第1話 番号を引いた日
番号札を引いた。
B-046。
薄青い蛍光灯が天井を格子に区切り、影を消していた。待合の椅子は硬く、隣との仕切りはなかった。受付カウンターに三つ折りのパンフレットが積んである。喜悦:基本税率8%。悲嘆:基本税率12%。憤怒——
電子音が鳴った。B-045。
壁に貼られたポスターの隣で、もう一枚のポスターの端がかすかに揺れていた。『感情は、あなたの財産です』。半分剥がれて、角が丸まっていた。誰も貼り直していない。
電子音が鳴った。B-046。
朱里は立ち上がり、第七窓口へ向かった。
強化ガラスの向こうで、職員が書類を一枚差し出した。
薄緑色だった。
朱里は受け取った。数字を見た。顔を上げた。
「これ、色が違う」
「様式の違いでございます」
朱里はもう一度、数字を見た。
手首が熱くなった。
「……感情共鳴による二次課税」
「はい」
「私が怒ったから、隣の人の数値が上がったって、それが、私のせいだって」
「申告者の感情発露が隣接申告者の感情指数に統計的有意差をもって影響した場合、発露元申告者が連帯して課税対象となります。感情連帯課税条例第七条第三項に基づき——」
「ちょっと待ってください」
「——算出された課税額は通知書に記載の通りです。以上でございます」
「以上って」
職員は次の書類に視線を落とした。
「以上って何が以上なんですか」
「おっしゃっていることは、よく理解しています」
「してないでしょ。全然してない。私が怒ったのは、おかしいことがあったからで、感情税の税率15パーセントを払いながら怒ってたんですよ、ちゃんと。それなのに隣の人の分まで——」
「感情連帯課税条例第七条第三項に基づき——」
「同じ条文を読まないでください!」
手首が光った。薄く、青白く。
隣の窓口で、書類が落ちた。声も震えも、なかった。
朱里はガラスの向こうを見た。職員の表情は変わっていなかった。手首のリンカクは光っていなかった。
「異議申し立てはできますか」
「別館にて担当官との面談をご予約いただけます」
「じゃあ予約します。今すぐ」
「承りました。なお、本件のご担当は御堂よりご連絡いたします。次の方——」
電子音が鳴った。B-047。
「御堂よりって、それで終わりですか」
「以上でございます」
「以上って何が以上なんですか!」
電子音が鳴った。
職員は次の番号を呼んだ。
朱里は番号札を握りしめたまま、立ち上がった。




