第1話:まさかのまさかだわ
今、熊のような謎の生物が目の前にいる……。
俺は今年50になるフリーランスだ。人生、自分の理想とは程遠いけど、仲間や家族、環境にも恵まれ、ほどほどに楽しく過ごせてきた。
趣味はキャンプ。
グループキャンプ歴は長いが、ソロはやった事が無かった。
そこで依頼されていた大きな仕事も一段落した事を期に、思い切って3泊4日というのんびりした時間で初のソロキャンプを満喫していたんだ。
腕によりをかけたキャンプ飯を美味しく平らげ、焚き火を起こし、お気に入りの缶ビール片手にスマホで漫画を読むまったりタイム。
ソロ最高だなぁ、と綺麗な満月に目をやると――。
――ザザッ――
ん? 月がぶれた? ノイズ?
なんだろ。酔っぱらったかな? でもまだ缶ビール2本だし、そんなに飲んでないよな。
そう思いつつふと林の方に目をやると、黒い大きな塊が。
熊!?
一瞬で立ち上がり、その黒い塊の方に注目をしつつ、少しずつ後ずさりし始めた。
くそっ! 確かに今、熊の出没が多いのは分かっていたが、まさか!
…まさか! か。そうなんだよな。まさかが起きるまでは他人事なんだよな。我ながら意外に冷静……いや、パニクりが一周回って混乱しているだけか……。はっ、なに色々考えてるんだ、わけわからん。
とにかく熊と仮定して、できる限りの安全策を取りつつその場を離れようとした瞬間――。
『逃げろ! 今すぐ走って!』
急に頭の中に声が響いた。
うわっ、なんだ!?
ぎょっとし、理由もわからず狼狽えていると、黒い影がみるみる膨れ上がった。
熊が立ち上がったのか!? 2メートル、3メートル、いや5メートルか!? いやいや、デカ過ぎる!
それはさらに大きくなり、電柱ほどの大きさに。
な、なんだあれ、腕が6本……!? 俺を見下ろす瞳らしきものが……6つ!? 明らかにおかしい! こんな生き物、いるわけがっ!
その瞬間、強い衝撃が身体全体を貫き、なにか温かいものが身体から吹き出すのを感じた。
「はぁ!?」
気づけば、白い空間。そして目の前には、人らしき男が立っていた。
な、なんだ! なにが起きた!
困惑していると、男はゆっくり口を開く。
「本当にすいません!」
今度はいきなり謝罪。
「な、なにがどうなって……」
「そうなるのは当たり前ですよね。ここは狭間の世界。永灯さん、あなたは魔物に殺されました……」
「魔物!?」
「はい。説明させて下さい」
男は語り始めた。
男の話を要約すると、こうだ。
彼は自称神。そして遥か次元で行われた神々の戦いの余波が地球にも届いてしまい、俺のいたキャンプ場に次元の歪みが発生。そこから迷い込んできた未知の魔物に俺は運悪く遭遇し殺されたらしい。肉体は粉々に吹き飛んだが、事態に気づいた彼がせめて魂だけでもと間一髪で保護してくれたということだった。
「じゃあ、さっきの『逃げろ』って声は?」
「……私です。それがかえって判断を鈍らせてしまったようで……本当に申し訳ありません!」
自称神は深々とお辞儀をしている。
うん、信じられないね。魔物が地上にいるなんて、まさに安直な異世界転生ものの話だ……よ……ん?
「あ、もしかして」
「そのまさかです」
自称神は、心を見透かすように答えた。
いやいやいや、おっさんものの異世界転生だって、例えばアラサーで童貞、引きこもり、とかの超尖った属性じゃん。確かに俺は人見知りで人をあんまり信じてないけど、結構恵まれた生活してきた50近くの普通の地味なおっさんだよ? 童貞でもないよ?
「本当に、俺なの?」
「あなたです」
食い気味……本当に俺とは……。
「まさかのまさかだわ…はぁ」
と、俺が大きなため息をつくと、
「さらっと受け入れてますね」
自称神は少し笑っているようだ。
「まあ、それなりに生きてるんで」
そう、漫画やノベル好きの俺には、「よくある話」だ。
……うん! 嫌じゃないです! 切り替えていこう!
「どんな世界?」
「行く気満々ですね……」
そうと決まれば情報は命。俺は自称神の彼に色々聞く事にした。
ご一読いただきありがとうございます。
フリーランスのWEBマーケターおじさんが、異世界のスキルを斜め使いしていく物語が始まります。
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次回、第2話は【会いたくね〜!】(※次の話の予定タイトル)を更新予定です。




