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借金令嬢がいない学園は寂しいです

サーラが2年生になりました。

エリンは卒業しました。

第2王子とサーラのお話になります。

学年が上がって、サーラは2年生になった。

ふう、とサーラはスケッチブックを脇に抱えて空を見上げた。気候の良い時期で空気は爽やか。風もふんわり感じる程度。


サーラは毎日、心の中でエリンに話しかける。

どっかの空の下で、エリンも気持ちのいい日だな、って思ってるかな?

エリンは今、何をしてるかな?元気かな?

私は相変わらず、毎日絵を描いてるよ。

エリンのおかげで、自分が好きになったよ。自信がついたよ。

がんばってるよ。いつか会えたら、たくさん話そうね。話すことをいっぱいつくるよ。エリン、大好きだからね。


学園の貴族達はのんびり教科をとり、お茶会やダンスパーティーで、社交をして5年過ごす。

エリンは取るべき教科を取って、3年で卒業してしまった。

バートは在籍しているけれど、授業が被るとこがない。外国語の授業の高度な方を取っていたり、経済や各国の暮らしの授業を受けているそうだ。

学園で姿を見ると、互いに片手を上げて会釈する。


久しぶりにエリンたちと会っていた灌木に囲まれたあの場所へ行ってみた。

目を閉じたら、エリンの笑顔が浮かぶ。

エリンを見て微笑むバートの姿も浮かぶ。

スケッチブックをひろげると、エリンとバートのスケッチでいっぱいだ。楽しかったな。


ガサガサっと音がして、第2王子が入ってきた。

サーラを見て笑顔になった。

「久しぶりだな。サーラ。会いたかった。」

サーラは見つかっちゃったな、と不機嫌な顔になった。

「エリンに会いたかったんでしょう?」

「エリンに会いたかったが、謝りたかった。」

「ああ、あのパーティーの。」

「エリンもバートも、俺に怒ってたんだろ?もう話もしたくないって。」

「あー。バートは怒ってましたね。

エリンは怒ってなかったです。王子が侍従に頼んだけど、侍従が一人にしただけだって。その、ああいうのは、慣れてるからって。」

「あんな事がしょっちゅうなのか?」

「エリンちの事、知らないんですか?」

「没落しそうだって事か?」

「没落した貴族がどうなるか、知ってます?」

「考えたことは無かったな。領地を返して平民になるんじゃないか?」

「やっぱり。エリンたちは、王子様とは住む世界が違うな、って、離れたんですよ。

あ、予鈴だ。じゃ、お元気で。王子様。」

「待て。」

「私も後悔したんですよ。王子様がエリンとダンスする様にしちゃった事。バートが助けに行かなきゃ、どうなってました?自分で考える事です。」

「また、サーラと話がしたい。暇ができたら、ここに来てくれ。まってるから。ゴメン。」



「待ってる、か。言葉だけじゃないのかな。」

数日後、サーラが灌木の場所に行くと、王子がいた。

「良かった。来てくれた。」

「この場所が好きなんです。思い出の場所ですから。」

「俺もだよ。楽しかったな。

考えたんだ。こないだサーラに言われた事。没落した貴族がどうなるか。

俺は世間知らずだ。エリンは親の借金で、苦しんでたんだな。破産後は、売られるって。たいてい女の子は売られて娼婦になるって。アイツらが絡んでたのはそういう事でだろ。」

「自分で考えましたか?」

「いや、聞いたんだ。なかなか話してくれなかった。王子は知らなくて良いってさ。王子だから、知らなくちゃならない事なのに。」

「王子は雲の上の人ですもんね。おりこう様でした。じゃ、それでは。」

「待てって。なあ、サーラはエリン達となんかしてたろ?何してたの?教えてくれ。」

「王子は知らなくて良いことですよ。」

「知りたいんだよ。俺は世間知らずだから。」

「街に出ちゃいけないんでしょ?無理ですよ。」

「変装して行くから。このままじゃ自分が駄目だと思うんだ。」

「へー。じゃ、日曜日9時に中央公園入り口に来てみて下さい。目立たないようにして下さいよ。期待してませんけど。王子の変装を見て、こりゃ駄目だ、と思ったら、私は帰ります。」

「わかった。日曜日9時に中央公園入り口。行くから。」



日曜日、メイド一人を連れてサーラが公園入り口にやって来た。

王子がいる。

かなり裕福な見える服装だ。護衛が剣を携えて3名。

駄目だ、目立つ。

サーラは踵を返した。が、王子がサーラを見つけ、駆け寄ってきた。

「サーラ!なんで帰ろうとする?」

「目立ちます。サヨナラ」

「着替えてくる。平民の服屋に行ってくるから。」

「古着屋へ行って揃えて下さい。護衛も古着を着せて下さい。剣は駄目です。」

「しかし。」

「じゃ、無理ならサヨナラで」

「わかったから。待ってて」

王子が護衛と立ち去る。


サーラは公園に入り、いつもの場所で道具を広げた。


近くの露店の人達に挨拶する。

「こんにちは。今日もよろしくお願いします。」

「お!久しぶりだな。よろしくな!あんたが来たら客が多くなる。もっと来てくれよ、な。」

あちこちの露店から声が飛んてくる。

サーラはニコニコ挨拶した。


「お嬢さん、お久しぶりです。待ってたんですよ。」常連客がやって来る。

サーラとメイドが次々と来る客に椅子を出して待ってもらう。

数名描き終えた所で王子が来た。

サーラを見て遠巻きに眺めていた。

まあまあの平民服になっている。が、やはり品が良いので浮いてる。

「少し休憩します。待ってて下さい。」サーラ。

王子が来て、サーラの絵を見る。

サーラが近くに椅子を出した。

「ここで見てて良いですよ」


サーラが客の絵を描く。

話しかけながら、手を動かす。

「お子さん大きくなりましたね。かわいい。」

「ええ。故郷の両親に見せたくて。前の絵もすごく喜んでました。たまには両親に会いに行きたいけど、行けなくて。せめて絵姿だけでも。」

「そうですか。旦那様と出稼ぎに来て、3年目でしたっけ。」

「覚えててくれてたのね。嬉しいわ。そう。故郷は貧しくて。仕事が無いから。でも、王都だって貧しい人が多いわね。この国は貧しいから仕方がないわ。まだ、私達は仕事があるだけ恵まれてる。隣国は裕福そうですよね。行きたいって人が多いみたい。悩んてるの。」

「なんだかせつないですね。あ、坊っちゃんが笑ってる。可愛いなあ。お母さんも笑って下さい。ステキな旦那様を思い浮かべて。」

「あら、ありがと。そうね、両親には笑顔で送らないと心配するわ。

お嬢さんの絵は温かみがありますよね。好きです。」

「ありがとうございます。できましたよ。どうですか?」

「私こんなに美人かしら。」

「おきれいですよ」


客が来ては、サーラと話す。

その内容は、出稼ぎやつらい仕事の話。故郷の親や恋人、妻への想いだ。

隣国は裕福らしい事。この王国への不満。


曰く、

隣国には小さな村にも国から教師が派遣されて来て、子供に読み書きを教えるそうだ。優秀な子供は無料で領都や王都の学校に通えるそうだ。

そんで、村の子供が王都で役人になるんだって。信じられないよなあ。

この国では裕福な金持ちしか学校に行けないってのに。

曰く、

隣国では医師団が形成されて国中を回って無料で治療をしてくれるそうだ、まあ、そう頻繁には来てくれないみたいだけど。何もないこの国よりずっといいよなあ。羨ましい。

曰く

隣国では法律がこの国より平等らしいって。

この国じゃ、貴族と平民との間にトラブルがあれば、貴族の証言が優先される。貴族なら、何しても許されてる。したい放題の貴族がいる。金を踏み倒したり、女性に不埒なことをしたり。どんだけ貴族が平民に迷惑かけてるか、聞かない日はない。貴族がいなけりゃ、平和なのになあ。俺たち平民からしたら、貴族じゃなくて「忌避族」だよ。

隣国では貴族も平民も平等に裁判してくれるんだって。裁判で貴族が平民に負ける事もあるんだってさ。

曰く、

隣国に産まれたかったなあ。フランセーアでも、プロンシアーナ国でもいい。この国よりずっと良い。

曰く、

自分だけなら不平等なこの国で生きるけど。子供や孫の代を考えたら、隣国で暮らそう、って。夫が手紙を寄越したんですよ。産まれた国だから、寂しいけど、隣国で夫がいい仕事につけたから。夫の両親と移り住む事になったんです。それで、最後に私の親に私とこの子の絵姿を送りたくて。もう、私は両親とは会えないでしょう。辛いけど、この子の将来を考えて、この国を出ることにしたんです。



王子は途中から顔色が悪い。

昼になり、露店から差し入れをもらった。

王子と護衛は街へ行き、料理店へと行った。

サーラが「着替えてからでないと、高級なお店は入れてくれませんよ」とコソッと言った。

王子は?な顔だ。


しばらくしたら王子と護衛が戻って来た。

「門前払いされた。初めてだ。」

王子は驚いた顔だ。護衛は憤怒の表情だ。

「どこの店のがおいしい?」

王子は露天をくるりと指さして聞く。

「いけません。」護衛が小さな声で言う。「このような店の物を口にしては」

サーラは構わす指さして言う。

「あの店の串刺し肉はタレが最高です。あっちの店の果実水もオススメです。」

「ありがと。サーラ。」

「待って。お金持ってますか?」

「あるよ。」王子が金貨を見せた。

「もう!はい、これ。それはしまってください。見せてはだめです。」

サーラが王子に銅貨を握らせた。

キョトンとしながら王子が露店で買い物した。

肉を頬張り、美味いと何度も言う。

護衛にも勧め、結局護衛も頬張って大量に食べていた。


「絵を描いてた私に金貨を出す人いましたか?ちゃんと見て下さい。

平民は銅貨で暮らしてるんです。金貨なんて、一生見ないですよ。

見て聞いて、なぜだろうって考えて下さい。」

王子はちょっとしょんぼりして頷いた。

護衛がサーラを睨む。王子に不敬だと言いたいのだろう。王子はそれにも気付いていない。サーラはため息をついた。



サーラは休憩とランチを終えて、また客を描き始める。

夕刻になり、人が少なくなるとサーラは店じまいだ。

片付けて公園を出る。


「サーラ、送るよ」

「結構です。その辺で馬車を拾いますから。」

「いや、送らせて。話をしたいから。」

街の中の少し高級な店の裏口から入り、王子が服を変えて表から出た。待たせてある馬車に乗る。


サーラとメイド、王子と護衛一人だ。

「いつもあんな事してるのかい?」

「たまに、です。練習に良いんですよ。」

「あの美人さんとお兄さんは?って何人も聞いてきたよね。エリンとバートだろ?一緒にやってたんだ。」

「そうですよ。」

「そうか。商売仲間か。今日は勉強になった。肉は美味かったし。楽しかったよ。」

「そうですか?」

「うん。」

王子は黙っだ。

庶民の暮らし、王国への不満を聞いたはずだ。

護衛は不満顔をしている。


男爵家の車止めに馬車を停め、王子がサーラをエスコートして下ろした。

「本当に勉強になったよ。今日の事は忘れない。

俺は知らなくちゃいけないし、自分で考えなきゃいけない。ありがとう、サーラ。また学園で。」

王子がサーラの手の甲に口づけし、少し物憂げな笑顔をサーラに向けた。

「送っていただいてありがとうございました。」

サーラも複雑そうに微笑んだ。


お読みいただきありがとうございます。

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