エピローグ
起きた頃にはすでに日が真上まで来ており、生活音が聞こえてくる。
予定としては朝のうちに旅立ちたかったが、まあ、仕方ない。
手荷物はないが一応部屋に忘れ物がないか確認して部屋を出る。
「おはようさん、随分とゆっくり起きたようだな」
「ああ、昨日の深夜に阿呆が急な依頼を持ち込んで…そう、急な事で部屋の鍵を預けず持っていってしまった、すまない」
「いいさ、最終的に鍵が戻ってくるなら…それより、そっちの客はいいのか?」
「…急ぎでもないだろうからいいさ、じゃあ」
と言って鍵を渡して、一応多めに払っておいた金が払い戻される。
「…昨日の件と言い、この宿の改装と言い…まあ、なんだ、ありがとよ」
「別に構わん、俺の都合で動いただけだ…では」
「ああ、良い旅を」
カウンター越しに見送られながら宿を出る。
…さて、朝…と言うより昼飯を食べてから行くとしよう。
「おはよう御座います、我が王よ」
「ああ、おはよう、これから昼だが何か用か?」
「昨夜の件の顛末とお願い事がありまして…」
「……長くなるか?」
「ええ、それなりに」
「なるほど…俺としては昼食中でもいいが、もう食べたか?」
「いえ、まだです」
「であれば、昼食の前後で聞こう」
「ご配慮の程ありがとうございます」
朝食であればそこらの屋台で買った物を食べるが、朝を抜いてしまったしこれから長旅になりそうだし、少しガッツリ食べれるいつもの定食屋にでもしよう。
店の中は昼少し前だが、ほぼ満席で店員も目まぐるしく店内や厨房を動いている。
「いらっしゃいませー、2名様でしょうか?」
「ああ」
「ただいま混み合っておりまして、カウンター席でもよろしいでしょうか?」
「ああ、別に問題ない」
「私も問題ありません」
「ありがとうございます、ではこちらにどうぞー」
席に案内されて、いつもの[焼オーク肉定食]を頼む。
「いい店ですね、繁盛していて」
「ああ、ここで話せる内容か?」
「まあ、それはこっちでどうにかできますので」
[パーティ要請]
パーティ『災害王と自称右腕』に入りますか?
〔はい〕〔いいえ〕
と言うとヘルメースからパーティ申請が飛んできたので、とりあえず〔はい〕を押す。
すると雑音が少し小さくなり、ヘルメースの声がよく通るように聞こえる。
『パーティチャット機能の一つの“テレパス”です、ヘッジザラゲストであったものと使い方は同じです』
『…ふむ、なるほど』
『と言っても範囲は大体この店の4人席くらいでしか話せないので戦闘中は難しいですがね』
『まあ、そうだろうな』
『まあ、それは置いときまして、余り長々と話すのは我が王に不敬ですので端的に言えば、今回の旅に私も同行したいのでそのお願いですね』
『ほぉ…私欲であれば勝手にしろ…俺の邪魔さえしなければ問題ない』
『もちろん私欲も少しありますが、今回は精霊姫をカラッカ湖へ連れて行くと言うクエストが絡んでおり、誠に申し訳ございませんが、今このクエストを受けられるのが私と我が王のみにございます』
『……一応聞いておくが、転移で行けないのか?あまり詳しくは知らんがカラッカ湖は北にあるのだろう?』
「お待たせ致しましたー、[焼オーク肉定食]と[オーク肉の野菜炒め]です、ご注文の品は以上でしょうか?」
「…ああ、ありがとう」
「おお、これは美味しそうな」
「ごゆっくりどうぞー」
「とりあえず問答は食べ終わってからで良いか?」
「ええ、それはもちろんにございます、では」
「「いただきます」」
「ごちそうさまでした、いゃ〜お待たせして申し訳ございません、良い料理でしたので、つい味わってしまいました」
「良い、少し落ち着いてから話の続きを聞くとしよう」
「度々のご配慮の程、ありがとうございます、ですが問題ありませんので」
「…そうか、では出て歩きながら話すとしよう、夕方までには中腹のセーブエリアまで行きたいからな」
「かしk……中腹?トンネルを通られないのですか?」
「?当たり前だろ、余り詳しくは聞いてないが、トンネルの補強や外装を整え、貴族…ここは領主が来て祝典をあげるまでは関係者以外立ち入り禁止だからな、昨日も少し迷ったが緊急だからな」
「なるほど、つまりミダロス山脈を越えてノーディシス帝国へと?」
「そのつもりだ」
「かしこまりました、では先ほどの続きはパーティチャットにて」
「ああ、わかった」
『それで、転移で行かない理由ですが、単純に護衛対象ごと転移できないからです』
『なるほど、そういう仕様か』
『その通りです、まあ、こう言ったクエストは道中で邪魔が入る可能性が大いにあるため、先ほど言われていた条件だと…』
『そうだな、旅のペースを乱される…が、昨日くらいの阿保であれば少々目を瞑るさ』
『寛大なる慈悲に感謝を、でしたら私も既に旅の準備はできておりますので、お供させていただきます』
『ああ…一応聞いておくが飯は現地調達がほとんどだからな、素材も最低限しか持たんし、持てん』
『素材に関しましては私の方で持てますし、こんな事もあろうかと防寒着も用意しております』
『…そういえば、まだ防寒着を用意してなかったな、どこかいい店を知らんか?』
『心配無用です、予め我が王好みの防寒着を用意させていただきました』
『……毎度のことながら、用意がいいな』
『自称右腕ですので、もちろん今回の件の迷惑料としてお納めください』
「…はぁ、分かった、では行くとするか」
「ええ!我が王の名の下に」
少し見透かされたように思えるが、さしてそこまで不快に思う事もない、とりあえず今は旅の平穏を一応祈っておくとするか……。
これにて第3章は幕を閉じ、4章へ
はたして、旅は平穏に進むのか…
護衛クエストや運搬クエスト中は転移が使えず、アイテムを置くもしくは護衛対象と別れると使用可能です。
感想、評価等ありがとうございます。
次回もゆっくりお待ち下さい。




