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13.上からの依頼

ルネス君は、胸元から羊皮紙を一通取り出し、私に差し出してくる。羊皮紙を受け取ると触っただけで上質な皮から拵えた物であると分かった。こんな上物の羊皮紙を使う人間は、王族くらいだろう。

封印の跡を見ると予想通り、王家の紋章が入っている。

私に手渡したのだ。手紙を読んで欲しいという事だろう。勇者君に確認せず、さっさと広げて目を通す。

非常に簡潔な文章だ。表題は依頼書になっているが、差出人の名前を見れば、これが命令書であることは間違いない。

「ふ~ん、これが断れない理由か。確かにこの国の王からの依頼は、命令と同義語だ。で、この依頼を達成する目途が無いから、私を呼んだのか」

この依頼は、中級冒険者の勇者君達には厳しい。上級冒険者のパーティーに依頼を本来はすべきだ。しかし、知名度が先行し、勇者に祭り上げられてしまったルネス隊の実力では、勝算は無い。

「はい、エータ殿がパーティーに加入して下されば、勝てると思います。違いました。エータ殿は、勝てると考えました」

なるほど、あながち間違いではない。この依頼、怪物討伐は私の実力であれば、問題なく私一人でも依頼達成できる。しかし、勇者君のパーティーだけでは、成功率は半々だろう。

勇者が依頼失敗などという事は、あってはならないのだ。

正確に言えば、この国の王によって造り出された人造の勇者ルネスには、実力に関係なく敗北は許されない。この国に勇者が所属していると言う事実が、国王への人望に繋がり、また外国への牽制となり、内政を安定させる目的に利用されている。

王もルネス君の実力は承知している。だが、困ったことが起これば、勇者が解決しなければならない。軍を動かすのは、国民や周囲の国に不安を抱かす材料に成りえる可能性があるので、次の手段となる。

そのため、この勇者の館は、王から派遣された一流の役人達が常駐し、勇者省とも言える役所を構成している。勇者がどの様な方法でも確実に依頼を達成させる為の機関である。

光り輝く勇者の影で、ここの使用人達は、各軍や各種ギルドに根回しをし、王の意向を達成し、威光を守ることに暗躍している。

私が呼ばれ、手厚く遇されているのもその一環だ。幾度にも亘り、勇者ルネス隊の一員として依頼を解決してきた実績を評価されているのだろう。

だが、ここの使用人が、私を呼ぶだけで済ませる筈が無い。完璧を期す為に、別の方法も用意している事だろう。

「で、この依頼書には、大きなトカゲ一匹を討伐と書かれているが、トカゲとは、ドラゴンで間違いないのか」

「はい、その様です。先に集めた情報からスモール級でしょう。鱗の色は、青いそうです。私達では苦戦必至ですが、エータ殿程の剣士ならば、一人でも圧勝できると思われます」

「分かった。で、他のメンバーは」

「全員、館に集まっていますが、今の時間は出払っています。今日の夕食に顔合わせが出来ます」

「みんな、息災か」

「はい、私を含め四人共元気にしております。王から手厚い保護を受けておりますので」

「分かった。あと、ルネス君、気を付けて欲しい事がある」

「何でしょうか」

「先程から私の事を剣士と言っているが、エータは魔法使いだ。そこを間違えるな」

勇者君のカッコイイ顔が、間抜け面になり、顔面が青くなる。

「申し訳ありません。以後、その言葉は口に出しません。注意致します」

椅子に座ったまま、器用に姿勢を正し、謝罪してくる。私が怒って何かするとでも思っているのだろうか。やれやれ、冷血のミューレを知っている勇者君ならば、そう考えてもおかしくないか。

「分かればいい。まあ、誰も信じないだろうけど」

「そう言って頂ければ、助かります」

額に汗をにじませ、返事をしてくる。殺気も怒気も出していないのにそんなに私が恐ろしいのだろうか。私の正体を知らない他のルネス隊のメンバーなんて、もっと気安く接してくるのに、へたに正体を知っているルネス君は大変だ。

「で、今回の報酬もいつも通りで良いのか」

「はい、私が達成できる依頼ではありませんので、エータ殿の自由にして下さい。今後の詳細は夕食の時に、皆が集合した時に話をしようと思います。よろしいですか」

「それでいいよ」

「では、行きましょうか。いつも通り報酬は前払いさせて頂きます」

ルネス君が立ち上がり、扉へ向かう。こうなったら、付いて行くしかないか。

ああ、結局クッキー口にできなかったよ。食べたかったのにな。紅茶も一口しか飲めなかった。残念だ。後ろ髪をひかれながら、席を立ちルネス君の後を追う。

さて、良き物と巡り合えるだろうか。


ルネス君と廊下を館の奥へと進み、頑丈そうな木の扉と頑丈な鉄の扉を開け、宝物庫に通された。ここは、今迄に冒険した時の戦利品や王からの賜り品を保管しておく部屋だ。貴重品が溢れる部屋の為、窓は無く、天井全面が魔法の光りにより輝き、部屋を万遍なく照らしている。

「では、私は失礼致します。報酬は、この部屋からお気に召す物を幾つでもお持ち下さい。物品の効能は、鑑定書が添付されていますので、それで確認して下さい。では、ごゆっくり」

ルネス君が宝物庫から出て行った。

さて、宝の山から欲しい物があれば良いのだが。あの三馬鹿だと片っ端から持ち出そうとするだろうなと、ふと脳裏によぎる。

私は、そんな浅ましい真似はしない。本当に気に入った物だけを貰う。気に入った物が無ければ、当たり障りのない装飾品を貰う。装飾品ならば、どこの街でも簡単に売れ、依頼の必要経費に充当できる。

今回は、剣が欲しいな。どうもロングソードは、私の趣味に合わない。やはり、片手持ちも両手持ちも出来るバスタードソードが好みだ。

しかし、バスタードソードは世間では不人気だ。片手剣としては重くて長い。両手剣としては短くて軽い。どちらつかずという評価だ。

逆に考えれば、片手剣としては、間合いが広く重い斬撃が出せる。両手剣としては、短く軽い為、取り回しに優れる。のだが、世間はそう思わないらしい。使用する私が納得しているのだから、他人の評価など気にする必要は無いか。

『魔力感知』

魔力を感知する魔法を詠唱する。魔力が強い物ほど明るく発光する。さて、まずはあの明るい処から見てみますか。どうか、掘り出し物が有ります様に。


夕暮れ、割り当てられた華美な客室で休んでいると中年の女中二人がやって来た。

「エータ様、晩餐でのお洋服をお持ち致しました。僭越ながら、お着替えを手伝いさせて頂きます」

女中の手には、新緑の色をしたヒラヒラのドレスを手にしている。私が顔を見られ無い様に、ブーケが付いた帽子を絶対に取らない事を知っているため、その帽子に合わせたドレスを用意して来た様だ。

「着替えなければ駄目か。私は、このままで問題ないが」

「誠に申し訳ありません。お客様が一名、お城より来られるそうでございます。どうか、ご賢察の程、お願い申し上げます」

女中二人、深々と頭を下げる。どうやら、夕食にはルネス隊以外のオマケが参加する様だ。そいつと面会する為に衣装を合わせろという事だろう。上等なドレスを着るという事は、貴族でも来るのだろう。

面倒な事だ。体調不良を理由に食事は部屋で摂ろうかな。

「主人より伝言を賜っております。晩餐時に具体的な依頼内容の説明があるとの事でございます」

なるほど、王に会って依頼を受諾する前に依頼内容、作戦等の実務をここで済ませる算段か。王との謁見は、形だけで簡単に済ませるわけだ。

「仕方ない。分かった。着替えよう。分かっていると思うが、帽子は取るな。ブーケの中を見るな」

「重々存じ上げております。十二分に注意させて頂きます」

「では、頼む」

「かしこまりました」

女中二人が手早く私の服を脱がしていき、一瞬で全裸にする。用意していた桶にぬるま湯が張られ、絹の布で私の身体を優しく拭っていく。

そう言えば、水浴びをしたのは二日前だったかな。冒険者稼業を長く続けているとそういう処が無頓着になってしまう。

「よろしければ、お顔をお拭きなられますか」

恭しく私の前に布が差し出される。

「着替え終わって、一人になった時に拭かせてもらおう」

「かしこまりました。それにしても本当に綺麗なお肌ですわ。羨ましく存じます」

怪我する度に回復魔法で再生しているからとは言えないな。ここは黙っておこう。

絹の白い下着、インナードレス、新緑のドレスの順に手早く着せられ、白いハイヒールを最後に履かされる。

部屋に備え付けの姿見に案内され、姿見に映った自分自身を観察する。肩や胸元を大きく露出したドレスを着たお嬢様が目の前に居た。

「少し胸元が開き過ぎの様な気がするし、腰回りがだぶついていないか」

「誠に申し訳ございません。私共の見立て違いでございます。エータ様がここまで着痩せされる方だとは、存じませんでした。此度の手違いお許し下さいませ。次回には、御身体に合わせたドレスを御用意致します」

「要は胸が大きくて、閉じられないということか」

「仰せの通りでございます。僭越ながら、こちらの方が魅力的でお似合いでございます」

「まあいい。悪いのは、その客だ。ご苦労様」

「失礼致しました」

女中二人が、客室から去っていく。約束通り一度も私の顔を見ようとはしなかった。下から見上げるチャンスは、何度も有った。使用人教育が行き届いている様だな。

もう一度、姿見の前でクルリと一周する。スカートが円錐状に広がる。どこから見ても深窓の令嬢だな。しかし、歩くと剣士の癖が出て、ハイヒールでは歩くのに戸惑うことがある。

歩く分には問題ないだろうが、走れば確実にドレスの裾を踏んで転びそうだな。

万が一の時は、ヒールを折れば何とかなるだろう。

しかし、何度も見ても美少女だな。我ながら感心してしまう。

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