28話「帰還」
「この度はアスガル、フェルゼン、ミズガルズが多大なる迷惑をお掛けしまして。」
『『『「本当に申し訳ありません。」』』』
リーフ達の目の前で先進誠意の謝罪、それも最上級である土下座をする女性。そしてその後ろのは半壊しながらも女性と共に謝る魔動機人達。
そしてあの魔動機人達には名前があった。
緑がアスガル、紫がフェルゼン、青がミズガルズだそうだ。
あの後現れた人間の赤毛の女性。整備士の格好と頭に巻いたタオルの油汚れがいかにも関係有りますという雰囲気であった。
彼女は戦闘の意思がない事と自分が魔動機人の仲間である事を話した。
因みにこの魔動機人達は彼女の魔法で運ばれた。
そして現在、リーフ達一向は女性と魔動機人の住み処の洞窟に案内されるやいなや女性は土下座を敢行したのである。
「本当にすみません。」
女性は頭がめり込むんじゃないかというくらい頭を地につける。
「いえ、あなたのせいじゃありませんし。」
むしろ彼女の大切な仲間を傷付けた事に罪悪感を感じる。
魔動機人達もウイルスで正気を失っていたとはいえ、随分壊してしまったし。
まあ今気にするべきところはそこではなく・・・
「あの~、みなさんもっとこっち来てくださいよ。」
現在彼女達と向かい合って話しているのはリーフとフェンだけだ。
残りのメンバーは洞窟の入り口でずっと止まっている。
というかシルバとリリーナはそれほどでもないが、ウォーティー、シダ、カラーの彼女を見る目が殺気立っている。特にウォーティー、魔力が空っぽじゃなかったら魔法を普通に叩き込んでいてもおかしくない。
「リーフさん、早くその人間から離れたほうがいいですよ。」
「(何か普段口数少ないウォーティーがはっきりととんでもない言葉口にした。)」
かなりの豹変ぶりに驚くが、別にウォーティーが異常な訳ではない。
ウォーティーの種族、最上位水精霊のほぼ九割が人類殲滅思想を持ち、人間に対する憎しみが非常に大きい。これは精霊以外の他種族も同じである。
かつて人類共存思想であった最上位木精霊だったが、戦争後の現在でも実に三割近くが未だに殲滅思想を掲げている。特に貴族に多い。
他の精霊は最上位火精霊が半々に分かれ、最上位土精霊と最上位風精霊はどちらにも付かず中立のような状態だ。
「いや、こうして反省しているようですし。」
「どうだか。本当はあなたが命令して私達を襲わせたんじゃないかしら?」
リーフの想像よりも精霊族と人間の溝は深い。
でも流石に今の言葉はどうかと思い注意の言葉を掛けようとしたが、その前に女性が立ち上がる。
「わかりました。」
そう言うと女性は奥へと消えてゆく。
チラリと見えた彼女の目は何かを覚悟したような感じであった。
そんなに時間をかけずに彼女は戻ってきた。
熱せられた大きい鉄板を台車で引きながら。
「・・・人は誠意があれば例えどんな場所であっても土下座ができます。例えそれが焼けた鉄板の上であろうと。」
ヤバイ彼女は本気だ。
リーフは彼女を羽交い締めして止めようとする。
「離して!わかって貰うにはこれしかないの!」
「んな事しなくてもわかってくれます!みなさんも見てないで止めてくださいよ!!」
流石に人間がこんな事をするとは想像もしていなかったのだろう。
覚悟を決めた人間ほど恐ろしいものはない。
その後和解とまではいかなかったがその場は収める事はできた。
その間隙有らば焼き土下座を実行しようとする彼女を止めるのに手こずったが。
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「申し遅れました。私は赤坂ココと言います。」
お詫びに受け取って欲しい物があると洞窟内の奥へ案内する流れで彼女はそう名乗った。
現在案内されている洞窟内部はロボットアニメに出てきそうな光景そのものであった。
床には分解されたエンジンや組み立て途中の機械まであらゆる物で溢れている。
しかしこの時代で電力はどうしているのかと問うと、洞窟の上にソーラーパネルを設置しており、さらに近くの川にダムを作って水力発電もしているそうだ。
「確かにこの設備なら魔動機人を整備するには十分ですね。」
何気なく言ったつもりであったのだが、全員の視線がリーフに集まる。
「すごいですね。まさか中位木精霊のあなたが機械に詳しいなんて。」
精霊や他種族は魔法が主流な文明であるため人間の科学文明の機会に関しては全くの無知である。
さらに魔動機人は最近生まれた種族であるため、名前を知っていてもはっきりとした生態も分かっていないのが現状である。
「えぇ。自分の師匠の一人が魔動機人でしたから。」
リーフの言葉に皆驚きを浮かべる。特に驚いていたのはココであった。
まさか自分と同じように魔動機人と接した存在がいたとは想像もしていなかったのだから。
「あの!その魔動機人ってどんな形ですか?サイズ、装甲は?使用武器、あとそれからええっと・・・」
まるで人が変わったようにリーフにその魔動機人について質問を投げかける。
「・・・はっ!?すいません急にこんな事聞いて。」
我に返るココを見てリーフは武器の説明をするグランと同じ匂いを感じた。
「まあ、後日ならじっくり話に付き合いますよ。」
そう言うとココはパアッととびきりの笑顔を浮かべ、「約束ですよ。」とリーフに囁いた。
その瞬間、背後からすさまじい殺気を感じて振り返ったがやけにニコニコしたリリーナがいるだけであった。
「(気のせいか?)」
やがてかなり奥まで案内されると、ココは目的の物を見つけた。
「これです。お詫びに是非受け取って下さい。」
そこにあったのは鋼鉄の馬である。
しかも一体だけじゃなくメタリックに輝く装甲が合計四体。
「これは?」
「私が作った“魔動機馬”です。馬よりも馬力ありますし、これなら夜までに帰れるはずです。」
そこまで聞くとリーフはココの話が長くなりそうな気配を感じた。というのも実際グランの使用する大槌の説明だけでも半日かかった時の雰囲気とほぼ酷似しているからだ。
「うん、これは後の使い道を考えると冒険者ギルドが管理するに相応しいですね。ではリリーナさんよろしくお願いします。」
そう言って全てリリーナに押し付けた。
急に名を出され「えっ?」と口にしたリリーナを後にリーフは身を翻しもと来た道を戻る。
後から背後でマシンガンの如く説明する声が聞こえたが、気にしない事とした。
入り口近くまで戻ったリーフは壁にもたれかかる三体の魔動機人に話しかける。
「無事・・・とは言い難いかな。すまないこんなに壊して。」
『いや、あのまま暴走を続けていればココにまで危害を加えていたかも知れない。むしろこちらが礼を言わせてくれ。』
やはりこの魔動機人達には知性があった。まさか自分と同じようにコミュニケーションをとって生活を共にしているとは思いもよらなかったが。
「単刀直入に聞くが、お前達を操ろうとした者について何か覚えていないか?」
この時代でコンピュータウイルスを作れるのは機械に精通した人間か、アブルホールやティガのような存在自体が機械のものだ。
だが、
『すまない。そのあたりは全く覚えていないんだ。』
三体共全く記憶がないのだ。
「・・・ティガ。」
『彼らの言葉は本当です。恐らくウイルスに感染した後で暴走が起こった為、記憶データがデリートされてしまったと思われます。』
ワクチンプログラムを打つ為に彼らの中に入ったティガがそう言うなら間違いはないだろう。
「じゃあ今から人間の名前と写真を見せるから、知っている場合は教えてくれ。」
タブレット画面に写真を映し反応を見る。
父親小林淳一郎。首を傾げる。
母親小林恵美。首を横に振る。
妹小林沙弥。やはり首を横に振る。
「染井桜。」
すると、これまでとは違って三体は顔を見合わせた。
「何か知っているのか?」
『・・・いや、知らない。』
『記憶データにも存在しない。』
青と紫の魔動機人フェルゼンとミズガルズはそう言うが、何かを知っているのは明確であった。
と言うよりも機械なのに声が上ずりすぎる為、嘘だとバレバレであった。
先程までは協力的だったのに急に話せなくなった。ならば彼らは桜を知らない。だがその反応からすると、
「知っているのは赤坂ココか?」
三体が一斉にこちらを見る。
どうやら図星のようだ。
すぐにココに詳しく聞こうとしたが、緑の魔動機人アスガルに止められる。
『待ってくれ!』
呼び止められアスガルに向き直る。
表情がないアスガルだが、彼の言葉は何処か必死な気持ちがあった。
『ココは昔の話をするとパニックを起こすんだ。』
何でもかつて彼女はこの場所から遠く離れた人類革命連合国の『軍』で整備士として働いていたらしい。
だが彼女はそこで知ってはいけない真実を目にしてしまった。
そして怖くなって軍を逃げ出し、その途中で魔動機人達と出会い、現在に至る。
「知ってはいけない真実?」
『あぁ、だが俺たちもその真実が何なのかは知らない。だが彼女曰く、』
『「この事が公になれば再び戦争が起こる。」』
『とな。』
彼らは大袈裟に言っている訳じゃない。ただ彼女の為を思って言っているのだと理解できた。
「わかった。これ以上の詮索はやめておく。」
本当ならもっと詳しく調べたかったが、戦争などとんでもない事態に巻き込まれる事は避けたい。
それに全く手がかりが得られなかった訳じゃない。
おそらくココが桜の名を耳にしたとすれば彼女がいた人類革命連合国であろう。
もしかしたらそこにいるのかも知れない。
「(だが今は無理だな。)」
自ら赴き確かめたいものだが、情報が少なすぎる。
さらに今の自分は人間ではなく中位木精霊だ。黒髪が多くて人間に見えなくもないが、あまりにもリスクが高すぎる。
行動するならばもっと情報を手に入れてからのほうがいい。
考え込んでいると奥から笑顔のココと少しやつれたリリーナと仲間が帰ってきた。
「お待たせしました。」
リリーナの後ろには先程の魔動機馬がしっかり付いて来ている。
しかし何故疲れた表情なのかと問うと、
「登録は簡単でしたが、それまでの説明が一切理解できないものでして。」
予想通り彼女の説明に足止めを食らっていたようだ。
まあ自分の興味の薄い事を詳しく聞かされてもわからない上に辛いだけだ。
とりあえず帰ったら押し付けたお詫びに何かしようと考えるリーフであった。
その後の作業は順調に進み、前よりも大きい荷馬車が完成した。運ぶ荷物もないのでリーフ達は後ろの荷台に乗っている。
挨拶を済ませ荷馬車は発進した。
疲労しない魔動機馬である為、休憩を気にする必要もない。
だが道中最高速を出してみたところ、余りの速さに振り落とされそうになった。
そして本来なら二日掛かった道のりを半日で進み、リーフ達一行は日が沈む前にバッケスへたどり着けたのだった。
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リーフ達がココと出会った時と同じく、人類革命連合国の軍内部ではいつにも増して忙しなく動いている。
理由は昨日森林調査のため遠征に出た者達が遺体となって発見された事である。
その原因解明と対策で軍の人員は動き回っているのだ。
他の部屋が対策会議やら色々と騒がしい中、ある一室だけは静まりかえっていた。
この部屋は円卓の間と人々はそう呼ぶ。
その名の通り部屋の内部には円卓が置かれ、座席が7つある。
この座席に座る者は決まっている。
何故ならこの部屋は彼女達の為に存在する場所なのだから。
「・・・レイがまだ来ていないわね?」
「そりゃ遺体の第一発見者やから他のとこで色々事情を聞かれてんやろ。」
最初に声を発したのは軍の極秘部隊。七星の副隊長、人々から「死者使い」と称される「二星」『ネフティー・テラー』。褐色肌に古代エジプト装束で脇には杖が立て掛けてある。
その彼女の声に関西弁で答えたのは「五星」『クーデリカ・フリート』。金髪碧眼に白いドレス姿で関西弁はかなりのギャップだ。
「ふへへ・・・私の占いがあたったわね。」
「マジで!?じゃあ私も占って、特に恋愛運。」
「あの~今そんな事している場合じゃ・・・」
そして密かにこの結果を占っていた魔女の格好をしているのは、「四星」『マリー・ラプラス』。
その隣でネイルを塗っているギャルが「六星」『ナビィー』。
そしてその二人におどおどしながら注意する巫女が、七星の最年少で「七星」の『叶冬花』。
そして優雅にレイを待つ七星隊長の「人類最強」の異名を持つ「一星」『染井桜』。
各々が時間を潰していると不意に扉がノックされ勢いよく開いた。
「遅れてすまない。」
現れたのは白衣に眼鏡のボーイッシュな女性。「三星」『レイ・カーティス』。
これで七星全員が揃った。
「ではこれより定例会議を行います。」
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この場で話し行われることは主に各部隊の状況、極秘研究所の研究成果、各地に潜入している諜報員からの報告書など集められたさまざまな情報を共有するためにある。
だが今回は今朝確認された事件についてだ。
「じゃ一通り説明するよ。」
事件発覚は今朝、エルフの里近くの森にて技術開発研究に属する研究員が遺体となって発見された。
死因は恐らく圧死。凶器は近くにあったひしゃげた廃車。酷い者はぐちゃぐちゃで身分証がなければ判別できない者もいた。
「現場で唯一無事だったPCと機材から、彼らが試作プログラムを使用していたことがわかった。」
「それってレイが着手していたものよね。」
ネフティーの言う通り技術開発研究の担当を務め、自ら研究を行うレイが作り出したものだ。
「えぇ。多分末端の研究員が手柄欲しさに僕のプログラムを持ち出したんだと思う。」
「そして失敗した。」
レイが開発したウイルスプログラムは未完成なのだ。
もしもかつてのネオ東京の機材が揃っていれば、レイの研究は簡単に実って、あの三体の魔動機人はなすすべなく操られていただろう。
「お陰で研究は凍結。こっちは大迷惑だよ。」
研究の一つを潰され思わず愚痴をこぼす。
そして次の議題に移る。
「そういえばこれも例年通りね。」
「しかし、数はこの前の何倍もあるで。」
「今回はマジみたいね。」
手元の資料を見ながら口々に話し出す。
だがこの議題は人類革命連合国にとってはあまり関係がない。いわば暇潰しの話題である。
「(・・・下らない。)」
桜はその資料をあらかた読み終えて、それを無造作に投げ捨てる。
彼女にとって自分の目的に関係がなければ、他種族の町がどうなろうが知ったことではないのだ。
そして議題は次のものに移り変わってゆく。
捨てられた資料のタイトルは「魔王軍によるバッケス襲撃予測」とはっきりと書かれてあった。




