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勇者ヒイロの英雄譚  作者: 千里
三章 使命の理解
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17. 四天王の襲撃

 何者か分からない男の登場によって勝利の余韻は消え失せ、僕らの間に緊張感が走る。

「私アチーチ。四天王」

 何気ない自己紹介に思わず耳を疑う。魔族における四天王の具体的な立ち位置は分からないし、肩書だけで判断するのは早計だが、今の僕には倒せるとは到底思えなかった。勝ち目が感じられない強敵に尻込みしてしまう。

「勇者様、一緒に戦いましょう!」

 恐怖で固まっていた僕の背中を押すようにして、ガナンさんが助太刀にやってくる。僕らがここで逃げたら、ガナンさんの故郷が襲われるかもしれない。きっとそれがガナンさんの戦う理由だった。

 ガナンさんの故郷を思う勇気に引っ張られるようにして、僕も覚悟を決める。勇者は勇敢な存在でなくてはならない。勝ち目の薄い戦いから逃げるようでは、人々を守ることなんてできない。

「なぜこの地を襲いにきた!」

 ガナンさんは故郷を襲われたことに対して、怒りを露わにしていた。

「なぜ?大人しく降参してもらうため」

 アチーチは怒りの感情を気にもせず、思ったよりも平和的な答えを返した。皆殺しにするため、人類を支配するための第一歩、そういった過激な返事を予想していただけに少し拍子抜けする。

「そんなはずないでしょう。魔族は人類に仇なす存在なのですから」

 当然プレッセルはそんな言葉を信用せず、疑いのこもった眼差しでアチーチのことを見る。

「人何も知らないまま私たちと戦おうとする」

 そんな二人に対して呆れたような態度を見せたことに、対話の可能性を感じる。

「それなら、お前は何のため戦う?」

 人類への敵意以外のどんな理由で戦うのか、気が付くと疑問を発していた。ガナンさんもプレッセルも驚愕の表情を浮かべていたが、僕は聞かずにいられなかった。

 僕自身も戦う理由を見失っていた。勇者になった理由だって、本当はお母さんとお父さんのことを助けるためだったのに、その理由を失った今、惰性でこの場に立っているのではないかという疑問が常に頭の中にあった。

 そもそも、戦うことに熱心になれなかった。その感情は優しさに由来していなかった。人も動物も魔族も魔物も、出来ることなら誰も傷つけたくなかったのは、両親たちに誇れる自分でありたいだけだった。復讐心を失い、何のために戦っているのか分からない僕は、他の人が戦っている理由を知りたかった。

「私種族の中で一番強い。だから仲間守るため戦う。それで、勇者なんで戦う?」

「なんでって、それは…」

 僕なんかよりずっと立派な答えが返ってきて、自分の感情は恥ずかしくて言えなかった。

「まあいい。来い」

 疑問に答えられなかった情けなさを誤魔化すようにして、僕はアチーチに斬りかかった。


 しばらく戦っていると、僕らの間に存在する実力差は明確になった。僕とガナンさんはアチーチが放ってくる火球を避けることしかできないせいで迂闊に近づけず、プレッセルは火球を防ぎながらけがの治癒をしており、向こうのペースになって受け身になって戦ううちに少しずつこちらの形勢が悪くなる。

 一矢報いるために聖剣の力に頼ろうとしても、聖剣から放たれた光球は向こうの火に防がれる。都合の良いパワーアップなんてそうそう起こるものでもない。魔力と体力が尽き、無尽蔵に思える熱に戦意も喪失し、僕たちの敗北は誰の目にも明らかだった。

「だいたい実力分かった。さっき見てたが、お前ルギオスにとどめ刺そうとしなかった。なぜ?」

 意図が分からないが、アチーチは僕らにとどめを刺すつもりは無さそうだった。それどころか、興味を持ったみたいにこちらとの対話を試みてきた。よくわからないが、これはチャンスだった。僕の言葉次第でこの場を切り抜けられるかもしれなかった。

「何故って…弱っている生き物を寄ってたかって攻撃するのは、両親の教えに反するから」

 正しい答えだろうか。優しさからではない消極的な理由に失望されてはいないだろうか。僕の返事のせいで二人を巻き込んでしまわないだろうか。不安に思う僕に向かってさらに言葉が投げかけられる。

「なるほど。殺す悪か?」

「殺してしまったら取り返しがつかないんだ。人としてそれだけはやっちゃ駄目なんだよ。両親に誇れる僕じゃなくなる」

 消極的な感情が前面に出た僕の答えを聞いたアチーチは、少し前のめりになった。

「誰もお前の気持ち知らない。人々お前の甘さ責めるかもしれない。お前の苦しみ、誰も救わない。なぜ苦しんでまで戦う?」

 アチーチの言葉に少しだけ思い当たることがあった。邪神教団を捕らえたときだって、里の人たちは誰も僕の考えを理解してくれなかった。それどころか、僕のことを責め立ててきた。誰も僕の苦悩を理解しようとしなかった。誰の理解も得られないことは苦しかった。

 そうやって苦しんでいると、領主様と奥様に教わった言葉が思い出される。

『主は、苦しんでくれている君のそばに居て、君の心が救われることを助けてくれる』

 その言葉は本当だろうか。僕の苦しみを主が癒してくれるのだろうか。そんな都合の良いこと、僕には信じられない。いつだって世界は僕に対して厳しかった。僕の考えなしの行動のせいで周りに様々な迷惑をかけて、自業自得に苦しんでいる僕の心を主が救うことはなかった。

 そんなときに僕の心を救ってくれたのは、オクセンシェルナ家の人たちだった。両親の死を悼んでくれて、邪神教団を殺さずに捕らえた僕のことを庇ってくれて、僕の人となりを知っていると言ってくれた。主のおかげではなく、彼らが寄り添ってくれたから僕は救われた。

 彼らは僕の苦しみのすべてを理解してくれないかもしれないけれど、一を理解してくれている。

「誰も知らないなんてことはない。少ない人数でも、僕の気持ちを知っている人がいる。一人でも知ってくれていれば他の誰が知らなくとも、少しでも知ってくれていれば全部を知らなくとも、それだけで僕の心は救われる。その人たちのために僕は戦える!」

 折れかけていた心を何とか奮い立たせる。決して立派な理由ではないが、あの家の人たちのために戦う覚悟を決める。両親との約束を守るために誰も殺めないことを多くの人々から認められなくとも、僕の苦しみを知ってくれている人のために戦う。

 最後の気力を振り絞って聖剣を構える。聖剣を振る体力は回復し、一回か二回なら聖剣から光を放てる気がした。

 後ろを振り返ると、ガナンさんとプレッセルも立ち上がっていた。僕らはまだ戦える。

「そうか。それなら、私帰る」

 僕たちがせっかく戦う覚悟を決めたのに、アチーチは呆気なくそう言った。

「ま、待てよ。なんで見逃すんだよ。僕たちは敵だろ?」

「私も殺したくない、それだけ」

 納得できなかった。人類と魔族は敵対しているはずなのに、見逃す判断を下したアチーチのことが理解できない僕に向かって、彼は平然とした様子で言い放つ。彼の中に見えた善性に、敵対しなくてもいいのではないかと希望を抱く。

「そうか、それじゃあ次だ。次会ったときこそ、お前に勝つ」

「名は?」

「ヒイロ」

「そうか。ヒイロ、またいつか」

「次こそ勝つ」

 そこには怒りも恨みの感情もなかった。悔しさもあったけど、爽やかな気持ちで別れを告げる。アチーチも笑顔で手を振りながら竜の背に乗って飛び立つ。今までに出会ったことが無いような、お互いのことを理解できそうな存在に、心は少し浮かれていた。そんな僕のことを、ガナンさんとプレッセルは不可解そうに見ていた。

 兎にも角にも、目的の竜は追い払った。依頼されていた竜と四天王を逃がしたことを責められるかもしれないが、きっともう大丈夫だった。僕の気持ちを知らない人たちに責め立てられても、彼らのことを恨まない。僕の気持ちを認めてくれる人たちが居てくれたら、きっと僕はもう大丈夫。

「ガナンさん、プレッセル、あの竜を追い払ったことを報告するために村に戻りましょう」

「そうですね。心配いらないことを早く伝えないと」

 あの子どもに、もう大丈夫だと伝えなければ。

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