子連れ奇公子珍道中 ~黄金大陸1~
兄の反則的移動経路「空中」を経て、わたくし達は何処とも知れぬ場所へと運ばれて行きました。
当初は補給の心配を致しましたが、兄は以前にもこの辺りを飛んだことがあるのでしょうか?
迷いなく、幾つかの島を経由しながらも進んでいるようです。
途中で人魚や、三つ目の老婆や、頭部の存在しない巨人や一本足の巨人といった未知の生物に歓待を受けたり、追いかけられたりも致しましたが……思い出したくもありませんわ。
お兄様は8歳児に、何故に斯様な衝撃体験を味合わせるのでしょう……。
何処を目指しているのかは存じませんが、わたくしや幼いクレイを連れて、どうして前進を止めてくださらないのでしょう。
何度も抗議致しましたが、兄には何を申しても馬耳東風となってしまいます。
兄の真意が知れたのは、終に目的地への到着と相成ってからでした。
「ここは……」
兄がわたくし達を連れてきた、場所。
今までに補給で立ち寄った小さな島々とは、明らかに様相が違いました。
広い大地。
ですが小さな島にもあった植物の類は見当たらず。
しかし一口に「荒廃している」と言い表すのも何かが違うように思います。
わたくし達が降り立った場所には、明らかな人間の痕跡がありました。
相当古いものなのでしょう。
古めかしく、歴史を感じさせる建造物の数々。
完成された文化を感じさせる、乱れない統一感。
目にする建物の建築様式は、わたくしが教養として学んできた如何なる文明のものとも異なりました。
知らない文明、未知の文化。
新しい建物は一つもなく、人気も、生活の空気も感じられません。
目立った損傷は、全体として見るのであればあまりありません。
ですがよくよく目を凝らして観察すれば、大きく壊れたまま放っておかれた建物も見受けられます。
かつては誰かが生きていたのだと痕跡を匂わせられますが……ここは、恐らく遺跡群なのでしょう。
……と、思ったのですけれど。
わたくしの予想は、ある意味で当たり、別の意味では外れてしまいました。
カーン、カーン、カーン。
どこかで、鐘の音が3回程響きました。
鐘の音が合図だったのでしょう。
今までどこにいたのかは知れませんが……何処からともなく、わらわらと。
……人のようなナニかが、沢山湧くように出てきたのです。
予想もしていない人影に、わたくしは小さく息を呑みました。
ですが、本当に人でしょうか?
怪訝な思いで、わたくしは兄の背後に隠れます。
弟を背に庇い、兄の足を掴んだままそろそろと観察を続行致しました。
危険性の有無を、どこで判断したものでしょうか……。
人間のように思えた謎の住人達は、全員が全員、白銀に輝くかくかくしたナニかで全身を覆っていたのです。どことなく昆虫を連想させる部分もあるのですけれど……昆虫人間、ではありませんわよね?
いくら目を凝らして見ても、人間らしい肌や質感が見当たりません。
兄が剣を鞘に納めたままなので、恐らく差し迫って危険はないのでしょうけれど……
「!」
昆虫人間(仮)が、此方に気付いてしまいましたわ!
どうやら隠れもせずに立っていた兄の姿を気取られてしまったようです。
驚いたのか、昆虫人間(仮)はびくんっと大きく体を震わせた後。
……何故か、わらわらと近寄ってきてしまいましたわ。
「ね、ねえしゃまあ……こあい」
「クレイ、わたくしから離れてはなりません。貴方だけは、わたくしが守ってみせます」
やはり大人など、お兄様など頼りになりません。
わたくしとクレイだけでも逃げるべきでしょうか。
いざとなれば……わたくしがこの手で、刺し違えてでも血路を開かなくては。
誰より、何よりもクレイの為に。
危険を感じてこの場から離れようとしたのですけれど。
何時の間にか兄に手を握られていて移動もままなりません。
「お兄様!?」
「駄目だよ、ミレーゼ? 土地勘のないところで僕から勝手に離れちゃ、めっ!」
「めっ! ではありませんわ、お兄様! 御年幾つになられたと思っておいでですの!? 23歳で「めっ!」だなんて可愛らしくも何ともありませんわよ」
お兄様からの妨害で、初動に遅れが出てしまいましたわ……!
いざ離脱を試みようにも、兄と問答している間にも周囲をわらわらと取り囲まれてしまいました。
囲みを破る糸口は、どこにも見つかりません。
最早、これまで……!?
わたくしは覚悟を決めて、扇子を握り直したのですが。
「英雄殿!」
「おお、やはり英雄殿だ」
「ようこそお戻りくださいました! 歓迎いたしますぞ、英雄殿」
わたくしが腕を振るよりも先に、周囲を取り囲む人のような者達が口を開いたのです。
彼らは何故か、お兄様を英雄と呼ぶのですが……
お兄様、貴方は一体、失踪している間に何をなさっておいででしたの?
次回に続きます。
果たして、謎の大陸に住まう彼らの正体は!?




