第4話 また相まみえよう
――なんだ、このメイドは。
突如現れたライフル。
あの火球の威力。
幻影魔法の使い手か?
……いや、それならおかしい。
こちらの幻影を完全には見抜けていない。
私はこれまで、魔法の鍛錬だけに人生を捧げてきた。
祝福なき者への復讐。
魔法使いの復権。
そのためなら、苦とも思わなかった。
二十三年。
鍛錬を重ねたこの身に並ぶ者など、そうはいない――
そう、信じていた。
だが。
世界は広い。
そして残酷だ。
目の前のメイドは、少なくとも魔法の威力で私を上回っている。
……面白い。
この女を取り込めば、目的に大きく近づく。
――だが、まずは生き延びることだ。
投げられたナイフを風魔法で弾く。
間一髪。
メイドは止まらない。
ナイフを追うように踏み込み、さらにもう一本――
どこから出した?
生成が間に合った氷の剣で斬撃を受ける。
重い。
詠唱、詠唱、詠唱。
魔法は“置く”ものだ。
未来を読んで、先に仕込む。
脚、首、小手。
ナイフでの三連撃。
なんとか防ぎながら、詠唱を続ける。
そうだ。もう一合斬りかかってこい。
……だが、距離を取られた。
悔しいが、正解だ。
次の瞬間、先ほどの位置で爆発が起きる。
あと一瞬遅ければ、私の勝ちだった。
引き際を心得ている。
対魔法使い戦に慣れている動きだ。
間髪入れず、再び火球。
エドガーの末路を見た。
あれを受ければ終わる。
風で軌道を逸らし、回避。
安堵する余裕などない。
続けて銃撃。
しかも接近しながら。
片手にはナイフ。
……厄介だ。先手を取られ続けている。
動き続けているのは、魔法対策だけではない。
幻影対策でもある。
戦いの中で学習し、戦術を変える。
簡単なようで、できる者は少ない。
――楽しいな。
生命の危機だが、不思議にもそう思った。
こちらもやられているばかりではない。
幻影のタネが割れた以上、銃撃は予想していた。
氷の壁を展開する。
数秒後、これを火魔法で爆破する。
接近していれば巻き込む。
遠距離なら、その後に見るのは幻影。
その隙に離脱する。
――そう思った瞬間。
「残念でした!上だよ!」
上だと?
風で跳躍したのか。
壁を越えてくる――!
両手剣。
いつの間に。
氷の剣で受ける。
受けるしかない。
だが――
気づけば、床に叩きつけられていた。
急ごしらえの偽物が本物に勝る訳がない。
喉元に剣。
「詠唱したら殺す」
「……襲撃の目的は?」
「魔法使いの復権のため、ハイヴェール家の一人娘を――」
嘘だ。
本来の目的は殺害。
誘拐はオプションだ。
「嘘だね。マリン、死にかけてたよ」
「……それは、我々の失敗だ」
「で、今も失敗中ってわけ?」
「……それはどうかな」
「状況、分かってる?」
「それよりメイド」
「何?命乞いなら聞かない」
「我々と来ないか?」
「……は?」
「その力。尋常ではない」
「なぜその裏切り者に仕えている」
「共に来い。魔法使いの未来を――」
「あーごめん、興味ない」
「なぜだ」
「あたしはね、メイドだから」
「……それだけか」
「うん、それだけ」
「最期に言い遺すことは?」
「一つだけ」
私は目を閉じる。
「メイド――また相まみえよう」
その瞬間。
閃光。
爆音。
仕込んでいた“保険”。
火属性魔法の応用――閃光。
魔法は発動までに時間を要するが、発動タイミングはある程度融通が利く。
目を閉じていれば影響はない。
一瞬の隙。
距離を取る。
追ってこない。
分かっている。
――メイドは、主から離れない。
失ったものは多い。
だが――
収穫もあった。
「次会ったら覚えてろよ~!絶対殺してやるから」
背後から聞こえたメイドの声が、いつまでも耳に残っていた。




