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日清戦争 -71 兵站状況

 第1軍が鴨緑江で戦っているそのころ陸軍大臣を辞して第2軍司令官になった大山巌率いる第2軍が遼東半島南部に上陸を敢行している。この上陸には日本の海上輸送能力の内、大型・高速の部類をほぼすべて投入した。第1軍への補給物資の滞りの原因ともなるが、黄海の制海権を確保するためには清国艦隊の拠点である威海衛と旅順。この2か所の占領が必須だった。

 日本国の総司令部はむしろ鴨緑江での決戦はこの時点では意図していなかった。鴨緑江の第1軍は第2軍上陸のための囮、いわば助攻であり、第2軍が主攻だった。この第2軍、日露戦争での有名人ばかりが多数参加する。秋山好古、乃木希典等々である。

 彼らの目標は旅順の占領である。ここを占領できれば冬でも十分な兵站が確保できる。

 だが、囮役の第1軍司令 山縣有朋はそれを良しとしていない。彼が狙うのは遼東半島中央部から根元、鮮北部国境線にかけて続く千山山脈を越えて西の渾河及び遼河流域の堆積平野である遼河平原へ進出。更に西。北京方面への進出を長期的にはもくろんでいる。これに抵抗するのは平壌の敗残兵を含む清国軍軍事上の常識として「防衛線を下げる際に最前線部隊に敗残兵を混ぜてはならない」これを守らぬ敵を逃さず動かぬ選択肢はない。

 この動きは日本側に極めて危険である。兵站は山脈で停滞する。海上輸送には地形的に頼れない。

 さらに季節は最悪。冬になりつつあるのでより寒い山脈越えをした上に遼河平原は湿地が多いので足場も寒い。初春でも双方雪解けに苦しむことになるだろう。第1軍単独でこれを行うのは無謀というべき所業である。

 しかし、鴨緑江で春まで待つことはできない。春までに清国軍は明らかに増兵するだろう。これを押し切って清国に勝率することは冬季行軍よりも厳しい。戦線は停滞してしまうだろう。

 それに兵站面では朝鮮半島の第1軍兵站ではなく、第2軍が旅順大連を占領できれば第1軍も旅順・大連からの兵站可能エリアに含まれる遼河平原も期待できる。

 史実にはこれに加えて焦土になった地域に軍を数万とする兵力を置いていた。彼らの食で現地の被害が増大することになるという側面も遼河平原への進軍を強要した。この世界では史実よりも第1軍兵站に余裕があったが、この時点では完全ではない。政府は現地を日本単独では助けられないことはわかっている。

 諸外国の新規船舶傭船を始めて物資の大量供給を始めているが、それでもまだ足りない。

 さらに言えば史実と違い避難民を日本が受け入れている。彼らの食を供給しないといけない以上、史実と同等かそれ以上には遼河平原に進まねばならぬのだ。

 ここに日本側の有利 いや清国側の不利な条件が含まれる。黄海海戦の敗北で海上輸送に頼れず、陸上の輸送に食料などの輸送を陸上輸送に頼らねばならないのだ。これは日本が鎮南浦までは海上輸送に頼れること この世界では朝鮮人難民を動員しての輸送が可能である分清国側に不利な条件である

 そして 清国側は鴨緑江防衛に平壌の敗残兵を取り込んだ防衛。士気が極めて低い部隊が混じった影響でもともといた部隊ですら士気が下がるありさまだ。

 結果、日本軍は陽動と主攻の組み合わせが 主攻2か所になっていたのである。


遼東半島南岸花園口 日本国第2軍 10月24日

 第2軍輸送船団にも和船が曳航されている。むしろ第1軍の輸送船に曳航されている和船よりも大きい。第2軍向け輸送船の方が大きめの船が集められている。それに比して和船も大きい。

「和船に乗員は乗り込んだな。」

 曳航母船である民間船の船長が船尾から叫ぶ。和船から乗員が大きく腕で丸字を作っている。その後ろから斧を持った水夫が来る。

「退避!!」

 曳航母船の船長が叫び、駆け出す。周りの乗員も叫ぶ。

「退避完了の汽笛を鳴らせ!!」

 汽船が蒸気を利用した汽笛を鳴らすと、和船が斧で曳航索を切断する。張った曳航索が母船側に飛んでいく。逆では和船が壊れてしまう。

「曳航索切断完了です。」

「見送ってやれ。こんな季節に和船で鎮南浦まで行こうという勇気ある者たちだ。見送りぐらいはしてやれ。」

 江戸期以来、日本海運の主力だった和船。しかしその性質上、向かい風に弱すぎた。明治期、この和船は帆の改良によって多少の向かい風には航行できる船が増えたが、それでも日本から朝鮮半島に冬の荒れる海。向かい風航行は厳しすぎた。

 その対抗策としての曳航だったが、趙統半島南岸から鎮南浦までは南東方向の航海で追い風だ。荒れる海である弱点は仕方がないが、航海自体はできる。むろん遭難率は高い。そして曳航なら乗員は母船に収容されているので曳航失敗で和船が沈んだとしても犠牲はない。

 だが単独では死ぬ。

「何隻がたどり着くかわからんが、それでも運ばないと現地が飢えるのだ。」

 それがこの犠牲を許容する思いだった。


 鎮南浦

「和船を解体するんだ。」

 斧を持った朝鮮人が和船に刃を立てる。 老朽化した和船は真っ先に叩き壊され、燃料になる。冬越しには必要な燃料。それも失った朝鮮半島は和船を解体してこの燃料を手に入れることになったのだ。これは計画通りの行動だ。

「比較的新しいものは宿舎に転用するんだ。帆はテントに転用して宿舎に転用するんだよ!!」

 和船曳航 速力面で史実の輸送を妨害しないために食料の積載は少ない。しかし、戦地で解体される木製船体そのものが人命を救う。

 人々の表情はまだ明るい。 集まった人間は職にありつき、冬の間の食糧が揚陸されるところを見るからだ。いやその揚陸にかかわることで明日の食糧という実物を見る。これはすさむ避難民の心を解いた。彼らは日本軍お管理下にあれば生きられるという安心感がある。むろん盗もうとする人間もいるがそれはすぐにつかまり、飯抜きの刑だ。密告制度もある。少なくとも最低限の治安状況ではある。この時点ではその食料が前線に運ばれ日本軍を助けている。人ではかかるが史実とは違い現地を苦しめない輸送。それがここにはあった。


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