十話:帰宅
一年振りに家に帰ってきた。
母さんは前線にいるだろうから、
帰ってこれないかもだけど
清正はもう帰ってきてるかなぁ。
「ただいま~。智也、千尋、克弥いる~?」
…返事がない。
まだ学校行ってるのかな?
でも母さんは国からお手伝いさんが来てるって言ってたような―――っ!?
ビュゴオオオオォォォ!!
「あぶなっ!」
転がって攻撃を回避する。
僕がいた場所に、急に小さな竜巻が発生した。
三人ともこんな『能力』じゃない…。
寝室に気配が…一つ。
「…誰だ!?」
「………。」
「誰だって聞いて―うおっ!」
ゴオオオオォォォォ!!
『風を発生させる能力』か…?
この家で『他恩系能力者』は僕しかいない…まさかっ!?
「…あなたはカチア水国の残党か?」
「…こんな時にも頭が回るとは恐れ入ったよ、リンジオの訓練兵。」
そういうと寝室から男が姿を現した。
…ボロボロの恰好だ。
ここまで逃げてくるのに、かなり苦労したんだろう。
…でもそれとこれとは話が別だ。
「…この家に大人が一人、子供が三人いたはずだ。どこへやった?」
「安心しろ、全員生きてる。縛ってここに閉じ込めてはいるがな。」
そう言って親指で寝室を示した。
「…いつからここにいる?」
「これ以上私が貴様の質問に答える必要があるか?」
「重要なことだ、日によっては餓死の可能性もある。」
「安心しろ、飯は与えていたし、便所にも行かせていた。
拘束したままではあるがな。」
「その資金はどこから?」
「もちろん私の金だ。
無理矢理とはいえ隠れ家にさせてもらっているからな。
とはいえもうじき金が尽きるから、
今日ぐらいに出ていこうとした矢先、これだ。」
言いながら男は両手を広げて、現状を見ろと促してきた。
…なるほど、昇格式が明日以降であれば鉢合わせすることはなかった、と。
「けど僕に会わなかったとしても、子供たちが言えば終わりだ。」
「なら脅すまでだ。報告すれば命はないと。」
「あなたが来るまでに国が保護するだろ。」
「そうすればこの国は守りの姿勢に入る。
その間にどこか別の地に逃亡するまでだ。」
「?あなたに逃げ場があるとは思えないが…。」
「真ノロア国になら入れるさ。」
「真ノロア国にも指名手配を発令すれば…あ。」
「気づいたか?今は戦争中だ、敵国に塩を送る真似はしないだろう?」
…くそ、意外と計算してるな。
いずれにせよここから逃がすわけにはいかない。
でも相手は大人だしなぁ…。
さっき見た限り、『能力』の扱いも上手そうだし…勝てるか?
とりあえず石之助(MY石)で側頭部辺りを攻撃して気絶を狙うか…。
ヒュウゥゥゥゥゥ…
狭い食卓の空間で穏やかな風が吹き始めた。
相手がどれだけ大きな竜巻を発生できるか…だな。
「―――ほっ!」
相手の懐に入るため駆け出した―――瞬間。
目の前に巨大な竜巻が発生した。
「うおっ―――がっ!」
こっちから突っ込んだのが仇になったのか、
受け身も取れないまま、壁に叩きつけられた。
「いっっっ…てぇー!」
背中を思いっきり強打した…激痛だ。
「背骨折れるかと思った…。」
「このまま見逃してはもらえないか?」
「う~ん…無理!」
石之助を風の影響の受けなそうな壁際にぶん投げる。
壁にぶつかる前に『能力』を発動、
男の側頭部があろう場所めがけて飛ばした。
竜巻のせいで相手が見えないから憶測でやるしか―――っ!?
…なんだこれ。
竜巻の向こう側の状況が分かる…いや、見える…のか?
…なんかよく分かんないけど、そこだ!
「ん?―――っ!!」
あ、くそ、避けられた…。
と言うより風で軌道をずらされたか…。
ちぇ、一番奇襲成功率が高いやり方だったんだけどな~。
「さて、次は―――うわっ!」
と、突然僕のいた場所にまた小さな竜巻が発生した。
床を転がりながら今度はしっかりと堪える。
…くそ、この辺りには石がないから、戦い辛いな。
さて、どうしたもんか―――
「なんだこれ?家の中どうなってんだ?」
「っ!?」
後ろを取られた、と思った。
でもその声は敵意こそないが力強く、何より懐かしい声だった。
「…お前。」
「ん?おぉ、晶斗!久しぶりだなぁ、先に帰ってたのか!」
そいつは幼馴染であり、親友であり、
なにより僕が憧れた目標である男だった。
「ただいま、晶斗!ただいま、我が家!」
「…おかえり、清正。ちょっと遅いよ。」