第38話 他校の文化祭
うちの学校の文化祭のバトルロワイヤルは校内でひっそり行われたが、カランドの音楽学校の文化祭の演奏会は、王都の大きなコンサート会場で行なわれ、学校関係者以外の市民も鑑賞にくる大きなイベントだった。
「大きな会場だな。こんなところで演奏するのか。カランドはすごいな」
ポールトーマスがコンサート会場を見渡しながら言う。今回の演奏会、特殊クラスの生徒全員が見に来ていた。普段バラバラなクラスなのにこの集まりの良さは、カランドのバランスよく人付き合いする人柄を表していた。
席はリリイの隣だった。皆僕がリリイのこと好きなのに気づいているから、気を利かせてくれたようだ。
「キルルはこういう演奏会は見に来たりするの?」
リリイが話しかけてきた。
「えっ? ええと、こんな大きい会場は敷居高くてあまりこないかな。公園で演奏している人のはよく見に行くよ」
「公園? 公園で楽器を演奏している人がいるの?」
「うん、公園で一人だけで演奏している人が結構いるんだ。小銭を渡すと、一曲演奏してくれるんだよ」
「へえ、それは面白そうね」
「こ、今度、行ってみる?」
「ええ」
おお、なんだかナチュラルに行き先が決まったぞ!
喜んでいると、観客の会話が突然止んだ。まだ降りている緞帳の前に一人だけ人が立っていた。
「皆さん、本日は王都音楽学校演奏会にお越しいただきありがとうございます。大きな会場ですが、どうか気楽に生徒達の演奏をお楽しみください。まずは一年生のオーケストラ演奏です曲は『王都の夜明け』」
紹介が終わると、緞帳が開いた。ステージの上には、大人数のオーケストラがいた。五十人くらいいるか。カランドは緑色の髪で目立つから、すぐに見つかった。前から二列目でバイオリンを構えている。
指揮者が指揮棒を振ると、ゆっくり演奏が始まった。カランドは他の生徒となんら変わりなくバイオリンを弾いている。特にカランドに演奏の見せ場があるわけじゃないけど、滞りなく演奏は進む。
僕は、この春王都に来て、国立魔道士養成学校に入学してから、即死魔法だけで手一杯だった。同じように特殊魔道士として学校生活を送りながら、こんな演奏に混じるなんて、今までどんなに大変だったろう。カランドは、音楽学校でのことは多くを語らなかったけど、きっととても努力していたんだ。僕だけでなく特殊クラスのみんなはそれを自然に察していた。
僕達は、適正検査で突然、特殊魔道士という素質を見出され、強制的に国立魔道士養成学校の生徒となった。僕みたいに救われた者もいれば、リリイみたいにホームシックになったり、ワープマンやカランドみたいに元々やりたいことと両立したり、みんなそれぞれいろいろあっただろう。
「王都の夜明け」は、そんな唐突に環境が変わった僕達の心を表すような曲で、とても心に響いた。多分、僕だけじゃなく、みんなにも。
演奏が終わると、僕達はポールトーマスに引き連れられ、カランドいる楽屋を訪問した。
「みんな! 来てくれてありがとう! すごく嬉しいよ!」
カランドはとても喜んでくれた。ポールトーマスがあらかじめ持ってきていた花を渡すと、さらに喜んだ。
「すごくいい演奏だったよ」
ポールトーマスの感想に、みんな頷いた。
「ありがとう。あ、そうだ、ワープマンの戦士学校の文化祭も今日じゃなかった?」
「うん。このあと武闘会があるよ」
ワープマンがしれっと答えた。
「ええ? なんで言わなかったんだよ!」
「いや、みんな武闘はそんな興味ないかな? っと思って……俺は魔法も戦闘に使っていい自由形に出るけど、見に来る?」
「行くよ!」
みんな頷いた。カランドも着いてきた。
僕達は普段縁遠い戦士学校を訪れた。武闘会は一対一のトーナメント方式だった。ワープマンは瞬間移動魔法と風魔法と格闘技を駆使して勝ち進み、あっさり優勝をかっさらった。瞬間移動魔法で相手の背後に回って一撃加えて終わり。僕がワープマンの良心につけこまなければワープマンはバトルロワイヤルと武闘会の二冠だっただろう。
「ワープマンってめちゃくちゃポテンシャル高いな……」
わりと万能なポールトーマスですらおおのいていた。ワープマンは将来相当優秀な魔法戦士になるだろう。
「特殊クラスのみんなって何気にすごく優秀よね。私は笑わせ魔法以外何もないけど」
帰り道、ショウがつぶやいた。
「ショウ、僕もだよ。即死魔法以外何もないよ……」
僕もさっきからショウと同じようなことを考えていた。
「ショウ、私も、変身魔法取ったらなにもないわよ」
キャサリンまで乗っかってきた。
「お前らはそんなの気にしなくても……バトルロワイヤル一位二位だろ。ワープマンに勝ったじゃん。キャサリンは予想当てたし」
ポールトーマスが慰めるが、
「たしかに、勝ったけどさ……」
バトルロワイヤルの詳細を知っているショウと僕は、あんまりあの勝ちを誇れなかった。勝負では勝ったけど、能力では確実に負けているのを痛感していた。
そう、この特殊クラスの生徒は実は、大きく二つに別れている。一つは、元々能力が高く、それを強化するような形で特殊魔法の素質が加わるタイプだ。ワープマン、カランドを筆頭に、元々万能感があるポールトーマス、頭の回転が早いトイとリャもだ。魔法の才能が突出しているリリイもこのタイプと言える。
そしてもう一つは、特殊魔法がなかったらなにも残らないタイプだ。僕、ショウ、キャサリンがそうだ。特殊魔道士になって始めて存在意義を見い出したくちだ。ネルに限っては退化魔道士の素質が潜んでいるゆえに怠惰な感じがするから、特殊魔法に足を引っ張られている気さえするが……ネルも強引に分けるならこっちだろう。
このニタイプは、わかりあえないものが多少ある、と感じていた。
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