84話 ムニャムニャ村①
卯京さんの話を聞かせてもらった後、久々の車だったのに、気づけば俺たちは寝ていたようで、卯京さんに起こされてしまった。ムニャムニャ村に到着したっぽく、そこは雲の形をした建物がたくさんあり、毒はここにないっぽい。車から降りて村人たちは、眠そうな顔をしながら、俺たちを見ていた。
そしてとんがり帽子をつけた少女が羊のぬいぐるみを持って、目を擦りながらこっちに来る。
「ムニャムニャ。よく見れば卯京。どちたの?」
「おー出雲。しばらくこの二人を預かっててほしくてな」
「ふむふむ。青藍の葉桜とロゼ姫ねえ。ラジャーだけど、もう一人は?予定では三人だったはず」
「王からの命で二人だ。んじゃ俺は一旦城に戻るが、この村から絶対に出るなよ。出たら毒死するからな」
ありがとうございますと卯京さんに告げ、卯京さんは車を走らせてドクノ王国へと戻った。
「二人とも、よろちく。ねむは羊出雲。案内したいけど、眠いからねむん家で一眠りしてからでもいい?」
「よろしくお願いします。俺たちも少し休ませてもらおっか」
「うん。あの羊さん」
「どちた、ロゼ姫。羊じゃなくて出雲で構わんよ」
雫はじゃあ出雲さんと呼び直してあることを、出雲さんに聞く。
「もしかして千年前にいらっしゃったデステクライン使いの方ですか?苗字が特殊だったので」
「そだよん。まあ詳しいことは一眠りしてから話すよ。ふわぁ」
大きな欠伸をする出雲さんであり、俺たちは出雲さんの自宅へとお邪魔することになった。家具も何もかもふわふわすぎて、これじゃあ三秒いく前に即寝しちゃいそうだ。
キッチンやリビングにあるものは勝手に使っていいらしく、そしてリビングに置かれてあるものに懐かしさを感じてしまった。それはテレビだ。
今まで他の国にはなかったのに、ドクノ国では家に一台テレビがついているらしい。しかもゲーム機もあり、紫を選んでおけばよかったと思ってしまうほどだ。ただ現世でやっていたゲームはなく、ドクノ国で売られているゲームらしい。
「これやってみよっかな」
「なにそれ?」
「アクションゲームっぽい。そっか、雫はこういうのやったことないんだっけ?」
「うん。私はどちらかというと本が好きだったから、こういうゲーム機で遊ぶとかはしたことなかったかも。私は気になった本読むから大丈夫だよ」
そっかとお互い好きなものをしていて、苦戦したり、スムーズに話が進んだりとかで、俺たちはいつの間にか眠りへとつく。
ここはどこだと目を覚ますとそこは現世の世界だった。俺はなにをやっていたんだっけと、起き上がるとそこに芽森がいる。
「想兄、早く起きて。置いて行かれちゃうよ」
そう言われてあれは全て夢だったのかと、起き上がった。真夏でうるさい蝉が合唱をしているような感じ。着替えて下へ降りると、そこには兄貴、いや颯楽兄とそして凪嬉兄がいた。
二人は全く同じ顔で、見分けがつかないと思っていても、俺にはわかっていた。遅いよと二人に笑われながら、ごめんと言いつつ、玄関の扉を開けた瞬間、景色が変わる。
颯楽兄は白装束の格好をしていて、凪嬉はシロノ団員が着ているようでも、どこか華やかさを持っていた。そして芽森は葉桜をイメージした色打掛を着ていて、芽森の隣には辰弥が立っている。辰弥は俺に向かって嘲笑うような笑みを浮かべ、芽森が俺のところに来ようとするも辰弥に引っ張られ連れて行かれる。
その後、颯楽兄も行ってしまい、凪嬉兄は悔しそうな表情をして、凪嬉兄も行ってしまった。待ってくれと手を伸ばした瞬間に、ガバッと起き上がる。
今のは一体と顔に手を当て、もうすぐなのかもしれないと恐れてしまう。
「ようやく悪夢からお目覚めのようだねん、想心」
「もしかしてわざと?」
「ふふん。最悪な夢というのは、時に正夢になることもあるんよ。夢に起きた出来事を防ぎたいのなら動くべし。しかし、想心が寝たのは三時間ぐらいで、悪夢から逃げられたようだけど、ロゼ姫ちゃん、ちょっとやばいかもしれない。もう少し様子見て、強制的に起こさないと、ロゼ姫ちゃんが危険。とにかく、顔洗って来なさいな」
「あっはい」
雫は今、どんな夢を見ているのか気になるも、結構魘されていたことがわかるぐらい、汗ばんでいた。
◆
ここはブラックノ城だよねと歩いていたら、後ろから抱きつかれて、耳元で囁く声に体が震えてしまった。
「んっもうなあにびびってんの?」
「伊雪さん…」
「しっかし、まさかリンクするとはねえ」
「リンク?」
そうっと私から離れてくれる伊雪さんは、興味津々のように城壁に触れている。
「やっぱり、ロゼ気づいてないの?」
「なにを?」
「ここはロゼがしまい込んでいる心の中のようなもん。それを夢に引き立たせている。しばらくすれば強制的に夢から解除されるかもだけど、そこにいるんでしょ?出てきなよ」
私の夢の中にもう一人いるのと伊雪さんが見ている方角を見ると、そこには夏海ちゃんがいた。夏海ちゃんは今でもカステクラインを起動させようとしている。
「雫ちゃんから離れてほしいな、暗野伊雪さん」
「やなこった。そもそも、ずっと心の中に潜んで伺ってたんでしょ?柘榴夏海、いいや、元ロゼ姫」
えっと困惑していると夏海ちゃんはひんやりとした笑みを浮かべながら、正体が変わって私と似た人だった。黒い着物で絵柄は雫模様。
「アンジに気づかれず、過ごしてたのに、なあんで言っちゃうのかな。後もう少しで体奪えたのに」
「ふざけんな、元ロゼ姫。紛らわしいからロゼのこと雫って言うけど、今度の儀式も阻止させてもらう」
「そうさせないよう、準備は進めてる。あなたたちはもう二度と手が出せないよう仕組ませてもらったの。だから雫、その体私にちょうだい」
「セブラがどんな想いでずっとここにいると思ってんの?あんたがアンジを引き留めたせいで、アンジは」
伊雪さんが一瞬で吹き飛ばされ、伊雪さんの元へ行こうとしたら、足に何かが絡まって動けない。
「雫ちゃんともっと遊んでてあげたいけど、現世から指示もらったから、雫ちゃんの体を奪わなくちゃならない。いいよね?」
「私はこんなこと望んでない!それに想心の妹ちゃんの人生を奪いたくないよ!カステクライン!水、海王の叫び!」
伊雪さんに影響が出るかわからないけれど、鯨が現れ叫んでくれて足に絡まっていたものが解除された。私は真っ先に伊雪さんが吹き飛ばされた方角へ逃げ込む。
夏海ちゃんが以前のロゼ姫だっただなんて信じたくなかった。じゃあ、じゃあ今までミズノ国にいた時、たまに遊びに出かけてくれていたのも、嘘だったってことになるの。とにかく夏海ちゃんから距離を離したくても、目の前に夏海ちゃんがすぐいる。
「逃げないでもらいたいなぁ。本当はさ、あたし、龍ノ姫と一緒に龍宮にいくはずだったのに、千年前阻止されちゃって、龍ノ姫は現世へと逃げこんだ。役目を失ったあたしはロゼ姫の力を失い、なにも得られなかった。けどね、あたしに力を与えてくださった人がいたの。それが誰だかわかる?」
その言葉に私はすぐその答えが出てしまった。嘘であってほしいと願いたかったけれど、本当なんだと夏海ちゃんの顔でわかってしまう。
「私たちのお父さんだよ」
お父さんがいつの時代の人なのか聞いたことがなかった。私は偽りの記憶を持たせてくれたことで、ロゼ姫の役割を忘れていたこと。きっとお父さんは私じゃなく、夏海ちゃんを再度使用するために色々と準備をしていたんだ。
「お父さん酷いんだよ。雫の人生を奪いたくないから、代わりにあたしがもう一度役目を果たしてほしいって。そんなお父さんの言いなりにはなりたくなかった。あたしだって、役目から離されて、自由気ままに過ごしてたのにさ」
「じゃあどうして、私の体を奪おうとするの?」
「それは龍桜家の人と約束したの。今度はあたしが現世に行って、自由に暮らせるようにしてくれるって。その代わり龍ノ姫は龍宮に閉じ込める」
「こんなことしなくても」
夏海ちゃんが近づこうとした瞬間に眩い光が間に挟んできた。なんだろう、この優しい光はと光が消えるのを待つ。するとそこに現れたのは、玖朗団長だった。
「玖朗団長」
「あの檻に入ってれば、怖い想いはしなくて済んだと言うのに」
「あそこは退屈すぎて…」
「ふん。まあ伊雪の構い方がうざかったんだろう。おい、ここは雫の心だ。早く出てってもらえないか?」
やなこったと夏海ちゃんは光の兵を数体出して、囲まれてしまう。
「そっちこそ、穢らわしい邪心を出さないでもらえるかな?」
「お前が出れば俺も出る」
「本当に昔から変わらないね、玖朗。まあいいや。今の段階では襲わない。ただもう時期だってこと、忘れないでね。待ったねえ」
そう言って夏海ちゃんはいなくなった途端に、力が抜けてしまったのか、体が崩れそうなところ、玖朗団長が支えてくれた。
「あたしっどうすればっ」
「今はゆっくり休め。雫がちゃんと眠れたら俺は出ていく。それから想心に伝えてくれ。もう時期迎えに行くから覚悟しておけと」
「うん。助けてくれてありがとう」
玖朗団長の温もりが心地よくて、私はすぐ深い眠りへとついた。
◆
雫の様子を見ていたけれど、最初はかなり魘されていたが、落ち着きを見せぐっすり眠れている。その間に出雲さんは雫の汗を拭き取っていた。
「どうやら救世主が現れたらしいん。さて想心、これからどう動きたい?」
「いや、まだ心の整理がついてないというか。それにアンジを置いて来て本当によかったのか、今更だけど思ってしまって」
「ふふーん。そう言ってるよ、鳩柱くん」
開いている窓から鈴翔が現れ、扉から入って来いと突っ込みたいぐらいだ。やっぱりアンジが暴れたんだよなと思っていると、鈴翔はなぜか苛立っている。
「前からその呼び名はやめていただけませんか?柱だと誰かに気づかれたら、後々困るんで」
「いいじゃない。どうせ、想心を追いかけるよう命じられたんでしょ?んで状況はかなり?」
「かなり酷い状況でした。一度は光の暴走を止めましたが、次発作が起きれば国が滅ぶ可能性が高いと、仰っています。直ちにアンジさんのそばにいてほしいそうですが、想心さんの整理がつくまで、アンジさんのそばに誰かをつけるようです」
本当に悪いと鈴翔に謝ると、いえと鈴翔があることを言い出した。
「僕たちはアンジさんをこれ以上、この世界に縛らせないように準備は進めているのでお構いなく。それから妙な光を探知したんですけど」
「さあ、なんのこと?」
ニカッと微笑む出雲さんであり、鈴翔はそれを探りに来たらしい。妙な光ってどんな光なのかは不明だった。鈴翔は目を細めて言いたげそうな表情をするも、ため息を出して俺に言う。
「また伺います。その時に、答えは出してあげてくださいね」
俺に告げた後、鈴翔は光っていなくなった途端に、出て来ていいよんと誰かを呼んだ。誰だと出雲さんが見ている方へ向くと、そこにはなんと暗野伊雪で、俺はつい指を指して台詞を言う。
「湘西さんの魂返せ!」
「やなこったって言ってんでしょうが。本当にあの子感が鋭すぎるわ」
「まさか出雲さんはミッドヴィーク?」
つい身構えていると、暗野伊雪は俺を無視して雫のほおに触れる。
「団長がうまく交代してくれたからよかったけど、団長が行かなかったら目を覚ますのは元ロゼ姫だった」
「元ロゼ姫?」
身構えるのをやめ暗野伊雪に聞くと、出雲さんが代わりに教えてくれた。
「柘榴夏海ちゃんとして過ごしてる子で、本当の姿は雫に似てるよん」
「あーそうだ。想心、これ渡してほしいって思穏から」
思穏がと暗野伊雪が取り出した物というか、なぜか達筆で果し状とあり、思穏じゃないだろと思ってしまう。渋々果し状の内容を確認した。
ムニャムニャ村の広場で決闘を申す。もし僕が勝ったら美命ちゃんの魂は僕がいただく。もし僕が負けたら美命ちゃんは想心に返す。以上
どういうことだと疑問を浮かべていたら、暗野伊雪が笑いながら言い出した。
「今ねえ、想心の想い人は思穏と一緒にいる。つまり思穏の中にいるってことだよ」
「意味がわからねえよ」
ついその果し状を突き返して、どすんっとソファーに座る。
「てっきり知ってたと思ってたんだけどなぁ。思穏が美命のこと好きでも、気持ちを抑えていた。それが今、出ようとしてる」
俺たちはここで愛し合っても意味がない…なんで今更なんだよと思ってしまった。それに思穏らしくない部分もある。
「少し考えてもいいか?」
「伝えておく。団長が戻ったっぽいから戻るわ。それと一つ。沙緒りんの魂を返してほしければ、想心がデステクライン使いになったらあの子に返すから」
ニカッと見せびらかせながら微笑み、暗野伊雪は去っていく。
「それで、出雲さんはどちらの味方なんすか?」
「ふふ。それはだねーーー」
◆
あれを書いてくれたのはセブラで、ちゃんと届けてくれるのだろうと思うけど、想心があの程度で乗るわけがない。それに美命ちゃんには打ち明けてあって、その答えが僕の心を暖めてくれたんだ。
数時間前……
「思穏くん、どうしたの?」
「気づいてたかもしれない。その僕」
恥ずかしくてうじうじしていたら、セブラとみよりさんがのぞいて、にこにこしていた。セブラがほらほらというようなポーズをして、見られたら余計に言いづらいじゃんと思ってしまう。
ただ言われていたことがあった。後悔しないように、打ち明けておくことだぞってセブラに教わっていたから。
「美命ちゃん、僕ね、美命ちゃんのことが好きだった。ただいつも想心といい感じだったから、なかなか言えなくて」
伝えてみると美命ちゃんは嬉しそうに微笑んで、ありがとうと感謝される。
「思穏くん、ありがとう。その気持ち、聞けて嬉しかった。私ね、想ちゃんに言われていたことがあったの」
「想心が?」
「うん。入院してた時、思穏くんがいない時間帯にね、想ちゃんが来て言われたの。思穏くんが私のこと好きみたいだよって」
えっとつい固まってしまい、僕は一度も想心に本音を伝えてないはずなのに。すると美命ちゃんは僕の手を取って美命ちゃんの言葉を聞く。
「実はね、私も思穏くんのことが好きだったの。今もその気持ちは変わらない。ただね、私にはもう一人大切な人がいる」
「想心?」
「うん。想ちゃんは私の初恋の人であっても、この恋はしまってた。ほら、私いつ亡くなってもおかしくはない病患ってたから、想ちゃんには言えなかったよ。それで想ちゃんが思穏くんを連れて来てくれた日、嬉しかった。私のせいで友達と過ごす時間を無駄にしてほしくなかったから」
美命ちゃんにとって僕は友達としての好きなんだねと、認識していたらこうも言ってた。
「思穏くんと出会えて、私がいなくなっても想ちゃんは一人ぼっちじゃないから大丈夫って思えた。三人と過ごした日々も、思穏くんが屋上でヴァイオリンを弾いてくれた日々も、私の中で宝物であって、欲張りだけど想ちゃんと同じぐらい愛おしさを感じたの」
「そう思ってくれてたんだね」
「うん。もし私が現世でまだ生きてたら、三人で学校行ったり、三人でどこか出かけたりしてたのかなって。いずれかは二人を選ばなくちゃならないって思ってたけど、私はやっぱり一人を選べないよ。だからきっと友達以上恋人未満だったかもしれない」
「僕は振られてもかまわなかったよ」
それでも美命ちゃんは僕と想心の関係を壊したくないという想いが伝わってくるから、これ以上は言わないでおこう。
「美命ちゃんの気持ち聞けてよかったよ、ありがとう」
「こんな私を好きになってくれて、ありがとう。それでどうやって想ちゃんをこっちにつかせるの?」
現在……
僕と決闘してくれるのかはまだわからないけれど、美命ちゃんはすごい嬉しそうな表情をして、みよりさんと何かを話してる。もしかしたら現世で過ごしていた日々を教えてるのかな。
すると伊雪さんが戻ってきて、セブラがガミガミ言うものだから、吹き飛ばされてしまうセブラだった。
「伊雪さん」
「話はつけておいたけど、少し考えさせてほしいってさ。あまり時間ないから、早めに回答はほしいけど、あまりにも遅かったらムニャムニャ村に行ったほうがいいかもね」
「ありがとうございます。もう少ししてから、行ってみようと思います」
伝言は伝えたからねと伊雪さんはいなくなってしまい、セブラがイライラしながら戻ってくる。
「少し光があるからって俺に当たるなよって言いたいんだが、まあいい。それで思穏、ここで試験をしておくぞ」
「わかった」
三段魔導士になれば現世に行けるし、芽森ちゃんの様子をまじかで見れるかもしれない。セブラが準備をし始め、僕は復習をすることにした。




