到着、冒険者の街【ハルムント】
ウォルフと出逢ったクリス。
自分の非常識な力を隠すウォルフ。
ここから物語は始まります。
「あてが有って【ハルムント】に向かってるんじゃないんですか?」
「冒険者の街でS級を目指そうと思って……」
取って付けた様な理由だけど、冒険者ならS級を目指しても違和感無いし大丈夫だろう。
「あの剣捌きなら【王都】で騎士団を目指しても良かったんじゃないですか?」
「堅苦しいのは苦手なんだ。それと、敬語は止めてくれない?」
「敬語ですか? 私は普通に話してるつもりなんですが……」
「もしかして……何処かのお嬢様?」
「ちっ、違います。昔からの喋り方なだけですよ」
深い詮索は冒険者同士のマナーに反するので、これ以上は突っ込むのは止めておこう。
俺も突っ込まれたくないことばかりだし……
「ソロで冒険者をされてるんですか?」
「剣を鍛えようと思ったら、それが一番実践的だからね」
「私と同い年でC級になってるくらいだから、かなり無茶な鍛え方されて来たんですね」
「……強くなりたかったから……ねぇ」
最初は俺に対して警戒を解かなかったクリスも【ハルムント】が近くなる頃には警戒心を解いてくれている。
『旨い話は警戒する』『相手の人間性を見極める』
冒険者には大事な素養なので、クリスは良い冒険者になる素養が有る。
後は経験だろう……って偉そうに考える俺は、ローレンスの経験が有るので年齢からは考えられない経験を持っていることになる。
ただ、ローレンスも長い間ボッチな生活だったので、人間関係に関しては経験不足だ。
「あの……もし迷惑じゃなければ……」
「ん?」
「私とパーティーを組んで貰えませんか?」
「……えっ」
「やっぱり迷惑……ですよね?」
「いっ、いやっ……俺ずっとソロだったから……パーティー組んでも良いこと無いかもしれないよ?」
「私から見れば……剣も、困ってる冒険者を見捨てないところも勉強になることだらけです」
「あの時は冒険者として当たり前じゃない?」
「依頼主や私を見捨てて逃げ出してしまう冒険者もいます……」
クリスのスキルは【付与魔法】だ。
直接聞いた訳ではないが、ローレンスが俺のスキルを知っていた様に、俺も他人のスキルを知ることが出来る様になっている。
魔力操作の応用だけど、事前に相手のスキルを知ることは戦闘においてかなり有利になる。
こんなチートな能力……
どれだけキツい戦いをしようとしてたんだローレンスは……
【付与魔法】は貴重なスキルなので、クリスは将来この国にとっても大事な人間になる可能性が有る。
守れる範囲で守りながら成長して貰う方が良いかな?
「こちらこそ、今から学ぶことが多いと思うけど、宜しくお願いします」
「宜しくお願いします」
緊張した顔だったクリスが笑顔で答える。
無事に【ハルムント】に着いた俺達はギルドへクリスの依頼達成を報告に行く。
逃げ出した冒険者の報告もしないといけない。
俺もギルドを観ておきたかったので同行することにした。
クリスが報告をしている間に、俺は生活費を自分のギルドカードから引き下ろす。
常宿を決めて宿代を先払いしなければならない。
何時、命を落とすか判らない冒険者に部屋を貸す酔狂な人間はほぼいないので、大抵の冒険者は常宿を決めて先払いで宿代を支払うことになる。
稀に貴族や有力な商人の御抱え冒険者として部屋の提供を受ける冒険者もいるが、専門職になってしまうので自由に冒険することは出来なくなる。
「お待たせしました」
クリスが報告を終えて小走りで駆け寄ってくる。この後、良い宿を紹介してくれる予定だ。
「小さい宿ですけど、大家さんが良い人で…鍛治屋さん、商会が近いから便利なところです」
ダンジョンで何日も過ごすことも多かった俺は、屋根が有って寝れるだけでも十分だ……と思いながら付いていく。
「ここです。私の部屋は2階の角です。隣の部屋が空いてたはずですから確認しますね」
『えっ隣?』
パーティーを組むって決めた以上、同じ宿の方が都合良いのは当然だけど……若い女性が無用心過ぎないか?
いや、何処の誰かも判らない人間が隣よりも安全なのか……
宿代は【王都】の相場よりも少し安いくらいなので、女性冒険者が気にするセキュリティを考えると良心的な値段だ。
クリスが『自分のパーティーメンバー』と宿のオーナーに紹介してくれたので、ギルドカードの提示だけですんなりと入居が決まった。
今日はゆっくり休んで、パーティーの活動は明日からってことにした。
部屋で【異空間収納】から服を出して整理した後、時間を持て余してしまった。
【収納】か……
少し試したいことが有るので商会に買い物に行くことにしよう。
お読み頂きありがとうございますm(__)m
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