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陽⑫

 お盆明けの日曜日は、毎年この地域の夏祭りの日だった。

 通りを二つ程挟んだ新川の河川敷が花火大会の会場となり、沢山の出店で賑わう。店の前の遊歩道はちびっ子祭りの会場で、ヨーヨー釣りや金魚すくい、輪投げといった縁日を地元の青年会議所が開いていた。

 この日はディナー営業をやめて、店の前で出店販売を行う。昨年のメニューは生ビールと揚げパスタ、ミネストローネ、折り畳んだピザのようなカルツォーネを販売し、なかなかの売れ行きを見せた。

 出店は俺と乃愛、久坂マネージャー、そして悟さんに稲谷シェフの五人で担当する事になった。

 今年のメニューは昨年とは打って変わって、トンポーロー・パオズ。蒸しパンの間に豚の角煮を挟んだ、いわゆる角煮まんだ。後は、お馴染みの冷凍ポテト。角煮まんも冷凍の出来合い物を稲谷シェフが大量に発注していた。


「このまんませいろに入れて蒸しときゃいいんだから、楽だろ? 祭りなんだから、面倒な事しちゃいけねえよ」


 そう言ってふんぞり返る手には生ビール。始まって間もないというのに、もう五杯目だ。その隣で、悟さんは黙々とポテトを揚げている。ちびっ子広場の目の前だけあって、ポテトはポツポツと売れた。とはいえ小さな紙コップに一杯で五百円と割高だから、お金を払う親の顔色はあまり良くなかった。

 去年のミネストローネやカルツォーネが飛ぶように売れたのとは雲泥の差である。去年は見慣れた常連客も沢山顔を出しに来てくれた。「今日しか食べれないんでしょ?」とわざわざカルツォーネを買い求めに来てくれた人もいたぐらいだ。


「おう、ようよう。もっと声出せ。客引きしろよ」


 稲谷シェフに急かされて、俺はただひたすらに声を張り上げた。


「生ビール、豚角煮マンいかがですかー。揚げたてのポテトもありますよー」


 お祭りの喧噪の中で誰一人として聞いているとは思えず、空しさばかりが込み上げてくる。でも俺が黙ると、悟さんがポテトを揚げるシューシューという音しか聞こえず、余計にうら寂しい想いに捉われる。

 去年は次から次へと客が来てくれたお蔭で、乃愛や久坂マネージャーと一緒に声を出して一生懸命盛り上げたものだった。高杉シェフもノリノリで、半ばナンパ紛いの勢いで「そこのお姉さん達、サービスするよ!」なんて声掛けたりして。乃愛に対しても悟さんまで混ざって「露出が足りないんじゃないか」とか「もっとスカートを短くしろ」とか「ブラウスのボタンを開けて谷間ぐらい見せろ」なんていつもよりセクハラ全開で。でも稲谷シェフとは違って乃愛に対するセクハラも冗談と愛情のスパイスがたっぷり効いたものだったから、本人含め、誰も不快に思う人なんていなかった。

 あまりにも暇なので、そんな風に去年の思い出を思い起こしてしまう。そう、あの頃はもっと和気藹々としていて、でもみんな真剣で――とにかく楽しかったんだ。

 淡々とフライヤーの前に立つ悟さんと、所在無げに店内とテントを行き来する久坂マネージャー。ただただ飲んだくれる稲谷シェフ。時折思い出したかのように張りのない声で「いらっしゃいませ」と言う乃愛。

 乃愛ともあれ以来、なんとなくぎこちなさが残っている。俺は同じアルバイトにも関わらず久坂マネージャーの肩を持つ乃愛が不満だったし、乃愛もまた、そんな俺にすがるような視線を向けてくる。表面上はこれまで通り取り繕いつつも、ぎくしゃくした雰囲気は拭い切れなかった。

 なんだかもう、ここに立っているのが苦痛にさえ感じられるような時間だった。

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