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「今日は寝坊だね!まこと!」


見慣れた、退屈な通学路。その途中、一人の少女が横から快活に浮かんできて声をかけてきた。


彼女は向こうから歩いてきたサラリーマンの肩を平然とすり抜けていく。男の方は、たった今自分の体を幽霊が通り抜けたことなど、微塵も気づいていない様子だった。


「おはよう、恵莉香えりか


俺は隣で不自然に浮いている少女に一瞥をくれ、淡々と返事をした。


歩道を慌ただしく行き交う周囲の人々が、一瞬だけ奇妙な目で俺を見てくる。何もない空間に向かって話しかけているように見えたからだろうが、そんなのはいつものことだ。


なぜなら、この幼馴染は超能力者でもなければ、神の祝福を受けたわけでもない。


ただ生まれつきの不幸に見舞われ、その結果、若くしてこの世を去ることになった。


彼女が亡くなったのは、俺たちが中学を卒業する少し前のことだ。


そして今、俺は高校に入ってしばらく経つ。


そんな俺が、どうして幽霊になった彼女を見ることができるのかというと……。


「まずは謝りなさいよ! 10分も遅刻したんだからね!」


「たかが10分くらいで謝るほどじゃないだろ」


恵莉香は頬を膨らませた。


「だって私、やることないんだもん……あんたと話す以外」


普通の人には幽霊は見えない。まあ、当然か。


だけど俺は、生まれた時から幽霊が見えていた。


最初の頃は怖かったが、毎日見ているうちにだんだん何も感じなくなってきた。


あるいは、麻痺している。


そのどちらかだ。


俺はため息をついた。


「たまには他の奴とも話せよ」


「幽霊と話すなんて、絶対に嫌!」


「それで俺のところに来るわけか」


そういえば昔から、恵莉香には俺以外の友達がいなかった。中学の時もそうだ。


恵莉香はくすくすと笑った。


「うん。でも、あんたがこうして私を見てくれるのは嬉しいよ」


「そう」


分かりきっていることの理由は、あえて聞き返さない。


けれど、恵莉香は自分から口を開いた。


「だって、あんたのことが好きなんだもん!」


そういうのは……少し切ない。嫌なわけじゃないけれど。


彼女にはもう命がなく、俺が触れることもできないただの幽霊で、しかも話せる相手は俺しかいない。


だが、俺がそれをさほど気にしない理由は、もう一つあった。


しかも結構大きな理由だ。


俺はため息をついた。


「言っとくけど、お前がまだ生きていたとしても、俺はお前と付き合う気はないからな」


それを聞いた恵莉香は、呆れたようにこめかみを押さえた。


「あんた、まだそんな夢持ってるの……」


「誰がそんな簡単に夢を諦めるかよ」


「私以外の人には、絶対にそんなこと言わないでよね……他の人から頭がおかしいと思われるから」


「自分の夢を恥ずかしがってたら、そんなの夢って呼べないだろ」


「頑固なんだから……」


俺は眉をひそめた。


「お前だって好きだっただろ?」


恵莉香は顔を真っ赤にして怒鳴った。


「す、好きなんかじゃないわよ! あれは誰かがディスクを入れ替えてて、私たちがうっかり見ちゃっただけでしょ!」


俺が言い返そうとした、その時だった。


視線の先で、一人の少女がぽつんと立って泣いているのが目に入った。小学生くらいだろうか。


「幽霊?」


恵莉香が耳元で囁く。


「生きてる人間だよ、バカ」


手をひらひらさせながら、その子の元へと歩み寄った。


昔は生きてる人間と幽霊を見間違えることもあったが、今ではもう見分けがつく。


「どこに行くの?」


俺は泣いている女子小学生の前でしゃがみ込み、優しい声で話しかけた。


彼女は手の甲を目の下に当てたまま、顔を上げて俺を見た。


「ひ、ひっく……!」


「迷子になっちゃった?」


そう問いかけると、彼女はコクコクと首を縦に振った。


「き、今日はタマちゃんが病気で……だから、一人で来なきゃいけなくて……」


要するに、いつもこの子は周りの景色を見ずに、友達の姿だけを見て学校へ歩いていたわけだ。


そのタマちゃんって子も、この子に自分で道を覚えるよう言っておけばよかったのに。


「その制服、この近くの小学校だよね? 一緒に送っていこうか?」


「お、お母さんが、知らない人について行っちゃダメって言いました……」


「そうだね。君の言ってることは正しいよ」


それを聞いた俺は立ち上がり、わざとらしく背伸びをして携帯電話を取り出した。


「あーあ……困ったな。あの小学校に届け物をしなきゃいけないの、すっかり忘れてた」


少女は不思議そうな顔で俺を見上げている。


俺は言葉を続けた。


「早く行かないと。……それなら、もし誰かが学校に行くために後ろからついてきても、文句は言われないよな」


言い終えると、俺は少女の横を通り過ぎて歩き出した。


「あ、うっ……!」


少女は戸惑うような表情を浮かべたが、俺についていけば学校に着くということくらいは理解できる年齢だったのだろう。彼女は俺の後ろをついて歩き始めた。


俺は少女が遅れないよう、わざとゆっくり歩いた。


そうして、ようやく小学校に到着した。


少女は安心した表情で学校を見つめ、涙をそっと拭うと、俺のズボンの裾を引っ張ってきた。


「お兄ちゃん……届け物をするなら、私、手伝うよ……」


俺はしゃがみ込み、彼女の頭をぽんぽんと優しく撫でた。


「ありがとな。でも届け物ならもう終わったぞ」


「えっ?」


「今度タマちゃんと来る時は、ちゃんと道を覚えるようにね。この辺の道はそんなに難しくないから」


俺は立ち上がり、少女に向かって手を振った。


「勉強、頑張れよ」


「あ、ありがとうございます!」


そう言って俺が小学校の前を離れると、歩き始めた時からずっとついてきていた幽霊が、からかうような声で話しかけてきた。


「なによそれー。ずいぶんカッコつけちゃってさ、誠」


恵莉香は憎たらしい笑みを浮かべてそう言った。


そして、さらに言葉を続ける。


「学校に遅刻するの、怖くないわけ?」


俺はため息をついた。


「たった一日遅刻したってどうってことないだろ。あの子をあのまま放っておくなんて、俺には無理だ」


「そういうとこ、好き」


「うるさいな」


恵莉香はくすくすと笑った。


「あんな変な夢を持ってるくせにさ」


それを聞いて、俺は彼女に非難の視線を向けた。


「人の夢をバカにするな」


「幼馴染として、そこはバカにさせてもらうわよ!」


「主人公みたいなもんだろ……」


それが、俺の夢だ。


映画の主役になること。


だけど「みたいなもん」と言ったのは、俺の夢が、涙を誘うドラマの主役や、サイコパスの役、あるいはロマンス映画の爽やかなイケメン主人公になりたいわけではないからだ。


恵莉香が大声で叫んだ。


「あんたがなりたいのは『AV男優』でしょーが!?」


彼女は拳で俺の肩を殴ってきた。当然、何の感触もない。


「映画の主人公をそんなものと一緒にするな、このバカ!」


そうだ、それこそが俺の夢。


AV男優になることだ。


そんな映画の主役になれば女優とそういうことができるから、なんて理由で興味を持ったわけじゃない。


ただ純粋に、すごいと思っただけだ。


作品によっては顔すら映らない。


映ったとしてもほんの少しだけだ。


それなのに、物語を進めるためには欠かせない存在。


すごいと思わないか?


「主役は主役だろ?」


俺がそう反論しても、当然ながら恵莉香はその理屈に納得しなかった。


「全然違うわよ!」


「同じだろ」


そんな会話をしているうちに、俺は横断歩道にたどり着いた。歩行者側の信号はまだ赤だ。


俺はその場に立ち止まり、周囲を見回した。


「この辺、幽霊が多いな」


男の幽霊も女の幽霊も、血まみれの服を着ている。まあ、これもいつもの光景だ。


恵莉香は唇をすぼめた。


「横断歩道だもん。事故くらい起きるでしょ」


「最近の運転手ときたら……」


俺はいつもの調子でぶつぶつと文句を言った。


歩行者側の赤信号が青に変わるのを待ちながら、うつむいて携帯電話をいじっていた、その時だった。


「青になったよ」


「おう……」


短く生返事をして、俺は横断歩道へと一歩を踏み出した。


携帯電話から目を離さないまま、足を前に進める。


その瞬間、恵莉香の叫び声が聞こえた。


「誠! 何やってんの!?」


ハッと振り返ると。


幼馴染の幽霊の手が、俺の腕を掴んで歩道へと引き戻そうともがいていた。


だが、すり抜けるだけでどうにもならない。


彼女の顔は、滑稽なほどに引きつっていた。


けれど、そのおかしさも、あることに気づいた瞬間に消え失せた。


歩行者用信号は――まだ赤だった。


じゃあさっきの……誰の声だ? 恵莉香じゃなかったのか?


それ以上、何も考える余裕はなかった。


「誠!!!」


すべてを真っ暗に塗りつぶすほどの凄まじい衝撃が、俺の意識を奪い去っていった……

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。


本作はタイ語で書いた小説を、作者自身が日本語に翻訳したものです。


まだ日本語は勉強中のため、不自然な表現や間違った言い回しがあるかもしれません。


それでも読んでくださる皆さまには本当に感謝しています。


これからも少しずつ文章を改善し、「翻訳された小説」ではなく、自然な日本語で読める作品に近づけるよう頑張っていきます。


今後ともよろしくお願いいたします。

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