変身魔法
村の皆で、炎を囲いながら食事をする。キャンプファイヤーだ。異世界ではこのスタイルが多いな。
前にもこんな風に、飯を食べたが、今回は肉だけではなく、野菜もちゃんと取ってきたからな。
何が食えるのかさっぱり分からない俺の代わりに、リリアが取ってきてくれた。
それに、沢山の人がいる。
俺も出来れば料理を手伝って、モンスターと人間の距離を縮めたかったのだが、あいにく俺は料理が出来ない。そもそもこの鳥の体じゃ、そもそも料理という行為が不可能なのだ。今のところ人間の生活で不便ばかりのこと体。空を飛ぶことと、目がいいくらいしかない。
あと、速いっちゃ速いんだけど、それは魔術で補えてしまう。
そのうち何か見つかることを願おう。
「中身は人間であることだけでも、感謝しておくか」
「何か言いました?」
「いや、何も」
ロナとリリアには、まだ言わない。別に今更俺が人間だったと証したところで何も無いし。変なことはしない方がいい。
それに今は王都へ行くのが最優先だ。
それ以外のことは、妨げになってしまうだろう。
「よっこらせ」
村長が、いかにもおじさんって感じの掛け声で、俺の隣に座った。こんな人だっけ?
俺は、俺専用に皿を出して貰った。
食べやすいよう、台の上に乗せてもらっている。
「王都の場所ですよね」
村長は地図を取り出し、俺の方へと向けた。
前よりもずっと村長らしくなったように見える。
「今この村がこの辺で、王都はここから北ですね」
「ずいぶんとざっくりとした説明だな」
「申し訳ございません。何せ我々は王都へ行ったことがないもので」
そうなのか。なら、悪いことを聞いたな。
だが、これで俺は悪いモンスターでは無いことが証明出来たはず。
見返りがなくとも、別に構わないさ。
北に行けばいいということさえ分かれば、あとは楽だ。北の方角すら何となくだけどな。
「しかし、これだけでは釣り合いが取れません。こんなに沢山の食材を下さったのですから、何か他のお礼を差し上げます」
おお。そいつは嬉しいな。何か武器とか道具が貰えるのがベストなのだが、俺には必要無いし、ロナにもリリアにもあっている物があれば良いのだけれども。
しかし、貰えたものはもっと大きかった。
「あくまで貸すだけですが、王都までどうぞ」
それは、馬だった。大きな馬が二頭。
「おお!本当か!?」
こいつはかなり嬉しいぞ。もう俺が頑張って引っ張らなくても良いんだからな。
「ありがとう!王都へ着いたら、必ずまたここを寄るよ」
「ええ、是非そうしていただけると幸いです」
いやぁ、いい収穫をしたなぁ。
俺は、心の中で再び喜びながら、馬達をテイムする。
もう用は住んだので、村からは出て、早速王都へ向かう所だ。
「それにしても、ライルさんは本当に色んな魔術を知っていますね」
「え?」
馬を、ちゃんと言うことを聞くようにテイムした。これで俺の言葉で自由に動いてくれるはずだ。
「よし、テイム完了。まぁ、俺が魔術を知っているのは......まぁな」
なんか曖昧な返事をしてしまった。賢者の部屋にあった本。あれを今でも持っていて、ほとんどの魔術が書いてあるなんて、説明するのも大変だし、そもそも言う必要が無かったので話さなかった。
もしこれで話したとして、ロナやリリアが別の誰かにもそのことを話せば、たちまち盗まれたりもするだろうしな。
別にロナとリリアが信用ならないわけではない。ただ、人間とは内緒をいつまでも内緒にはしておけない生き物なのだ。
「じゃあ王都へと、レッツゴーでもするか」
「おー!」
「お、おー......」
馬のパカラッパカラッという足音がする。
うーん、いい響きだ。
俺は、荷車を馬車へと創造し直し、その上から手網で馬を持つ。持つというか、咥えているのだが。
楽だ。
本当に楽だ。
「快適だなぁ」
ロナとリリアも、馬車の中でくつろいでいるようだ。
「このままどこまでも行っちゃいそうだ」
そして、どこまでも走ること約三十分。
馬の体力はまだまだ余裕そうだが、俺の咥える力に、問題が生じてきた。
疲れたのだ。
「顎が痛い」
テイムしたとはいえ、一語一句全て命令通りに動いてくれるわけではない。
だから、こうして手綱を使っているわけなのだが、やはりこの鳥の体じゃ限界があったようだ。
「人間の体が羨ましいよ......」
俺も昔は人間だったなぁ......せめて変身とか出来れば良いのに。
ん?変身?人間に変身?
そこで、俺は何かを思いついた。
「そうか!変身魔術とかあれば!」
「うぇえ!?」
ロナが、俺の大声に飛び起きてしまった。
だが丁度いい。
「ロナ、リリア、変身する魔術とか魔法は無いか?」
「へ、変身ですか......?あることにはあるのですが......」
魔術ではなく、魔法ならある。だそうだ。つまり、そんじょそこらの人間じゃ、使うことの出来ないという上級の魔法だ。
「まずそもそもモンスターは魔術を使いません。喋れないですから、詠唱が出来ません」
あ、たしかにそうだな。
考えてみれば、魔術を使うという点に置いても、俺はモンスター離れをしているわけか。
だがそれは、俺が元々人間だったからではなく、魔王に力を貰ったからなのだ。
魔王?そうか!魔王なら、何か持っているかもしれない。
俺は、自分ので使える魔法を再確認した。
「あ、あった」
馬車を停める。
そして、魔法を試す。
「え、あの」
「トランスフォーメーション」
リリアがオドオドしているうちに、俺は詠唱を唱えた。すると、身体がビキビキと痛んだ。
「うお、ぐおお」
「ええ!何!?何!?」
「もしかして、変身魔法使えたんですか!?」
ご名答だ。嫌しかし、これすっごい痛い。
身体中の関節が、ボキボキと変形するのが分かる。だが、なかなか形にならない。何に変身しようか、迷っているようだ。
「変身したいものを想像してくださいっ!」
へ、変身したいもの?人間だ。そうだ、人間を想像しろ。俺は想像が得意なんだ。うんとカッコイイ、イケメンにでもなろう。
そう思った瞬間、変身は完了した。
「ふぅ......」
「あ、あ.......」
「凄いです......」
二人とも、口をあんぐり開けている。
どうだ?変身は上手くいったのか?鏡がないのが残念だ。
「えっと、どう?」
「どうもこうも、人間です......」
何か見る手段はないかと考えたが、大きな容器を創造し、そこに水を入れて鏡の代わりにした。
「おおー!!」
思ってたよりもずいぶんと上手く出来てるじゃないか!どちらかと言うと女の子になっちまったな......たぶん、ずっとロナとリリアしか見ていなかったためだろう。いや、変な意味じゃなくて。
「か、可愛い......」
「え?」
「可愛いですよ!ライルさん!!」
お、おう。ありがとうな。
それにしても、久しぶりの感覚だ。
バサバサとした翼は無く、代わりに器用な腕がある。足も、長くスラッと伸びていて、何より小回りがきく。
少し飛んだり跳ねたりしてみる。なんだろう、体が軽い気がする。
「あの、ライルさん」
「なんだ?」
「次から、変身魔法を使う時は、気をつけて下さいね」
あ、あぁ。そういえば、変身の仕方知らなくて、ぶっつけ本番でやっちゃったもんな。
さっきはリリアに助けられてしまった。
「さっきはありがとうな」
「いえ、ですが、変身魔法が使えるなら教えて下さいよ」
それは俺が悪かった。二人を驚かせたかったんだ。
「まぁ、本来は人間が安全にモンスターのエリアに入るために用いられたりする魔法なんです。だから、見た目だけで、そのモンスターの力まで受け継ぐことは出来ないのですけどね」
「例えば、鳥型モンスターになっても、空を飛ばないとかか?」
「はい。しかし、練習や魔力次第では飛べるようになったりもします」
練習や、魔力次第......魔力が多ければ、その分完璧な変身が可能と言うわけか。
魔王の魔力を持つ俺だからこそ、こんなに上手く人間に変身できたということだな。
「人間になっても、同じように魔術は使えるな」
だが空を飛べないし、鳥の目も使えない。
それが使いたい時には、戻ればいいわけか。
「リリア、もしかしてこれ、変身する度にあの激痛が?」
「いえ、たしか初めての場合のみだと思います。魔法は使えないないのでよくは分かりませんが、そうじゃないと使い勝手が悪過ぎるので」
それもそうだな。そこら辺は心配しなくても良さそうだ。
なら、
「早速王都へと行きますかパート2」
「ぱーと?」
「いや、なんでもない」
俺は、再び馬車に乗り込む。おお......人間の体って久しぶりだな。おっと、服を忘れていた。さすがに全裸だと、王都で騒がれてしまう。想像して服を創り出し、それを着る。いやあ本当に便利だなぁ魔法。
「もうライルがどんな魔術や魔法を使っても驚かないわぁ......」
そりゃどうも......
「よし、人間の体になったことだし、これで疲れず一気に王都まで行けるぞ!」
王都には一体どんな人達がいるのか、楽しみだ。
「行くぜ!」
「「おー!!」」
俺は第二の人生を、絶賛謳歌中だ。




