時、これからは翔ちゃんと一緒に暮らせるってすごく喜んでたんだから」


「だったら、自分の口でそう言えばいいじゃねぇかよ」


「教授は口下手だから。翔ちゃんと同じで」


 夏恋は微苦笑する。


 ばあさんはうつむいたまま黙り込んでしまう。


 悠花は嗚咽している。


 オレは今にも溢れそうになる涙腺をグッと締めた。


「私、生まれてきてよかった……。ありがとう、翔ちゃん」


「何ガラにもないこと言ってんだよ?」


「教授と仲良くして……ね」


「夏恋!」


 堪えていた涙のダムが決壊して、言葉と一緒に一気に溢れ出る。


「死ぬな、夏恋! お前はそんな柔な女じゃねぇだろう! 親父が作ったロボットはそんな簡単に壊れたりしねぇだろう!」


「あ、翔ちゃん……初めて名前、呼んで……くれた」


「こんな時に何言ってんだよ」


「翔ちゃん……だい……す……き」


 オレの腕に夏恋の重みがずっしりと伝わってくる。


 オレは夏恋の体を揺らす。しかし、ピクリとも動かない。


「夏恋? おい、何下手くそな演技やってんだよ。さっさと動けよ! なあ、夏恋!」


 オレは夏恋を抱きしめたまま子供のように大声で泣いていた。












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