operation “box” (4)
もし何も見つけることができず、この部屋を出たならーー僕は考えていた。
死因は自殺。理由はわからずじまいだろうが、僕達二人だけはその理由に心当たりがある。
僕は心に整理をつけることの出来る自信があった。その答えを導き出したのは湯川自身だ。その選択によって僕達二人に罪をなすりつけるのは汚いやり方だ。そもそも奴が正しい事をしなかった。結果自分が報いを受けた。その報いに耐えきれずに自殺を選んだというのなら奴が弱かったのだ。僕達は、奴を殺してなどいない。
……しかし、尾下銀はどう思うだろうか。彼は罪悪感を抱いている。自らの行いによって、湯川を追い詰めたと。
行動したのは彼だが、後押ししたのは僕だ。計画を立てたのも、部屋に送り込んだのも僕だ。僕は、彼の罪悪感を薄めてやりたかった。湯川に対してでなく、尾下銀に対しては罪悪感を抱いていた。
テレビラックの下を覗き込む。そこに何かがあると、感じたわけでは無い。僕は焦っていた。長くここに留まるわけにもいかない。大家に対して嘘をつくのもあまり気持ちのいい行為だとは思わない。
携帯のライトで闇を照らすと、薔薇のように絡み合うコードの向こうに、キラリと光るものがある。僕は立ち上がり、テレビラックの裏に身体ごと腕を突っ込むと、目を凝らし、その光るものを取り出そうと指を伸ばした。
指先が引っかかる。伸ばし、掴む。持ち上げ、見ると、それは、見慣れないもので、僕は固まった。
注射器だ。
「早稲田……」
振り向くと、尾下銀は押入れの中で何か見つけたようで、怯えの帯びた表情でこちらを見ていた。
「何があった?」
「それは何だ?」
質問に対して質問で返した彼に対して、僕は冷静を保って言う。
「見ての通り……注射器だ」
尾下銀の表情が落ち着いていく。一周回って冷静になっていく感じ、覚悟を決めたような表情。
彼は手に持っていた紙を僕に差し出した。何やら文字の印刷された、コピー用紙のようだ。
僕は黙って受け取って、窓から射す明かりで照らして黙読した。
湯川悠二
あなたは違法薬物常習者だ
あなたを告発する
いずれ確実な証拠を掴む
あなたは逮捕される
職場にはいられなくなる