092 春戻し便を組む
白霧港からの便を、ただの救援荷にする気はなかった。
聖域倉庫の板へ零番灯を当て、北方種子庫の控えを横へ並べる。
必要なのは麦粉だけじゃない。
夜の冷えを返す布、凍えた胸を保たせる療養包み、土の締まりをゆるめる灰、芽をやり直すための播種札。
春をもう一度始めるための一式だった。
「療養包みは、喉葉より冷え戻りの根を多めに」
ニナが言う。
「熱持ちと息の浅い人が先です。戻せない分は療養所扱いで公開して」
「播種前土戻し灰は山裾から先に」
わたしも書き足す。
「上段の畑は後でもいい。まず人が住む近くの土をほどく」
カイル様は海沿いの図板を広げた。
「白霧港から東岸の小入江まで船で送る。そこから荷橇に積み替えれば、王都経由より半日は縮む」
王領側の官が怪訝な顔をする。
「辺境の船を、王都東の災害へ回すのか」
「王都の船はまだ春便の組み替え中でしょう」
わたしは答えた。
「待っていたら、山の夜がもう一度来ます」
板へ書く欄が増えていく。
『第一便 療養包み二十/風除け布十二/土戻し灰八』
『第二便 薄粥粉/乾果/播種札写し』
『代替路 海沿い小入江経由』
『写し送達先 聖域倉庫前・白霧港・東山仮板』
外で見ていた人々が、その品目を順に読んでいた。
食べ物しか書かれていない救援より、ずっと手間がかかる。
でも、そのぶん「ここから戻す」という形が見える。
白霧港から届く荷札の控えには、もう包み方まで書いてあった。
療養包みは青縄、土戻し灰は灰札、風除け布は再結び札付き。
受け取る側が迷わないよう、港の倉番たちが最初から向こうの手順で合わせてくれている。
そういう積み重ねが、いまは王都のどんな近道より頼もしかった。
ヨナスさんからの書き付けも白霧港から届いた。
『魚冷庫二室を空ける。必要なら冷え受けに回せる』
その一行に、わたしは指を止める。
冷え受け。
まだ確信ではない。
けれど、零番灯の白欠けは、物資より先に冷えそのものの行き場を探しているように見えた。
「リーゼ」
カイル様が短く呼ぶ。
「はい」
「おまえも行くか」
わたしは板の『責任』欄を見る。
ここで組んだ便が現地で止まれば、また空欄が生まれる。
「行きます」
わたしは頷いた。
「今度は荷だけじゃなく、返し先まで届けないといけません」
春戻し便、という見出しを板の上段へ書く。
最後にその文字を見上げた時、零番灯の赤はまだ東の山際を離れていなかった。




