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第一期 第一話「アニソンバーで始まる運命」

この物語は、一人のアニメ好きな会社員が、仕事帰りに立ち寄ったアニソンバーで運命の出会いを果たすところから始まります。


共通の「好き」が二人をつなぎ、オタク仲間との交流、恋愛、プロポーズ、結婚、そして子育てへ――。


恋人として過ごす時間だけではなく、夫婦になってからの毎日、親として悩みながらも支え合う姿、そして家族として積み重ねていく何気ない日常を、じっくり描いたラブコメディです。


派手な異世界転生や最強主人公の物語ではありません。


仕事帰りに寄るお気に入りのお店。


休日に一緒に観るアニメ。


季節ごとのイベント。


「おかえり」と「ただいま」を交わす毎日。


そんな、ごく普通だけれど何よりも尊い日常こそが、この作品の主人公です。


「好きなものが同じ人と人生を歩めたら、どんなに幸せだろう。」


そんな思いを込めて、この物語を書きました。


アニメが好きな方はもちろん、恋愛作品が好きな方、結婚後の温かな生活や家族の成長を描く物語が好きな方にも楽しんでいただけたら嬉しいです。


ユウキ、ミヤビ、そしてひまりが歩む長い人生を、ぜひ最後まで見届けてください。


この物語が、皆さまにとって少しでも温かな気持ちになれる作品となれば幸いです。

挿絵(By みてみん)


金曜日の夜、大阪・難波。


 ネオンが雨上がりのアスファルトに映り込み、人々は一週間の疲れを忘れるように街へと繰り出していた。


 その雑踏の中を、一人の男がスーツ姿のまま歩いている。


 営業課長、三十二歳。


 名前は――ユウキ


「……やっと終わった」


 今日も朝から取引先を回り、部下のフォローをし、会議を三本こなした。


 仕事は嫌いじゃない。


 むしろ好きだ。


 営業成績は社内でもトップクラス。


 部下からの信頼も厚い。


 だが。


 仕事が終われば待っているのは、一人暮らしの静かなマンションだけだった。


 恋人はいない。


 最後に付き合った彼女とは数年前に別れ、それ以来恋愛とは縁がなかった。


(休日はアニメ。平日は仕事。それで十分だと思ってたんだけどな)


 スマホを開く。


 アニメ配信アプリには「あと17作品視聴予定」と表示されていた。


 十年間。


 社会人になってからずっとアニメが人生の支えだった。


 仕事で疲れて帰っても、推しキャラが笑えば元気になれる。


 神回があれば一週間頑張れる。


「……今日は飲みに行くか」


 ユウキはいつもの居酒屋ではなく、路地裏にある一軒の店へ向かった。


 看板には大きく書かれている。


『アニソンバー Sirius』


 店内に入ると、懐かしいアニメソングが流れていた。


 壁一面にはフィギュアやポスター。


 カウンターには常連らしき客が楽しそうに語り合っている。


「いらっしゃいませ!」


「カウンターで」


「どうぞ!」


 案内された席へ腰を下ろす。


 そして、隣を見る。


「……」


 思わず視線が止まった。


 そこには、一人の女性が座っていた。


 肩まで伸びた艶やかな黒髪。


 白いブラウスに淡い水色のカーディガン。


 派手さはない。


 けれど、その落ち着いた雰囲気と整った顔立ちは、一瞬で目を奪われるほど美しかった。


(こんな綺麗な人も来るんだな)


 彼女は静かにグラスを傾けながら、店内に流れる曲を口ずさんでいる。


 その曲は――。


『君の翼』


 十年前に放送された伝説的恋愛アニメの主題歌だった。


 ユウキは思わず口にする。


「懐かしいですね。この曲」


 女性はこちらを向いた。


 驚いたような表情。


 そして柔らかく微笑んだ。


「知ってるんですか?」


「もちろんです。Blu-rayも持ってます」


「えっ?」


 女性の目が少しだけ輝く。


「私も持ってます」


「特典小説まで全部」


「……!」


 二人は顔を見合わせる。


 そして同時に笑ってしまった。


「まさか同じ人がいるなんて」


「本当に」


 緊張が一気に消えた。


「私はミヤビです」


「優です」


「よろしくお願いします」


「こちらこそ」


 二人は軽く頭を下げる。


 それだけだった。


 なのに、不思議と話しやすかった。


「今期アニメは何を見てます?」


「ほとんど全部ですね」


「全部!?」


「営業なんで平日は夜しか見られませんけど、休日は一気見です」


「私も似たような感じです」


 話題は止まらなかった。


 好きな作品。


 推しキャラ。


 神回。


 劇場版。


 原作。


 声優。


 アニメイベント。


 気付けば二時間以上話していた。


「こんなに話したの久しぶりです」


 ミヤビが笑う。


「私もですよ」


 ユウキは少し照れながら笑った。


「会社だとアニメ好きって言える人が少なくて」


「私もなんです」


「だから今日、本当に楽しいです」


 その一言が嬉しかった。


 ユウキも同じ気持ちだった。


(やっぱり趣味が合う人と話すのは最高だな)


 少しだけ勇気を出す。


「もしよかったらなんですけど」


「はい?」


「アニメ好き同士で飲み会とかどうです?」


「飲み会?」


「俺にも数人オタク友達がいて」


「私にもいます!」


「じゃあ、お互い誘って十人くらいで」


「それ、絶対楽しいです!」


 ミヤビは目を輝かせる。


「サークルみたいですね」


「名前も付けます?」


「いいですね!」


 二人で少し考えたあと、ユウキが笑った。


「『オタクっ子集まれ』とか」


 一瞬静まり返る。


 そして。


「ふふっ」


 ミヤビが吹き出した。


「シンプルですけど、覚えやすいです」


「採用ですか?」


「採用です!」


 二人は笑い合った。


 自然と距離が縮まっていく。


「じゃあ連絡先交換しましょう」


「はい」


 スマホを取り出す。


 QRコードを読み取り、お互いの名前が登録された。


 それだけなのに、どこか胸が温かくなる。


「来週あたり予定合わせましょう」


「楽しみにしてます」


 店を出る頃には夜風が心地よかった。


 難波の街は相変わらず賑やかだ。


 駅へ向かう途中、二人は自然に同じ方向へ歩く。


「今日はありがとうございました」


「こちらこそ」


「久しぶりにこんなに笑いました」


 その笑顔は、店で見た時よりもずっと柔らかかった。


「また来週」


「はい。また来週」


 二人は改札前で別れる。


 ユウキは電車に乗り込み、窓の外を眺めた。


(まさかアニソンバーで、こんな出会いがあるなんてな)


 まだ恋ではない。


 ただ、趣味の合う仲間ができた。


 それだけのはずだった。


 しかし、この出会いが。


 やがて二人を恋人へ。


 そして夫婦へ。


 さらに家族へと導いていくことを、この時のユウキはまだ知らなかった。

次回予告 第二話「オタクっ子集まれ、始動!」


ユウキとミヤビは、アニメ好きの仲間を集めるために準備を始める。そして迎えた初めてのオフ会。当初はぎこちなかった十人の参加者たちだったが、同じ「好き」を語り合ううちに打ち解け、サークル「オタクっ子集まれ」が本格的にスタートする。そんな中、ユウキはミヤビの意外な一面を知ることになる。

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