第四期 第一話 「新しい命の予感」
三月。
春の日差しがリビングを優しく照らしていた。
結婚して一年。
ユウキとミヤビは、夫婦として穏やかな毎日を送っていた。
平日は仕事へ行き、夜は一緒に夕食を囲む。
休日はアニメを観たり、サークル「オタクっ子集まれ」の仲間と集まったり、近所を散歩したり。
派手ではない。
それでも、二人にとっては何より幸せな日常だった。
ある朝。
朝食の準備をしていたミヤビは、ふと手を止めた。
「……。」
少し気分が悪い。
立ちくらみのような感覚もある。
「大丈夫?」
ユウキが心配そうに声をかける。
「うん。」
ミヤビは笑顔を作る。
「少し疲れてるだけかも。」
「最近忙しかったし。」
「今日は無理しないでね。」
「ありがとう。」
しかし、その日も職場で体調が優れなかった。
昼休み。
同僚が心配そうに尋ねる。
「顔色、大丈夫?」
「少し疲れが出てるだけだと思います。」
「一度病院で診てもらった方が安心かも。」
その言葉に、ミヤビは静かにうなずいた。
数日後。
仕事を早めに切り上げ、婦人科を受診する。
診察を終え、静かな診察室で医師が穏やかに話しかけた。
「おめでとうございます。」
「妊娠されています。」
一瞬、時間が止まったように感じた。
「……本当ですか?」
「はい。」
「まだ初期なので、無理は禁物です。」
医師は今後の過ごし方や定期健診について丁寧に説明した。
ミヤビは何度もうなずきながら話を聞いていた。
病院を出ると、春風が頬をなでる。
手には母子健康手帳の案内や資料が入った封筒。
(私……。)
(お母さんになるんだ。)
胸がいっぱいになり、自然と涙がこぼれた。
嬉しさと驚き。
そして少しだけ、不安。
いろいろな気持ちが入り混じっていた。
その日の夕方。
ユウキが仕事を終えて帰宅する。
「ただいま。」
「おかえり。」
いつもと変わらない笑顔。
でも、ミヤビはどこか落ち着かない様子だった。
「どうした?」
「ユウキ。」
「少し座って。」
「うん。」
二人はソファへ並んで座る。
ミヤビはバッグから小さな封筒を取り出した。
中には、病院でもらった資料が入っている。
「今日ね。」
「病院へ行ってきたの。」
「体調悪かったもんな。」
ユウキは心配そうにうなずく。
ミヤビはゆっくりとユウキを見つめた。
そして、小さく微笑む。
「私。」
「赤ちゃんができたの。」
一瞬。
ユウキは言葉を失った。
「……え?」
ミヤビは静かにうなずく。
「本当に?」
「うん。」
「今日、お医者さんに言われた。」
ユウキは何度も瞬きをする。
そして、少しずつ実感が湧いてきた。
「俺……。」
「お父さんになるの?」
「うん。」
「私も、まだ信じられない。」
ユウキの目に涙が浮かぶ。
「嬉しい。」
その一言しか出てこなかった。
ミヤビも涙をこぼしながら笑う。
「私も。」
二人はそっと手をつないだ。
その温もりの先には、新しい小さな命がある。
しばらく静かな時間が流れる。
ユウキは優しく言った。
「ありがとう。」
ミヤビは首を横に振る。
「二人のおかげだよ。」
「うん。」
「これからは。」
「三人で歩いていこう。」
ミヤビは何度も何度も頷いた。
その夜。
二人はリビングで、病院からもらった資料を一緒に読んでいた。
「これから健診が始まるんだね。」
「食事も気をつけなきゃ。」
「家事はもっと俺がやる。」
「無理しないで。」
「いや。」
ユウキは優しく笑う。
「今度は俺が支える番。」
ミヤビはその言葉に安心したように微笑んだ。
寝る前。
二人は静かな寝室で寄り添いながら、小さく話す。
「名前、いつか考えようね。」
「まだ早いかな。」
「でも。」
「楽しみ。」
ユウキはミヤビのお腹へそっと手を添えた。
「まだ小さくて分からないけど。」
「ここに新しい命がいるんだ。」
ミヤビもその手に自分の手を重ねる。
「元気に生まれてきてね。」
二人の願いは一つだった。
新しい家族が、笑顔いっぱいの毎日の中で、健やかに育ってくれること。
その日から、夫婦の物語は「父と母になる物語」へと、新しい一歩を踏み出した。
次回予告 第四期 第二話「初めてのエコー写真」
初めての妊婦健診の日。画面に映る小さな命と心臓の鼓動に、ユウキとミヤビは言葉を失う。「本当にここにいるんだね」。夫婦が初めて"親になる実感"を抱く、感動の一日。




