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待って悪役令嬢! 俺、このゲーム知らない!!  作者: 逢月 悠希
4.俺、このゲーム嫌い 〜第3学年後編〜

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47.俗に言うミントテロ

 先生たちに、呼び出された。


『うーん……一体、何の用だろう』


 最初こそ酷い目に遭ったし、その後も定期的に脅され続けた。

 正直、荒んだ。でも、逆に安心できる部分もあった。


 ——なんとなく、理由が分かっていたからだ。


 先生たちは怖がっているだけで、別にわたしを害するつもりはないのだと。

 その証明として、あれ以降は特に何もされない。痛い目には遭ってない。


 呼び出されたかと思えば、「美味しいお菓子を手に入れたから」という謎の誘いだったり、試験の成績が悪すぎて「この教科は教えられるから」という理由で問答無用の勉強会が発生したり。

 そういえば、呼び出されて行ってみたら、ふたり揃って風邪で倒れていたこともあったな……。


 今日は研究室じゃなくて、少し離れた場所にある温室に呼び出された。

 貴族の人たちが使っているコンサバトリーじゃなくて、純粋な植物園だ。

 曇りガラスの向こう側にいるふたりの姿を見て、わたしは安堵する。


 場所、合ってたみたい。

 それなら、と扉に手をかけた。


『失礼しまーす』


『あ、良かった! 来てくれたのか! 助けてくれ!!』


 どっちかに助けを求められた。

 ……なんで呼ばれたのかは、すぐに分かった。


『こ、これは……』


 絶対に元から植えていたわけではなさそうな、小さな葉っぱが大増殖している。

 ふたりで頑張って引っこ抜いていたんだと思うんだけど、全然追いついてない。

 この葉っぱ、とんでもなく成長が早い植物なんだと思う。


『一緒に引っこ抜けば良いんですね?』


 ふたりじゃ追いつかないけど、この学園って貴族ばかりだ。

 平民出身のふたりが頭を下げて頼んだところで、やってくれないんだと思う。……そうだって分かり切ってるから、助けすら求めてないんだろうな。


 ふたりが立ち上がる。

 先に話し始めたのは、クレメンティ先生の方だ。


『引っこ抜いて貰っても良いのだが、終わりが見えなくてね。だから、君の治癒の力を逆転させて使うことはできないか聞きたかったんだ』


『逆転?』


 植物に、視線を落とす。

 焼き払ったり除草剤の類を撒いたりはできない。

 横に他の植物が生えているからだ。だから、手で地道に抜くしかない。


『逆転……つまり、この植物を狙って枯らして欲しいって話ですよね?』


『そういうことだな』


 ジェズアルド先生から、抜いたばかりの根っこがついた問題児を預かる。

 すごく小さな植物なのに、こんな大惨事になるなんて……。


『単体で見ると可愛いんだけどな……』


『そうだな。料理で使われることもある。臭い消し要員として優秀な上に、見た目も可愛らしいからな』


 どうしてこんなことに、と言いたいところだったけど、なんか嫌な予感がする。

 このふたりが植物の扱いを間違えるとは思えないし、第三者が関与している気しかしない。


『……。ヴィオレッタ嬢の取り巻きの誰かだと思うぞ』


『え……?』


『本人がやるとは思えない。大方、彼女に気に入られたい誰かの仕業だろうな』


 はぁ、とジェズアルド先生がため息を吐く。

 それに釣られるような形で、クレメンティ先生がポケットから鍵を取り出して見せてくれた。


『ここでは、講義で扱う植物を育てている。希少な物も多いから、鍵を掛けて管理している。……が、この鍵は職員室にもあるんだ』


 つまり彼ら以外の人間が入ることも可能、ということだ。

 多分、あまりにも希少すぎる植物や危険な植物は研究室で育ててるんだと思うんだけど、そういう問題じゃないよね……。


『職員なら入りたい放題、その職員を懐柔(かいじゅう)している生徒なら鍵を借りることもできる。犯人候補は多岐に渡るだろうな』


『……』


 悪意の塊だ。

 しかも多分、先生たちが矛先になったのは、わたしと仲が良いからだ。……ごめんなさい。


 でも、植物に罪はない。悪い人たちに利用されただけだ。

 枯らすことも、できるとは思うけど……。


『あ……』


 頭の中に、言葉が浮かんだ。

 それをそのまま、口にする。


『——慈愛の御手(みて)よ、生命を包み、あるべき場所へ繋ぐ力となれ』


 地中に埋まった根が光る。

 かなり広範囲に広がってる……けど、何とかなりそうだ。

 取り除く、というよりは還すように。

 枯らすのではなく、元に戻れと、植物たちに訴えかける。


『ヴェルデ』


 畑から小さな可愛い植物たちが消える。

 その代わりに、わたしの手のひらに種が現れた。……いっぱい。山盛り。大量。


『なんか! なんか良い感じの箱ないですか!?』


 多分これ、落としたら同じことが起きちゃう!!

 意図を理解してくれたクレメンティ先生が、近くにあった箱の中身をひっくり返して持ってきてくれた。


『すごいな……枯らすのではなく、元に戻したのか』


『ですね。なんか、頭に浮かんで……』


『……なるほど?』


 箱の中に入った種に触れながら、クレメンティ先生がうんうんと頷く。

 そして、アンバーの瞳が私の方へと向いた。


『あまり人前でそれを言わない方が良いかもしれないね』


『ど、どうして……?』


 治癒の魔法は、全部そんな感じだ。

 浮かんだところで使えないこともあるから訓練は必要だけど、悪いことにはならないから考えたことがなかった。


『困ったな。無自覚だったか』


 ジェズアルド先生はやれやれと肩をすくめた。


『通常、詠唱が頭に浮かぶようなことはないらしいぞ。効果が完全に分かっているのならば話は変わるが、何も知らない状態でポンポン閃(ひらめ)くようなことは無いと聞いている』


『そうなんですか!?


『魔法に関連する講義のことを思い出せ。どうして座学があると思っている? 座学で構造を理解した上で演習があるんだ。ポンポン閃けるなら、ぶっつけ本番にした方が早いだろう』


 た、確かに……!

 治癒の力以外はそうやって勉強してた。


 ……あんまり深く考えてなかった。


 それを察したみたいで、クレメンティ先生は深々とため息を吐き出した。


『特殊な力を持っていると、他が分からなくなるからな……困ったものだ。それはそれとして、何かしらおれ——』



 ◇



 ……宙を舞った種が、同じく宙に展開された小さな結界の中に閉じ込められている。


 派手に転んだクレメンティ先生の身体は、咄嗟に手を伸ばしたジェズアルド先生に確保されていた。

 当の本人は心の底から情けないと、恥ずかしいと言わんばかりに顔を覆っていた。


「す、すまない……すまない……」


 クレメンティ先生がセリフの途中で転(・)倒(・)し(・)か(・)け(・)る(・)という名のNGを出した。

 俗に言う『ミントテロ』を解決したというのに、その根源を再びぶちまけかけた。

 何をやっているんだ、この人は。……ジェズアルド先生の方もだけど、原作のマッドサイエンティスト成分が薄れて理性的になった結果、たまーに変なことをしでかすようになった。


 観客から「可愛い~!」という声が上がっている。

 やめてくれ、クレメンティ先生が羞恥心で闇堕ちする。


 そして俺は、さらっと結界魔法の無詠唱展開をしたアリオーソへと視線を向けた。


「君もそれ、できるんだね……?」


 ごく限られた範囲、という前提はつくが、結界魔法の無詠唱展開が理論的に可能なのは知っていた。それこそラウダは使えるし、オルフェウスもいける。

 でも、魔法が苦手なアリオーソができるとは思わなかった。……普通に使えるじゃないか、と思ってしまった。


 考えていることを見抜かれたみたいで、アリオーソは箱の中に種を戻しながら、眉間にシワを寄せた。


「魔法演習の成績は終わってるが、使えねぇわけじゃない。……ていうか、俺は偏りが酷い上に、その偏ってる奴がことごとく評価対象外になってるから成績に反映されてねぇってだけだ。物によっては少なくともお前より上だ」


「えっ!?」


「なーにが『えっ!?』だよ。ちなみに結界魔法の無詠唱展開は騎士団員ならできて当然扱いだ。魔力が無い人間なら仕方がないが、若干でもあるなら徹底的に仕込まれる」


 アリオーソやバセットもそうだが、騎士団の中には一定数、盾を持たない人間がいる。

 そういった人間は全員、結界魔法の無詠唱展開ができると判断して良さそうだ。


 とりあえず俺はオルフェウスの記憶を覗く。

 頼ってくれとは言ったけど、知識面は頼らせて欲しい。


 ……って、嘘だろ!?


「……。君が得意な魔法って何なの?」


 オルフェウス、まさかの『親友が得意な魔法』を把握していない問題。

 何で把握してないんだ!? 興味が無かったのか!?


 ……聞いてみたら、アリオーソに鼻で笑われてしまった。


「今は教えねぇよ」


「な、なんで……!?」


「ていうか、天啓が俺の能力を伝えてなかったことに驚いたわ」


 アリオーソはそのまま、観客に絶対に聞こえないように、小さく呟く。


「何度も言うが、少なくともお前より上だ。オルフェが能力を伸ばしまくった今(・)の(・)時(・)点(・)で(・)も(・)上を取れるってのは確認済みだ。……やろうと思えば、国家反逆起こせる類の能力だと思うんだがな」


 いつの間にか確認されていたらしいが、オルフェウスの上を取るって一体どういうことだ!?

 国家反逆起こせる類の能力、という言葉にゾッとしたが、アリオーソはケラケラと笑っていた。


「絶対にやらねーけど。つーか確実に警戒されるを通り越して不信感持たれるって分かってっから、ここぞって場面じゃないと使わねぇんだよ」


「そ、そっか……」


 そんなこんなで、アリオーソと会話をしているうちに、原作再現は無事に終わったようだ。観客たちが帰っていく。

 そのことに気づいた俺は、そそくさと奏音ちゃんたちの近くに歩み寄った。


「ごめん、途中から全然見てなかった……」


「いえいえ! ……というわけで、夜にヴィオレッタ様の悪質なファンによる温室放火事件が起こります。本来はいくらか被害が出ちゃうんですけど、事前に分かってるんで100%未遂で済ませたいです。よろしくお願いします」


 ——今回はとんでもなく悪質な案件に関連する原作再現シーンだった。


 オルフェウスの未来を守るために頑張ろうと決めた翌日に原作再現が舞い込んできたが、これはやるしかなかった。

 ただし今回はどうしても予定が合わなくて、原作再現に関してはシベリウスたちどころか明里さんすら不在だ。


 でも、夜には全員集まれそうだし、明里さんもこの後の転生者会議には来れるって話だ。

 奏音ちゃんにもだけど、色々と共有しておきたいことが——


「なあ、オルフェ。観客がいなくなったから話すんだが、バセットの件で報告があるんだ」


「わたしたちもバセット君に関する報告がある。というより、一昨日の話だな」


 ……共有事項が、増えた。


 ジェズアルドの詠唱に関するセリフが「〜らしいぞ」、「〜無いと聞いている」なのは、元々詠唱とかそういう概念が双子には存在しないからです。

 彼らにはこの手の伏線がチラホラあるので、明里も奏音も間違いなくプレイ中に首を傾げた部分です。


 評価等、いただけますと励みになります。

 よろしくお願いいたします。

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