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第379話:誰の味方 その3

 翌朝、朝食を取り終えたレウルスは、普段通り装備を身に着けてからコルラードのもとを訪ねていた。


 キマイラとの戦いで『熱量解放』を使ってみた結果、そして昨晩ネディと話してみた結果、頼みたいことができたからである。


「おはようございます、コルラードさん。いきなりで申し訳ないんですが、頼みたいことがあってですね……」

「貴様からの頼み事となると嫌な予感しかせぬが……言ってみるが良い」


 レウルスと同様に朝食を取り終え、早速町造りの指揮を執るべく動き出そうとしていたコルラードだったが、レウルスの表情を見て動きを止めた。その表情が真剣なものだったからである。


「町造りで忙しいのは重々承知しています。これ以上コルラードさんに負担をかけるというのも心苦しいのですが……可能なら、また俺に稽古をつけてほしいんです」

「ふむ」


 昨日キマイラと戦った感触としては、今まで以上に『熱量解放』に振り回されている部分が多かった。身体能力が向上していても、そこに技術を伴わせるのが困難だったのだ。


 そのため再びコルラードに師事し、少しでも技術を磨きたいとレウルスは考えたのである。

 剣だけでなく、“戦い”に関してコルラードは様々なことを教えてくれた。しかしそれはほんの一ヶ月程度のことであり、レウルスも最低限度学べたとしか言えない。


 しかも、コルラードから技術を教わった時は『熱量解放』をほとんど使わなかった。魔力の関係もあり、使ったのはコルラードから“一手”、技を教わった時ぐらいである。

 だが、今の状況ならば魔力に関して不安もない。むしろある程度使用することで『熱量解放』に関する理解を深めることができ、戦力の向上につながる可能性もあるのだ。


「今度は本気で、魔法ありでの戦い方を学びたいんです……是非お願いします!」

「……ふむ」

「昨日キマイラと戦った時と同じぐらいの力が出ると思いますけど、コルラードさんなら大丈夫ですよね?」

「よし、ちょっと待つのである」


 両手を上げ、『ちょっと待て』と言わんばかりにレウルスを押し留めるコルラード。その反応にレウルスが首を傾げていると、コルラードは目を細めた。


「そこで何故不思議そうな顔をするのか、吾輩には理解できんのである……一応確認しておくが、もしや貴様、吾輩に対して恨みでもあるのか?」

「え? 恨みなんてとんでもない。コルラードさんのことは尊敬していますし、すごい人だと思ってますよ?」


 レウルスもこれまで様々な戦いを潜り抜けてきたが、上級の魔物だろうと戦えたのはエリザやサラとの『契約』、そして『熱量解放』という隠し玉があるからだ。


 『契約』による身体能力の『強化』と『熱量解放』を除いてしまえば、レウルスの戦力は一気に落ちる。今ならば自力で『強化』を使うこともできるが、戦闘中に使うには心許ない。

 どれだけ実力を高く見積もったとしても、昨日のキマイラには勝てないだろう。化け熊には勝てるだろうが、それ以上の魔物となると勝てる確信はなかった。


 その点、コルラードの強みは一から磨き上げてきた技術である。剣に限らず様々な武器の扱いを学び、実戦で鍛え上げてきた。その過程で積み重ねてきた経験と努力は、レウルスにとって尊敬に値する。


 心底からの本音でレウルスが答えると、コルラードの右手が何故か胃の辺りへと移動した。


「だから何故貴様の評価はそこまで高いのだ……最低限の基本は叩き込んだし、貴様は明らかに実戦で強くなる人間である。吾輩に教えを乞うぐらいなら、一匹でも多くの魔物を狩ってくるのだ。そちらの方がこの町のためになるし、貴様のためにもなるであろうよ」

「……そう、ですか。わかりました。いつも通り町周辺の警戒をしてますね……」


 どうやらコルラードは戦ってくれないようだ。それが覆せないことだと悟ると、レウルスはとぼとぼと歩き出す。


 実際に魔物狩りながら、『熱量解放』の扱いに長けていくのが正道なのだろうか。しかし弱い魔物相手に『熱量解放』を使っても意味がないのではないか。

 そんなことを考えながら歩き出したレウルスだったが、その背中を見たコルラードは一度咳払いをしてから口を開く。


「技術は大事だが、貴様の場合は思い切って力任せに戦ってみるのもアリである。吾輩の魔力量ではどう足掻いても力押しなどできぬが、貴様の場合はそうではない故な」


 そう言われて、レウルスは足を止める。そして振り返ってみると、コルラードはそっぽを向きながら言葉を続けた。


「技術を身に着ければ選択肢も増えるが、貴様の場合は吾輩が取れない選択肢も選べるのだ。それは一種の才であり、得ようと思っても得られぬ“強み”でもある。他者から学ぶだけでなく、自ら掴み取ってみるのも良いであろうよ」


 そう言ってヒラヒラと手を振り、コルラードが歩き出す。


 それはコルラードなりの助言だったのだろう。そう判断したレウルスは大きく頷いた。


「わかりました……それならまずは気合い入れて魔物を狩ってきますね!」

「……ほどほどにな」


 まだまだいくらでも鍛えられる余地があるはずだ。『熱量解放』もそうだが、“素”の実力ももっと伸ばしていかなければならない。


 コルラードの言う通り、魔物を仕留めれば仕留めるほど町造りが安全になるのだ。また、町造りがある程度進めばラヴァル廃棄街の住人が移住してくることを考えると、アメンドーラ男爵領が安全であればあるほど良い。


(昨日は『熱量解放』の感覚が違い過ぎて驚いたけど、それも慣れていけば良いんだよな……よし、たくさん戦ってたくさん食おう)


 シンプルだが、それが強くなる近道だとレウルスは思う。


 そんな決意を抱きつつ、レウルスはエリザ達と共に町周辺の魔物退治に向かうのだった。








「……おかしいな」


 そして魔物退治に出かけた矢先、レウルスは違和感を覚える。


 いつでも魔物と戦えるように警戒しながら森の中を散策していたが、一向に魔物が現れないのだ。

 これまでと比べて森は静かで、魔物だけでなく普通の動物の鳴き声もしない。聞こえる音があるとすれば、それは風で草木が揺れる音ぐらいだ。


「サラ?」

「はいはーい。んーっと……んん? あれ?」


 近くに魔物の気配がないためサラに索敵を頼んだものの、サラも不思議そうな声を上げる。


「えーっと……あっれー? なんかね、全然魔物の熱源が見つからないんだけど……」

「全然? 一匹もか?」

「うん……おっかしーわねぇ。今までなら町の周辺でも少しは引っかかったんだけど」


 眉を寄せながら、むむむ、と唸るサラ。再度周囲を索敵しても、それらしい熱源が見つからないのだ。


 いくら町周辺から魔物が減っていたとはいえ、その全てが消えたことはない。だが、サラが感じ取れる範囲では魔物の熱源が存在しなかった。


「昨日レウルスが暴れたからのう……慌てて逃げ出したのではないか?」

「ボクもエリザちゃんの意見に賛成……かな」


 エリザが不思議そうにしながら言うと、ミーアが口元に手を当てながら言う。ミーアの声色には確信が込められているように感じられ、レウルスは眉を寄せた。


「エリザの“魔物避け”ではなく、俺がキマイラと戦ったから町周辺の魔物が逃げ出したってことか……根拠は?」

「根拠って言えるほどのことじゃないけど……いくら魔物でも命は惜しいよね? この土地に来てからずっと魔物を倒していたし、昨日は“あんなこと”になったし……町の周辺は危険だと判断したんじゃないかな」


 ラヴァル廃棄街の周辺も似たような状況になっていたが、たった一日で周辺の魔物が逃げ去ったことはない。それでもミーアは中級の魔物に分類されるドワーフとして、自身の考えを口にする。


「どう足掻いても勝てない相手だって判断したら普通は逃げるよね? 中には勝てないってわかっていても挑むような魔物もいるだろうけど……さすがにそんな自殺みたいなことをする魔物は少ないよ」

「なるほど……でも、普段は割と魔物の方から突っ込んでくるよな? あれは?」


 サラが傍にいて先に相手の存在に気付いた時は大抵自分の方から突っ込んでいるが、レウルスはそれを棚上げした。


「匂いとか音で人間って判断して襲ってるんじゃないかな? ボク達ドワーフは人間を襲って食べたりはしないけど、他の魔物はそうじゃないしね。昨日の“アレ”を感じ取った身からすると、逃げ出してもおかしくはないかなって思うんだ」

「そう、か……」


 魔物(ドワーフ)の感覚としては、即座に逃げ出してもおかしくないほど危険だったらしい。その事実にレウルスは少しだけ頭を悩ませたが、過ぎたことを悔やんでも仕方がない。


「……ぬ? そうなると、町の周囲にいた魔物はどこに行った……いや、“どこまで”逃げたんじゃ?」

「どこまでって……」


 エリザの疑問に答えようとしたレウルスは、思わず頬を引きつらせた。


 町の周囲から魔物がいなくなれば町造りも安全になる――が、逃げた魔物はこの世から消え失せたわけではない。


「……コルラードさんに報告して、早速調査に取り掛かるぞ」


 町から多少離れた場所まで逃げた程度ならば、そこまで気にする必要はないだろう。だが、アメンドーラ男爵領は他の領地とも接しているのである。


(この土地から逃げ出した魔物が他の領地を襲ったら問題になったりしないか? 相手からするとこの場所から逃げてきたってわからないだろうけど、色々支援してくれている相手にそれはさすがにな……)


 恩を仇で返す形になるのではないか、とレウルスは危惧した。


 そのため町まで駆け戻り、コルラードに事情を説明する。まずはどこまで魔物が逃げたかを確認し、可能ならば仕留めていく必要があるだろう。

 そう判断したレウルスはコルラードから領地の地図を借り、エリザ達を連れて森の中へと飛び込む。あとは迷わないよう注意しつつ、サラの熱源感知に魔物が引っかかるまで突き進むだけだ。


 この時レウルスの脳裏に真っ先に思い浮かんだのは、先日発見したグリフォンの群れである。町周辺にいた魔物がグリフォンの縄張りまで逃げていた場合、何かしらの“変化”が起きる危険性があった。


 もちろん、まずは調査が目的である。グリフォンが縄張りにしていた岩山に近づくよりも先に魔物を見つけた場合、そちらをどうにかする必要もある。


 レウルスはそう思っていたのだが――。


「あ、いた! レウルス、魔物っぽい熱源があったわよ!」

「数は?」

「一、二、三……た、たくさん? 二十より多い……かも? 近づくと増えるから数えにくくて……すごい速さで移動してる熱源がいくつかあるし……」


 サラの報告を受けたレウルスは、周辺の木々の中でも最も背の高いものを選んで幹を駆け上がる。そして目を細めながら遠くを見ると、そこにはサラの報告を裏付けるものが飛んでいた。


「……グリフォンか」


 それは、以前と違って森の上空を飛び回るグリフォンの姿だった。

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