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陽⑯

 あっという間に夏が過ぎ、九月に入った。

大学では後期が始まる。

 生活の中心がバイトになりつつあるとはいえ、一年からしっかりと学業も両立してきた俺は、三年も後期に入ると卒業までに取るべき単位の大部分は満たすようになった。簡単に言うと、週に何回かの必修科目さえ受講すれば十分に卒業できる状態だった。

 ところが困った事に、その取るべき必修科目とやらが、毎日の午前中に集中しているのだ。最低限の必修科目だけの受講としても、月・木・金の午前中が潰れてしまう。つまり水曜日の定休日を除けば、有希さんのいるランチタイムから働けるのは火曜日だけという事を現していた。

 夏休み中、平日はほぼ毎日のように有希さんと顔を合わせていた俺にとって、余りにも辛い現実だった。これから冬休みに入る十二月後半までの四カ月弱、週一でしか有希さんに会えないなんて。


「うわぁ。これヤバいね。二人とも火曜日しか入れないじゃん」


 側にやってきた乃愛が嘆く。考える事は一緒のようだった。

 幸か不幸か、店の営業は以前にも増して低調だ。八月いっぱいでバイキングは終了し、九月からは元の通りセットメニューでの提供となった。以前の通りAセット、Bセット、Cセットの三種類を用意し、その内Aセットは稲谷シェフの中華定食、BとCはそれぞれ悟さんのパスタランチ、ピッツァランチという構成だ。これだとバイキングとは異なり、稲谷シェフの中華を食べる必然性もなくなる為、悟さんのパスタやピッツァを目当てに客足も少し戻りつつあるという。

とはいえ、以前は平日でも百人近く入っていたのに、今は五十を切る日も少なくない。平日は琴ちゃんと有希さんの二人がいれば、十分回せるはずだった。

 問題は二人の内どちらかが休まなければならないような場合で、運が悪く火曜日以外の日になってしまった場合、出勤できるのは残る一人だけとなってしまう。今の入込だとなんとかなりそうではあるものの、一番のピークタイムを考えればせめてデシャップ・ドリンクカウンター・ホールの三人体制が望ましい。

 とにかく琴ちゃんや有希さんは勿論、久坂マネージャーにも説明をして、場合によってはアルバイトを新たに採用するようお願いしよう、等と話して、一旦乃愛とは別れた。

 しかし、事態はもっと風雲急を告げようとしていた。


『琴ちゃんが入院した』


 九月最初の水曜日の夜、乃愛からのメールに俺は飛び上がった。

 どうやら八月末から発熱と吐き気が続いていたようなのだが、どうも顔色が悪いというので病院に行ってみたところ、今すぐ入院して手術が必要だと言われたらしいのである。

 琴ちゃん本人も完全に晴天の霹靂で、荷物を取りに帰る暇もなく病室に収容されてしまい、旦那さんや家族も巻き込んでてんやわんや。とりあえず店には連絡が入ったものの、何がどうなっているのか本人すら飲み込めていない、という状況らしい。


『どうなってんの? ヤバい病気?』

『わからない』


 聞くまでも無かった。本人すら理解できていないというのだから、乃愛や店の方でもまだ把握はしていないのだろう。


『とりあえず明日は私出る。明後日は陽君お願いできる?』


 明後日といえば構造実験の日だ。必修科目を休むのは気が引けるが、呑気なことを言っている場合でもない。咄嗟に『わかった』とだけ返信した。


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