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「華月君、次移動な、ほら支度して」
元から意外と面倒見の良いクラスイケメンの鹿島 悠緋が、海に言った。
驚いた海は、ノートやら筆記具やらをばら撒きそうに為り、慌ててやはりばら撒いた。
「え、華月君て意外とドジ…」
手伝う悠緋を余所に、思わずそう口にする、原 理だったーーその頭を気付いた相瀬良が、持っていた荷物でバシッと叩く。そして言うーー
「手伝ってやれよオマエは……お〜い、悠緋、大丈夫そう?」と、声を掛ける。
「うん。ほら、行こう。加野達、先に行ってるからさ。」
その光景を声も掛けれずに見ていたのはーー海のお近付きに成りたいクラス女子達だったーーずるいと。今日は朝から原 理が、華月家訪問を自慢していたのだーー悔しい。御父様が料理上手な美形だと?!ーー悔しい。おまけに、御兄様までイケメンらしいーー華月家の遺伝子はどうなっているのかしら?と。
流石に兄が、卓や友や律だとは気付かれていないのだが。何しろ海とはあまり似ていないので、其処は幸いしていた。
移動中海はふと悠緋達に聞いてみた。『鹿島君、加野君と一緒に行かなかったの?』と。悠緋は加野は『先生に呼ばれて職員室』だと教えてくれた。『だから光明ーー弓削達は先に行ったんだよ。席取らせてるから。前の方のが見やすいだろ〜』と、相瀬良が言う。
次の授業とは英語なのだが、教師が『生きた英語、使える英語』とか言い出した。つまりは、次の時間は視聴覚室で映画を観る事に為っている。加野はその準備の手伝いに行ったのだった。委員長って大変だねと海は言った。相瀬良と悠緋が何故か笑って、原 理は何故か呆れていた。海は素直に僕、変な事言った?と聞いたが、理は呆れたままだった。
「華月って……大学行かないの?」と、突然聞かれた。言ったのは原だった。
海は多分行くと思うと答えたが、何故今聞いたのだろうと、そう思った。
それの答えを教えてくれたのは、悠緋だった。
加野は内申点が欲しいのだと。クラス委員や生徒会の活動は、内申書に記載されるのだ。
海は今迄、進学とはそんな難しい事だと思った事は無かった。兄達は、友を除いて皆、大学に進学した。ジャンルは其々だったが。海は兄達と少し距離を置いている今、今迄本当に『兄達』の事しか見ていなかったのだとーー思い知らされた。
「え〜と、…………そんな落ち込む事でもないぞ。……華月って真面目だな………やっぱり。」
落ち込んでいた事に、気付かれたらしく、相瀬良にそう言われた。……自分を真面目だと思った事は無かったのだが。
答えようと思ったのだが、彼等は視聴覚室に着いてしまった。弓削 光明と、仲嶺 深織が、前の方の言わば特等席とも言う様なポジション取りをしていた。七人分、ノートやペンケースで場所が確保されていた。………凄いな。………皆映画好きなのかな。海は好きと言うより、友や美津之達を見る為に『観た』。友も格好良いが、美津之やナオトの演技も凄いと思った。本人達を知っているせいだろうか、スクリーンの中の彼等は『別人』だと思った。自分には成れない世界だと。海は誇らしく『観る』だけでいいーーと、そう思った。緊張するとドジを踏む性格な事は自分でも分かっていた。俳優なんてとんでもないと。『さっきみたいに、ノートばら撒いちゃうだけだよな。僕は。』そんな海だからこそ、巧より律に懐いてしまったのだろう。普通の『学生』の巧よりも、モデルをしながらも、学業もこなして居た『律』に。一番近い憧れだったのだ。律の存在が。
彼の本心は『成りたい』のかも知れない。けれど海自身にも其れは未だはっきりと判った感情では無かったのだ。恥ずかしさが勝つ。臆病になっていた。
「今日の映画、『らびっつ』だよ」と、弓削が言った。
「え?」
海は思わず焦った。らびっつーー『Rabbits』は、友主演の映画で在るーーしかも卓も出ていた筈だ。……………落ち着け。別にお兄ちゃんが『此処』に来る訳じゃないし。…………此処、羽澄高校は実は友の母校でも在った。卒業したのは何年も前だーー友兄ちゃんの痕跡なんて残って無いよーーと、海は思い、受験したのだ。驚いたのは友は、『特選』だったーー『首席』入学、『首席』卒業。然し進学する事は無く、卒業と共に俳優デビュー。元々モデルだった。友兄がモデル卒業して、律兄の人気が急上昇したとか。……………もしやわざと…………だったのかも。元から俳優目指してた……らしいけど。10年位前の話だしなあ。良く知らないんだよな。当時海は幼稚園児で在る。知っている方が可笑しいだろう。因みに『らびっつ』は、別にうさぎの出て来る話では無い。『臆病者』と言う意味だ。
「よしっ、おれ、華月 友、好きなんだよね。この高校出身だから、期待してた。」と、原はご機嫌に成った。
海は青褪めて『観た事ある?』と聞いた。
「は? 華月は映画きらい? 華月 友、格好良いぜー、演技が引き込まれるって言うかな…………………え、……………あれ。………………待って、まさか。……………あれ?」
原 理は困惑し出した。何かに気付いた。二日前に、海の父と兄を『見た』ばかりだ。多分気のせいでは無いだろうとそう思った。
「うん、…………あのね」
海がそこ迄言った所で、教師が教室に入って来てしまった。加野が後からついて来ていたーー
その後から、教室にひょいっと顔を出したのは、真逆の兄、華月 友だった。
「おっ、海君、発見。元気だったか?海。」
そう言い手を振る友。それだけではなかった。
「友、止めろ。目立つだろ。」
卓も居たのだ。ふたりとも、アメリカに在たのに、何してるの?龍兄は?一緒に帰って来たの?
海は思わず泣いてしまった。焦ったのは卓だった。
「わ〜海! ほらみろ、友!脅かすから! 海、ごめんな?大丈夫か?」
近くに来た卓が、海の頭をよしよしする。……………子供かっと、突っ込める勇者は残念ながら居なかった様だ。
溜息の出る程の段違いの美形が、男子高校生の頭を撫でてなだめる………………シュール過ぎる光景に、声を出せる者は居なかった。
「お前等、いい加減にしろよ?」と、ただひとりを除いては。
「卓、可哀想だから止めてやれ。海が固まってるだろうが。友、問題起こすなって、言ったよな?」と。
「…………………お父さん………。」海がそう言った。
友と卓に続いて海を驚かせた男はーー父、陽藍だったーー。家でのラフなデニムにゆるいニットの様なスタイルでは無く、タイを外したスーツの着こなしだった。何時もの3、4倍格好良いなと、思わず海は思ったが、免疫の無い他の面々は固まっていた。
唯一浮き足立っていたのは、英語の教科担当で在った。
「学長、親子のスキンシップはその位で、こちらに。いやあ、お父さんにまで来て貰えると思って無かったんで、嬉しいです。なあ、友。お前アメリカとか。行っちゃうもんだからさあ、遊びにも行けんし、卓さんともお父さんとも超・久々だわ。そう言う訳で、今日はこいつのアメリカ映画デビュー作、『らびっつ』を流します。ついでに本人も呼んだので、たっぷり英語を『教えて』貰おうなあ。俺のオススメは、『学長』です。俺は高校時代、この『陽藍先生』に勉強教えて貰ってました。先生に成れたのも、この人のお陰です。凄い人なんだぞ。まあ、後でゆっくり説明します。とりあえず始めます!ほら、適当に座れ〜」
「まて、なんだ、ついでって。俺はお父さんのおまけか何かか?橋・本・君〜?」
英語教師に、友兄は、肩に手を置き、詰め寄ったのだったーー
ふっ、友、大人に成れーーとか何とか、英語教師は言っていたのだったーーお父さんに『さっさと始めろ』と、諭されるまで。




