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日清戦争 -62 公使交渉

 広島 公使団

 広島に天皇がやってきた日清戦争において各種公的機関も広島に一時的に来ていた。各国の公使も同様である。

「それで我らに協力を求めたいと?」

 通商破壊の現実とその物資の中身の状況を説明すると、公使には何を求めているかわかる。彼らには駐朝鮮の公使からの情報・観戦武官の情報などが流れ込んでいる。清国の略奪・焦土作戦はもちろん感知している。

「病院船に大量の食糧を積んで送り出したのは事実。これは国際法的にはグレーだ。それに同じ船団には軍需物資を運んでいた船もいる。これは救民物資を盾に軍需物資を輸送したといっても過言ではない。これも国際法的には厳しい。」

 公使は難色を示している。確かに日本が送り出した船団には国際法的な違反項目が散見される。

 病院船への過剰な物資積載、 救民物資と軍需物資の混載・・・確かにこれは国際法違反だ。

「日本はすでに、蒸気船を限界まで供出しています。現地には今も続々と避難民が集まっており、その数は50万を超えるとの報告もあります。彼らを救うためにどのような食料輸送手段を用いるか。ご教授願いたい。」

 公使は黙る。10月頭から考えて12月の鎮南浦の凍結ギリギリまで輸送できたとしても2か月しかない。 

この2か月のうちに、食料を朝鮮に運び込まねば現地は餓死者であふれるのだ。

「祖国は和船を曳航できるだけ動員、従来の軍需輸送船に曳航させて現地に食料を送り込んでいます。それでも足りずに、旧式艦を転用した病院船も曳航母船として送り込んでいます。そうしないと、現地はとんでもないことになる。12月の結氷までに食料を送り込み、難民を現地から救い出す。この手段を聞きたい。

我々の輸送手段が国際法を違反しているのは百も承知。しかし、我々はこれをしないと現地を救えないと確信しております。法と人命どちらを優先されますか?」


 しばらくの沈黙ののち、一人の公使が口を開く

「それではその和船とやらに軍需物資の積載、軍需物資専門の船団と、救民食料を運ぶ専門の船団に分けてはどうだ?それなら国際法的に違反にならん。」

 法的には問題ない解決策だ。しかし、これは物理的にできない。

「和船は古いのです。江戸期から海運の主力だった船ばかり。どの船も20-30年は水の上にいる老朽船です。船体寿命・設計の面からも 兵器のような鉄の塊を輸送する強度はありません。もともと食糧運搬を専門とした設計の船です。兵器は運べません。混合輸送をするのは緊急避難的措置です。」

 この20-30年というのはあえて誇張している。和船事情など、外人にはわからない。和船は明治以降も蒸気船の普及もアリ、新造は減少傾向にはあるが中―小型船に関しては日清戦争期でも建造が行われている。まあ、大型の500-1000石級のものは西洋型大型帆船の建造に完全移行しており、残存のほとんどが15年以上の老朽船ではある。

「和船に兵器が積めない・・・のか。それでは軍需専門船団は無理だな。」

「軍需物資を減らして食料を回せ。」

「残念ながら無理です。鴨緑江まで進出、清国軍を止めないと、清国軍は再び、平壌まで逆侵攻してきます。そうなれば現地は3度目の略奪を受けることになる。軍事的にあり得ない選択肢です。」

 朝鮮西北部・・・平安道は史実日清戦争においてその地は「平安」の名から最も遠い地だった。1回目、清国が平壌に向かう時に略奪され、 2回目、清国が平壌から逃げる際に略奪され、 3度目日本軍が鴨緑江以北に進出するのに合わせて「徴発」の名を借りた焦土状態からさらなる食糧供出

 この世界では3度目の略奪は発生していない。日本が救民を行っているからだ。しかし、これはギリギリの線での維持だ。少しでも軍用品の輸送を削って、日本軍が鴨緑江で負ければ…清国は再びやってきて略奪に走るだろう…。

「負けるわけにはいかないのです。現地をさらなる地獄に落とさぬために。法を守る。これは大事です。しかし、法をなぜ破るか。そこも見るべきではありませんか?」

 その場は凍り付いた。日本はこの戦争を文明国のデビュー戦みたいなものとみなし、国際法を守る方針を定めていた。これを条件付きで破る覚悟を固めている。

「国際法を破るこれは目の前の人命を救うには有効だろう。しかし、国際法とは将来の人命まで救うための規則だ。これを破らば将来の犠牲を生む。」

「それを考えるのであれば清国側の国際法違反を止めるための手段としての国際法違反 『復仇』 に該当する状況です。日本は、清国が国際法違反の略奪を行わねば、国際法違反を犯さずに済んだのです。日本が無限に食料を戦地に送り込めば焦土作戦は意味を成しません。彼らは焦土作戦をする理由を失い、その結果将来の人命が助かる。」

 その場が静まり返る。先に国際法を破ったのは清国。その論理はすべての議論を消滅させる。

「公使殿。ここで日本を支持しないということは清国の非人道な国際法違反を黙認するということに等しいのです。」

 役人が目配せをすると、その一人が自分顔を濡れ布で吹き始める。その下からのぞいた顔は白人である。一部公使は驚きの表情を見せる。当時の日本に住まう外国人社会は狭い。互いの顔を知っている例も多い

「新聞記者をこの場に入れるとはどうゆうことですか!! 国家交渉の部外秘の前提を忘れたのか!!」

 叫ぶ公使もいるが、その中で冷静な公使が肩をすくめる。

「降参だ。我々は何をすればいいかな?」


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