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没落メルトダウン  作者: 小林晴幸
蛇足という名の番外編
202/210

子連れ奇公子珍道中 ~黄金大陸2~



「おい、そこの瓦礫はまだだ。撤去の順番は番号通りに行ってくれ」

「石材の再加工設備が準備できました! 王都の七番ゲート横に仮設置してあります」

「あ、ちょっと! そこの珊瑚はわざと保護してあるの。絶滅しかけている珍しい種だから除去しないでちょうだい。復興のシンボルもかねて、大通りの広場に海水を循環させる特別な噴水を作る予定なの。そこに移動させることで話は纏めてあるから」


 謎の、人のような形状でどこか昆虫を思わせる方々が作業に励んでおいでです。

 妙にくぐもった人々の声が、活気に満ちて方々から聞こえて参ります。

 彼らの話す言葉は、何故かわたくしも知っているものでした。

 ウェズライン王国でも、もう日常では使われなくなった古い言葉……教養の一環として学んでいた、我が国の古語。何千年も前に常用されなくなった言語が、何故かここでは生きた言葉として使われているようですの。

 わたくしも学んでおりましたので、なんとか理解はできますが……端々の細かなニュアンスや言い回しは、学んでいたものと少々違うようです。意味は通じますので、いわゆる『方言』の範囲だと思われますけれど。

 わたくし達は取り囲まれ、兄が「英雄殿」と呼ばれた後。

 ……何故か大きな日除けの作られたベンチに案内され、皆様が作業でお忙しくされている横で、歓待を受けておりました。

 誰も彼もが労働に励んでおられる中、わたくしとクレイと、お兄様は下にも置かぬ扱いを受けております。

 わたくし達の側にただ1人お残りになった昆虫人間(仮)は、さしずめ歓待係といったところですわね。


「ゲゲルルマニカルの実を絞って作ったジュースをどうぞ」

「げ、げげるるまにかる……(※恐らく固有名詞)」

「しかし英雄殿にこんなに可愛らしいお子さんがいらしたとは」

「妹です」


 兄とわたくしの年の差は15。

 わたくしやクレイは年齢よりも少々小柄で、顔つきも幼さが目立つものではありますけれど、兄の顔立ちも童顔と呼んで差し支えないものですのに。親子に間違われてしまうことが軽く屈辱に感じられ、わたくしは即座に即答しておりました。

 兄妹という関係性であってもこの上なく苦労させられていますのに、父と娘ともなれば苦労は如何ばかりか……いえ、そもそも十代に見間違われる兄の、娘ですわよ? この昆虫人間(仮)、わたくしのことを何歳だとお思いですの?


 大した持て成しは出来ないと口にされながらも、わたくしとクレイには綺麗な……そう、綺麗な、群青色と浅黄色と深緑色の三色がグラデーションとなって鬩ぎ合う謎のジュースが饗されました。これは本当に、植物の搾り汁ですの……? 得体が知れないのですけれど、これは人間が口にしても良い液体ですの……? 初めて耳にする植物らしき何かを絞ったモノとのことですが、何やらグラスの中でパチパチ弾けている様子が見て取れるのですけれど?

 わたくしはそっと横目に兄を窺い、兄がグラスの中身を平然と摂取している様子を確認してから試してみることに致しました。

 …………独特の感触が喉を滑り落ちます。

 ですが、味は………………悪くありませんわね?

 特に異常や謎の刺激は感じられません。これでしたら、クレイでも大丈夫そうですわね。


「小さなお子さんに出せるようなものがあまり無くて申し訳ないね。幸い、王宮の温室設備や一部の植物研究所、地底果樹園などは無事に残っていたので、こういう果実のジュースは作れるんだけど」

「あ、そうそう。忘れない内に頼まれていた物を渡しておくよ」

「おお! かたじけない、英雄殿。……なんと、こんなに!!」


 何か約束があったのでしょう。

 兄は鞄から一抱えはありそうな布袋を取り出しました。

 中に入っているものは小さくて硬いものばかりなのでしょう。布が内部から押されて、袋の表面をごつごつと広げているようです。

 ですが……明らかに鞄の内部に納まるような体積ではないように見えるのですけれど、本当に鞄に納まっておりましたの? その布袋。

 わたくしが不思議そうな顔をしているのを見て取ってか、お兄様はわたくしを膝に乗せて布袋の中身を見せて下さいました。


「植物の種、ですの……?」

「当たりだよー。周辺の島々とか、僕らの大陸とか。あちこちに生えていた植物の種だね」

「ああ、此方が渡したリストの植物、全部集めてくれたのか。鳥や人間が運んで他所の地に根付いたものではあるが、元はこちらにも生えていた植物。時間をかければ環境に適応してくれるでしょう」

「渡り鳥が種を運んでくるのを待てば、緩やかに再生していくんだろうけどね。流石にもう住んでいる人がいるんだから、自然回復を待つ時間はないしね」

「本当にその通り。建築物の多くは防護フィールドが正常に作動してくれたお陰で七割方無事に残っていたが、流石に動植物の類はどうしようもなかったようでね……保護が上手く働いて無事だった温室や、研究用の資料として保管されていた種だけでは到底賄いきれずにいる。植物がなくては、生物は生きていけないからな……何とも悩ましい」


 兄と昆虫人間(仮)の会話の内容が、今一つ理解し難いのですが……話の流れを予測するに、わたくし達が現在いる場所、この大陸の動植物が1度全て滅んだと仰っているような気がするのは気のせいでしょうか。

 昆虫人間(仮)の見た目が見た目ですし、全てが怪し過ぎて胡乱な目になってしまいます。

 いえ、そもそも――わたくし、まだこの方のことを御紹介いただいていないのですけれど。

 初対面の相手を前に、紹介もしてくださらないなんてどういうことですの。お兄様?

 不満を眼力の籠めて気の利かない兄を見上げれば、兄ではなく昆虫人間(仮)の方が気付いて下さいました。この昆虫人間(仮)の方……空気が読める殿方ですわね!? 少なくとも、兄よりは空気が読めるように思えます。

 

「どうやら英雄殿と再び(まみ)えることが叶った感動で無作法を働いてしまったようだ」

 

 殊勝に謝罪のお言葉を口にされながら、両手をご自身の首元に添えられて……

 ……えっ!? ど、どどどどうなっていますの!?

 首が! 首が! 首が……取れてしまわれましたわよ!?

 

「済まないな。他大陸の子には異様に見えただろう。……何分、幾千年にも及ぶ冷凍睡眠……疑似的な死? 仮死? 何と言えば良いのだろうな、冷凍睡眠という概念の知識を持たない幼子になんと説明すれば良いのか少々悩むが……そうだな、長い長い眠りから我らはまだ目覚めたばかりでな。想定されていたよりも長く眠り過ぎてしまったせいで、まだ我らの肉体は万全ではないんだ。生命維持装置を組み込んだ、この防護スーツを着ていなければ、長時間の活動は難しい」

「あの、何を仰っているのか理解が難しいのですけれど……もしかすると疑似的な冬眠をされていた、という解釈でよろしいのかしら? 人は冬眠可能かという疑問が残りますけれど」

「……凄いな! 英雄殿、貴方の妹凄いな! ちょっと賢過ぎないか!!?」

「あはははは。ミレーゼちゃんはお勉強のできる子だってお母様も仰っていたからね」

「お勉強ができるってレベルじゃないんだが!?」


 わたくしが、首だと思ったものは首ではありませんでした。

 昆虫のようにも見えると訝しく思っていたモノは、謂わば外殻……着脱可能な、さながら鎧のようなナニかであったようです。衣服と言うには仰々しいので、やはり鎧が近い様に思われます。

 頭部だと思ったものは、鎧に例えれば兜のようなもの。

 兜を外した下にも、また薄い兜の仮面と兜が一体化したようなナニかを身に着けておいででしたが……やがて、驚きの声でわたくしを称賛しながらも頭部を覆っていた全てを取り外していかれます。

 今までお顔を隠していた、兜のような仮面のような、覆面のようなもの。

 全てを取り払われた時、現れた容姿は……


「朕の名はウェズ・ラ・イール・ソルス・アトラ、この大陸を統べる王だ」


 白金の如き、髪。

 陽光を弾く黄金のような瞳。

 そして蜂蜜の上澄みに、金粉をまぶしたような……煌く蜜色の、肌。


 あの?

 この外見的特徴……わたくしが以前拝見した方々よりも、数段上に位置する美しさではありましたけれど。

 ですがやはり、何やらとてつもなく、どこかで見た誰か達を連想してしまいますわ。

 わたくしの気のせいでは……ありません、わよね?



 


接待係改め、王様

 三十代から四十代くらいのお年頃。 

 年頃の王女と、昔は幼い王子がいたらしい。

 アロイヒになんかやたら凄そうな武器をあげちゃった張本人。


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