第114話:勝利の行方
下卑た笑みから、容易に想像がつく心根。
バカが!
今までも散々躱した攻撃を、また繰り返してやがる。
発動する前に、土の鎧ごと消し炭にしてやるわ!
——とか思ってるよな!
アズールの瞳に明確な殺意が宿り、全身の蒼い炎が最熱の輝きを解き放とうとした、まさにその瞬間だった。
ドドォォォンッ!!
天を割るような規格外の衝撃音と凄まじい地鳴りが、俺の鼓膜と大地を激震させた。
「が、はっ……!?」
凄まじい爆風が俺の身体を襲い、視界が回る。
俺は吹き飛ばされている事を感じながら、地面に激突する瞬間に備えた。
だが、柔らかな感覚。
アカシャがエア・ゴーレムやウォーター・ゴーレムを多重展開し、クッションとして衝撃をカバーしてくれていた。
おかげで、ガリガリと地面を削りながらも、致命傷を負うことなく背中から滑り降りる事ができた。
「やったか……!?」
俺はすぐさま立ち上がり視界を凝らした。
眼の前は、立ち込める猛烈な土煙によって覆い尽くされている。
風が吹き抜け、砂煙が徐々に晴れていった。
そこに広がっていたのは、隕石でも落ちたかのように大きく穿たれた巨大なクレーターだった。
俺は慎重にクレーターの縁へ近づき、その中心部を覗き込む。
深い穴の底に、二つの肉塊がバラバラに弾け飛んで横たわっていた。
縦真っ二つに分断されたサラマンダー・エイプ・アズールの体。
離れた右半身と左半身が、お互いを探すかのように微かな痙攣を繰り返している。
全身を包んでいた激しい蒼い炎は完全に鎮火し、元の獣の毛色へと戻りつつあった。
「ふぅぅぅ……っ!」
俺は身に纏っていた装甲をガラガラと瓦解させ、空を仰ぎながら溜め込んでいた息を吐き出した。
『やりましたね、マスター』
脳内に響くアカシャの声は、どこか弾んで聞こえた。
「ああ……上手くいって本当によかったぁ……!」
俺は緊張が切れて全身の力が抜け、その場に大の字になって倒れ込んだ。
前世の世界で、嘘か真か宇宙空間から金属棒を自重落下させ攻撃する「ロッド・フロム・ゴッド(神の杖)」の原理を参考にした作戦。
だが、不確定要素が多すぎて、正直なところ一か八かの大賭けだったのだ。
硬化した土の槍の密度と重量、必要な落下高度と速度、そして着弾の位置とタイミング。
俺の浅知恵だけでは絶対に成功し得ない作戦を、アカシャの演算が見事に成立させてくれた。
「本当にありがとうな、アカシャ」
『マスターの発想が明確でしたので、計算自体に問題はありませんでした』
いつもの冷静な声が響く。
『むしろ、直感を欺く為の布石とあの苛烈な突撃を真正面から耐え切ったマスターの胆力を評価すべきです』
一変して柔らかいトーンを滲ませた。
「お褒めに預かり光栄だね」
俺は口角を上げた。
『あのナイフも、最初から槍の先端に組み込むおつもりだったのですか?』
「いや……偶然思い出したんだよ」
最近はめっきり使う機会がなかった、決して壊れることのない謎のナイフ。
戦場で魔物たちが武器を扱っているのを見て、ふと存在を思い出したのだ。
『正解でしたね。高空からの落下による空気摩擦と、魔物が放つ超高温の熱量を考慮すると、着弾前に損壊して威力が減衰する可能性がありました。しかしナイフのアイデアで貫通力と熱耐性の問題を一挙に解決できました』
「素人の浅知恵なんだけどな」
俺は手で目を覆いながら苦笑いを浮かべた。
だが、その思いつきが結果として作戦の成功率を極限まで引き上げてくれたのだから、素直に嬉しい。
「けど、直感持ちの敵とは二度と戦いたくないな。本当に面倒くさすぎだわ……」
俺はまた深くため息をつきながら、上半身を起こした。
再度、サラマンダー・エイプ・アズールの体を見る。
「なんにせよ、ようやくこのスタンピードを攻略する事ができそうだ」
あっちもすぐに片付けてくれるだろうし。
ようやく羽を伸ばせるかな!
『…………』
「?」
沈黙する相棒に、俺は首をかしげた。
「なんだよアカシャ。急に黙り込んでさ」
『……マスター。以前、私が索敵を行った際、『正しい解析ができない状態です』とお伝えしたのを覚えていますか?』
「ああ、魔物の群れがまだ遠方にいた時のことだろ?結局、その原因はあのサラマンダー・エイプ・アズールだったんじゃないの?」
『それが……アズールを討伐し、群れが崩壊を始めた現時点においても、違和感が残り続けているのです』
「なに……?」
どういうことだ?
アカシャの演算に、未だに解明できない違和感が残っている?
『マスターご自身は、何かを感じられませんか?』
「違和感って言われても……」
つぶやきかけた俺の頭の奥で、小さい警報が鳴り響いた。
……確かにおかしい。
スタンピードの最大脅威であったアズールを倒した。
それなのに、【危険察知】の嫌なアラートが、一向に消えてくれない。
いや、それ以上に恐ろしいのは——
俺の感覚が、この異常な恐怖と緊張感を『当たり前のこと』として自然に受け入れてしまっていることだった。
当たり前……?
この、思考が麻痺していくような不可解な感覚。
どこかで……。
どこで……。
俺は言いようのない不気味な悪寒を覚えながら、遥か後方に佇む防壁へとゆっくり視線を向けた。
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次回、第115話は【見えない攻撃】(※次の話の予定タイトル)を更新予定です。




