日清戦争 閑話-2 鹵獲兵器
平壌 元清国予備兵器庫
「すごい数だな」
倉庫に足を踏み入れた士官がつぶやいている。
「福島中佐殿。」
駆け寄ってくるは2人の兵士。1人は下士官もう一人はかなり若い。よく見れば主人公の田中義三である。
「終わったか?」
福島中佐は他にも仕事が多いらしく、調査がひと段落してから来たようだ。
「予備兵器庫分は終わりました。小銃総数は3000丁程度です。詳しくはこちらに。」
下士官が横の若い兵士(田中義三)にアイコンタクトをすると、彼は用箋挟を渡す。
「了解した。次、現時点で集まっている分の回収分をまとめてもらう。今朝時点で納める倉庫は止めている。今搬入されているものは別倉庫に収めているので数が急に増えたりしないから安心してくれ。」
福島は次の指示を出すがそれもまだ鹵獲兵器の管理…というよりかは集計である。
「若い兵士が意見を持っています。聞いてくれますでしょうか?『遠方の回収のために小銃に懸賞金をかける』という意見ですが。」
下士官は若すぎる優秀な部下の意見を佐官に聞く。
「なるほど。兵士を送り込んで回収するよりも楽だな。それに銃が落ちているところの付近には戦死者がいる可能性が高い。衛生面でも利点があるな。問題は費用面だが、この戦争は勝ち戦だ。賠償金にツケればいい。」
肯定的だ。だが、その先顔色が曇る
「だが、鹵獲小銃は使えんぞ。弾薬面で問題が大きすぎる。弾薬の供給は?混同問題は? 鹵獲小銃の戦力価値は皆無だ。」
それが現実だ。
「そのあたりは彼に説明させたいのですが。」
下士官は若い兵士の肩をたたく。福島中佐は首を縦に振る。
「こちらをご覧ください。」
付近のテーブルに用意されていたのは6種類の銃弾だった。内3つはクリップでまとめられており、そのうち1つ、弾丸だけのもの1つには細い縄がまかれている。
「鹵獲した銃でそれなりに量が多い5つの銃の弾薬と村田銃の11㎜弾です。噂の新型銃は詳細を知らないのでそれについてはわかりませんが。」
22年式村田銃は実戦配備が数か月後に前線に到着する近衛師団と第4師団しか持っていないので現状ほかの部隊はその新型銃を見たこともない。
「8㎜級の鹵獲銃は2種類の弾丸を使用します。この2種類は弾薬に誤認可能性が高いので片方を海軍に回せば新型銃の弾薬と誤認しないかどうかを確認するだけです。ちなみに鹵獲数が多い方です。」
若い兵士が鹵獲弾薬(クリップでまとめられている弾丸)を渡す。
「22年式村田銃弾薬と誤認の可能性は低いな。装填方式の関係でこの挿弾子を使わないからね。それに弾薬後部の張り出し…リムっていうんだが、それに有無があるから間違えようがない。」
これに関しては肯定的だ。福島中佐は弾丸を返すと、田中は受け取った8㎜級の弾丸の位置を少し遠いところに寄せる。
「問題は10-11㎜の4種類です。このうち2種類は見ての通り運用方法と大きさに差異があり、間違えようがありません。」
彼は10-11㎜級で唯一形が変なクリップにまとめられている弾薬を先ほど遠いとこに寄せた8㎜弾薬と同じ列に移動させる。
「次にこの弾薬は海軍で使用されているマーティニー・ヘンリーの弾です。なので弾薬製造はそちらにあると思われます。若干大きいので他の銃に装填できません。マーティニー・ヘンリーには装填できます。精度が落ちるでしょうが暴発の恐れはないでしょう。雑多な鹵獲銃を海軍に回せば戦中の間は抽出可能と推測します。」
この銃弾も説明が終わった小銃の列に回す。
「問題はこの2つ。1つは村田11㎜です。もうひとつは最も鹵獲数の多いモーゼルM1871およびモーゼルM1871/84の弾丸です。」
田中は弾丸を渡す。片方には縄がまかれている。
「大きさはほとんど変わらないな。戦場では誤認しかねない。まあ、底部に双方文字が彫ってあるからここで見分けがつくが、戦場ではその余裕はないな。」
福島は問題視している内容を理解している。
「村田弾をモーゼルにモーゼル弾を村田にどちらが危険か、それともどちらとも危険か…これに関しては運用の工夫で解決するしかありません。」
福島は首を縦に振る。
「どちらが危険かは国内で判断する。数丁と弾薬をある程度輸送してもらう。運用上は意見あるか?」
福島は一般の若手兵士がここまで考えられることに驚愕する。士官級でも気が付かない可能性が高い事象だ。
「軍単位、戦域単位、補給拠点単位で独立させるべきかと。」
福島は笑みを浮かべる。
「現時点では無理だが、進軍、鹵獲銃が増えれば可能だな。極論師団単位で銃が違う状況だな。問題は教育だ。鹵獲銃に対する教育をどうするか」
「それはこちらを。」
田中はもう1つ用箋挟を渡す。
「絵がうまいね。君。これならわかりやすい。解体もすべて絵になっている。文字を探すぐらいには少ない。兵士に渡せば効果的だろうが、正確な図ではないが、どこに注意すればいいかこれを配るだけの印刷能力は国内にないぞ。」
福島は紙の束をたたく。
「浮世絵業者を使いましょう。精密性では劣りますが、色彩込みの図説が作れるでしょう」
「どうやって部隊を輸送するんだ?」
そこまで問われれば士官にしか答えようがないだろう。しかし、兵は話すのをやめない。
その場は2人はなしについていけない下士官が残されていた。
鹵獲小銃の詳細
鹵獲小銃で戦線送りに耐えるだけの鹵獲ができる・もしくは海軍からの移籍分を含めればそれだけの数の供給が可能な銃
Gewehr 88 (独)/漢陽造88式 (清)
8㎜で陸軍に回されるもの
マンリヒャーM1886 / M1888
8㎜で海軍に回されるもの
モーゼルM1871およびモーゼルM1871/84
11㎜村田銃と弾薬サイズが近く。混同の可能性が高い銃。しかし鹵獲数が一番多い。
マーティニー・ヘンリー (英)
11㎜級(少し村田銃やモーゼル11mmも大きい)
海軍で使われている小銃。
ベッテルリ (伊)M1870 / M1870/87
10.4㎜級かつ、薬莢が短いので間違える可能性が低い また4発クリップ装填を考慮しているので間違える可能性が低い
他は少数鹵獲、雑多すぎて運用に適さない。
弾丸含めて海軍送りが限界。




