04
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藤原は、どこから見ても完璧そうな女の子だ。
いかにも学級委員長という雰囲気を醸し出しているし、実際に学級委員長でもある。
高校1年のこの時期にして、すでに生徒会の副会長を務めている。それに引き換え、俺の方はまだ何も始めてさえいない。
整った可愛い顔立ちをしていて、俺と話す時はいつも不機嫌そうな顔をするが、だからといってその可愛らしさが損なわれることはない。
胸のサイズは平均的。恵莉香ほどではないが、全体のプロポーションは完璧だ。
……あらかじめ、この品評のような物言いについては謝っておく。
俺はあんな夢を持っていて、暇さえあればAVを見ているものだから、こういう見方をするのが癖になってしまっているのだ。
だけど、別に悪気があるわけじゃない。ただ事実をそのまま口に(あるいは頭の中で)言っているだけだ。
まあ、頭の中で考えているだけならセクハラにはならない。そうでなければ、この世の男は全員刑務所行きだ。
トシが肘で俺を小突いてきた。
「だから教室で見るなって言っただろ」
「校則を破ったわけじゃない」
「破ってないわけないでしょ!?」
藤原が顔を真っ赤にして怒鳴り散らした。
言い忘れていたが……俺の目は、生きている人間まで全裸に見えるわけではない。あくまで女の幽霊だけだ。
だから今も、藤原の姿は普通の制服姿に見えている。
俺は淡々と返した。
「俺、校則はちゃんと読んだけど、そんな規則はどこにも書いてなかったぞ」
「そんなこと、少し考えれば不適切だってことくらい分かるじゃないですか!」
俺は満面の笑みを浮かべて両手を広げた。
「この学校は自主自律の精神が売りだろ?」
実際その通りだ。生徒の自主性を育むのに良い環境だと聞いている。
「自由だからって、限度というものがあります!」
「それに、お前も俺の夢を知ってるだろ? 大会で全国を目指す奴がスポーツの練習をするのと同じようなもんだよ」
俺の夢はクラスの誰もが知っている。何しろ、あれだけ大々的に宣言したのだから。
「それと一緒にしないでください!」
藤原は俺の言い訳に耳を貸そうとしない。
「っていうかさ、お前は中学の時から高校に至るまで、ずっと俺に文句を言い続けるつもりか?」
俺は中学の時から藤原と同じクラスだった。当然、彼女も恵莉香のことを知っているし、トシもそうだ。俺たちは同じ中学の卒業生だ。
早くに逝ってしまった恵莉香を除いて……。
藤原が再び机を叩いた。
「だったら、あなたも教室でそんなものを見るのを今すぐやめなさい!」
俺はへらへら笑いながら言った。
「俺は一人で見てるし、イヤホンもつけてる。誰の迷惑にもなってないだろ? なあ、トシ」
どう考えても自分が有利だと思っているような口調で言った。
「お、俺を巻き込むなよ、誠……」
そして、俺たちのそんなやり取りが、藤原の怒りにさらに火を注ぐことになった。
「白銀くんもです! なぜ時任くんを止めないのですか!?」
「お前も知ってるだろ、こいつが人の言うことを聞くような奴じゃないってことくらい……」
藤原が俺の携帯電話をひったくろうと手を伸ばしてきた。
「学級委員長として! 放課後まで没収します!」
「明らかな権力の濫用だろ!」
俺は藤原と携帯電話を引っ張り合いながら応戦した。
「離しなさい!」
「お前、本当は自分が観たいから没収しようとしてるんだろ!」
「ば、ば……バカなこと言わないでください!」
彼女はさらに力を込めて引っ張る。怒っている顔も可愛いな、こいつ。
だが結局、俺の方が負けてしまった。
いや、言い訳をするなら、掴み方が悪かっただけなんだけどな。
結果として、携帯から滑り落ちた俺の手はイヤホンのコードを掴んでしまい、イヤホンが俺の耳に残ったまま、携帯電話だけが藤原の手へと渡ってしまった。
そして、誰もが予想できる展開に……。
「あんっ……!」
どういうわけか、この瞬間に限って教室が静まり返った。
「も、もっと激しく! ああん……最高! 気持ちいい、んぅっ!!!」
AV女優の喘ぎ声が響き渡った。
静まり返った教室の中に、本来なら俺のイヤホンの中に閉じ込められているはずのエロティックな音声が、容赦なく広がっていく。
藤原は顔を真っ赤にして、唇をぎゅっと噛み締めた。
それを見た俺は。
「まずい! トシ!」
「は!? 何、何!?」
「肉壁だ!」
「バカかお前は!?」
「お前の方が体格がいいだろ、俺の代わりに攻撃を受け止めろ!」
「悪いのはお前だろが!!!」
俺はトシの手首を掴み、机越しに引っ張り込んで俺の盾にしようとした。
だが一歩遅く、トシはいち早く逃げ出したため、俺の手は虚空を掴むだけに終わった。
「裏切り者め!」
遠ざかっていく高い背中に向かって悪態をつく。
「……」
藤原が無言のまま、俺の携帯の画面をロックした。それによって、激闘の喘ぎ声はピタリと止まった。
彼女は携帯を机の上に置くと、不気味なほどゆっくりとした動きで俺の方へと迫ってきた。
さて、肉壁はあっちへ走っていってしまった。
俺に身を守る術は何が残されている?
そして、俺の反射神経でこれを回避できるか?
「ふっ……」
俺の喉から笑い声が漏れた。
それに続いて、言葉が口をついて出る。
「……ここまで、か」
「ううっ!」
顔を上げた彼女の目には、怒りのあまり涙が滲んでいた。
そして次の瞬間……すらりとした彼女の手のひらが俺の顔面に炸裂し、俺の首は真横にへし折れるかと思うほど弾き飛ばされた。
――俺はトシと一緒に屋上で昼飯を食べていた。
トシは、半分赤く腫れ上がった俺の顔を見て言った。
「朝の件はお前が悪いぞ、誠」
「黙れ、裏切り者」
「自分の代わりに俺を叩かせようとしたお前の方が、よっぽど裏切り者だろ!」
裏切り者の言葉なんて、聞くに値しない。
「俺たちの仲だと思ってたのになぁ……」
「俺が悪いみたいな顔すんじゃねえよ」
トシは大きくため息をつくと、パンをかじった。
俺も同じようにパンをかじったが、顎から脳へ向かって痛みが走る。
俺は不機嫌そうな顔で咀嚼した。
「これ、車に撥ねられた時より痛いんだけど」
「ハハハ! 大げさだな」
「あいつ、どこにあんな力があるんだよ」
俺は頬をさすりながら呟いた。
トシは小さく笑った。
「藤原は中学の時から剣道やってんだろ? 別に不思議じゃないさ」
「まあな」
食べ終えて、手元にプラスチックのゴミだけが残った頃、トシが口を開いた。
「女の幽霊が服を着てないように見えるっていう、あの件だけど……」
「それがどうした?」
俺が気のない返事をしたので、トシは眉をひそめた。
「なんだよそれ……少しは心配にならないのか?」
「まあ、多少はな。今は恵莉香も話しかけてこなくなったし」
「恵莉香、か……」
恵莉香を知る者にとって、彼女が亡くなったことは少なからずショックな出来事だった。
ただ、俺だけが異常なのだ。
なぜなら、頭では彼女が死んだと分かっていても、こうして姿が見えて会話もできるせいで、心のどこかで彼女はまだどこにも行っていないような気がしているから。
いつかは、どうしても別れなければならない時が来るというのに。
トシは軽く頭を振った。
「それはそれとして、お前の夢はAV男優になることだろ?」
「ああ。だから別に心配することでもないさ」
少なくとも、女性の身体を見慣れることができる。いざAV業界に入った時に、何かしら役に立つはずだ。
この目になってから、俺はずっとそう考えていた。
だが、俺の考えは少し浅かったらしい……。
トシが真面目な声で言った。
「誠」
「あ?」
「お前、何か一つのものを大量に食べたことあるか?」
「大好物のことか?」
「そう」
何だその質問は。俺を口説くために何か買ってくれるとでもいうのか?
俺は少し考えた。
大好物、な……。
「チョコレート、かな?」
「じゃあ、もし俺がお前にそれを100個買ってやると言ったら?」
「『なんて優しい友達なんだ』って言うよ」
「そういうことじゃない! 味に飽きるだろってことを言いたいんだよ!」
「言われてみれば確かに。それだけの量があれば、普通に飽きるな」
俺が理解し始めたのを見て、トシは頷いた。
「だろ。で、そこからさらに食べ続けると、今度は味に慣れすぎて、美味いとも何とも感じなくなるんだ」
「あぁ……そうだな」
「少しは焦ってきたか?」
「お前が何を言いたいのか、さっぱり要領を得ないんだけど」
それを聞いたトシは、盛大にため息をついた。
そして、俺の世界をひっくり返すような一言を放った。
「女の裸を日常的に見慣れちまったら……
……いざ本番って時に、お前の息子が立たなくなるんじゃないか……?」
俺はその言葉を聞き、処理するために一瞬沈黙した。
そして、その意味の終着点にたどり着いた時。
「ヤバいな……」
俺の夢を台無しにしかねない現実に、俺は思わずマヌケな声を漏らしていた……




