15話 ラスボス
ヌーが魔法を使うと、金色の光に包まれて俺とあかり君が復活した。
「ふー、生き返りました! サンクスですヌーさんっ」
「良い運動だったよ……うん」
「なんで画面の前で踊ってたんだ? 小森。」
「いや……。 そんな事より、何故ヌーがモンスターにスルーされたかを考えようじゃないか」
モンスターどもはヘイトの溜まった順に攻撃の優先権を決めるが、ヌーはよく考えたら一度も攻撃に参加していなかった。
つまり、ヘイト値が0だったので攻撃対象に選出されなかったということだろう。
とは言っても、姿を見たり音を聞かれただけでヘイトがたまるシステムのようだから、最後のヌーから離れていった行為はおかしい。
となると、やはりトレインによるMPK行為の防止措置が働いたのだろう。
推察するに……ヘイトを取ったプレイヤーについては地の果てまで追いかけてくるが、その後は持ち場に戻るまでは視認などによるヘイト取得は起きないってところか。
「変なルール。」
「まあ楽しく遊ぶために色々な積み重ねがあるわけだな」
「それを逆手に取ったわけだ。」
「ヌーさん、鋭いですね……」
「まあ……テクニックだろ、うん。 こういう攻略もきっと想定内だ。次行くぞ次」
微妙な空気になる前に扉に手をかける。
二人もそれに続いてくれた。
ごりごりごりっと重い音を立てながら、巨大な扉が開いていく。
「まあ正直ここまでくれば満足だよな」
「あきらめムードだな。」
「できれば勝ちたいですけど……レベルとか色々足りないですよねさすがに」
ヌーの言う通り、ずっと張り詰めていた緊張の糸はとっくに切れている。
諦観を盾に、俺たちはとても和やかにボス部屋へと入っていくのであった。
「ぬう。真っ暗。」
室内は真っ暗で光源が何もない。
背後の扉は大きな音をたてて勝手に閉まった。
「ぬわーっ。退路がっ。」
ありがちなシチュエーション。
……なのだが、いちいち感想を口に出してくれるヌーが可愛い。
俺もあかり君もそれが大切な事だと知っているので
、あえて突っ込まずに黙っていた。
『我は管理者なり。砦そのものなり。見ていたぞ冒険者たち……。ここまでの戦いぶり、中々のものだった』
「ぬ……。戦ってなくね?」
「ぷっ……」
どこからともなく響いてくるボスらしい声。喋っている内容と現実の齟齬に冷静なツッコミを入れるヌー。そして一連の流れに吹き出すあかり君。
俺はそっと目を閉じてこの世界を作った神様にごめんなさいをした。
『最後の試練を受けてもらう。これからお前たちが戦うのは、貢献度の一番高かったパーティの写し身たちだ。光の者も、闇の者も、手を取り合い戦わなければ勝ち目がないぞ。ただし、試練の合格者となるのは最後に残った1パーティだけだ』
「あー、やっぱり複数パーティで挑む難易度設定なんだな」
「……どゆこと。」
「ようするに私達のコピーが相手ということですね」
『では行くぞ。招来ッッ!』
雷が三つ落ちたような演出とともに部屋が明るくなる。
俺たちのキャラクターと瓜二つな敵が3人、立ちはだかっていた。
「クローン。面妖な。」
持ってる武器から姿形まで全て同じモノだが、こちらと違って目が赤く光っているので見分けはつく。
でもなんかそのせいか俺たちより強く見える。
「俺たちと全く同じ能力だったら、道中よりはるかに楽だな?」
「確かに……。とりあえず目の前の私を殴ってみましょう!」
「あ、おい! うかつに──」
あかり君が不敵に笑う偽あかり君へと突撃して大盾を打ち付ける。
金属同士のぶつかる激しい音が鳴り響いた。
「ダメージ的に同じレベルのようですね。これなら何度か攻撃すれば……」
『ライトヒーリング』
「……向こうに俺いるから無理かも」
偽あかり君のダメージが一瞬で回復してしまった。
ヒーラーをなんとかしない限り、あかり君は倒せないだろう。
「ボクもいる。蘇生されちゃう。」
「ということは……ヌーから殴り殺そう!」
「ちょっと気がひけますね……」
それにしてもさっきから全然攻撃してくる気配がないな。
赤目の『偽俺たち』は不敵に笑っているだけだ。
攻撃すれば反応するんだが、その他のタイミングではずっと動かないでいる。
攻撃スキル持ってないからかなぁ。もしそうだとしたらまた想定外のプレイングしてごめんなさい神様。
一通りお祈りしたあと、偽ヌーを殴りにいった。
『やられたー』
後衛で低レベルということもあり、偽ヌーは即死した。
『ぐわー』
後衛で低レベルということもあり、偽暗黒卿は即死した。
『まけましたー』
やや硬かったけど全然反撃してこない偽あかり君はじわじわと死んだ。
あっさりと終わってしまったボス攻略に、俺達は終始首をかしげていた。
『真の強者たちよ! お前達に我が力を貸そう。実はここは砦の制御室なのだ』
砦さんの声がするとともに、部屋の壁が崩れ落ち、点滅するエレクトロニカルな近未来風壁が現れた。
壁には大きなディスプレイがはめ込まれており、俺たちが通ってきた戦場の様子が映し出されている。
『この砦は移動要塞だ。目の前のディスプレイがお前達の目である。操作パネルを使い、動かしてみるがいい』
おあつらえ向きの椅子とパネルが地面から生えてくる。
「あかり君、やる?」
「いえいえ……私は遠慮しておきます」
まあ、念のため聞いただけだ。
興味津々なヌーにやらせるのが一番面白いに決まっている。
「よし行けヌー」
「おうっ。」
ヌーがぴょんと椅子に飛び乗ると、椅子とパネルはちょうどいい高さまで伸びていった。
「ボタンいっぱいある。」
「好きなの押していいぞ」
「ぬー。この赤いのもか?」
「おう、連打したっていい。お前の船だ」
言って後悔した。
自爆ボタンとかあったらどしよう。
「えいっ。」
砦が揺れ始める。
戦場のプレイヤーたちはこちらに気付いたのか、戦闘中にも関わらず全員が首を上げてこちらを見ている。
正直この砦が外から見てどうなっているのか想像もつかない。
山だと思っていたものが動き出したくらいの感じなのだろうか。
「えいっえいっ。」
さらに砦が揺れる。
今度は戦場へ向けて、極太の光線が放たれた。
プレイヤーがいたはずの場所は真っ赤な焦土となり、たくさんのキルログが流れる。
「おほー、えぐいな」
「ぬあぁ……!? こっこれ……もういいっ。」
はしゃぐものかと思いきや、ヌーは顔色を悪くしていた。
PKは嫌いなんだろうか。そんな純真なやつには見えないが。
それともゲームのやりすぎで気分が悪くなったか?
って今、何時だ──はっとして時計を確認する。
「……まずいぞ、あかり君」
「お外、明るいやつですね……」
時刻はいつの間やら午前5時。
こんなに長時間突き合わせてたら顔色も悪くなるというものだ。
ヌーの小さな体には負担も大きいだろうに、かなり無理をさせてしまったかもしれない。
「総員、ログアウト! 今日はもう寝なさーい!」
「はい閣下っ、お疲れ様でした! とってもとっても楽しかったです」
「ん……おやすみ。」
短くあいさつをすると、みんなさっさと自分の部屋へと戻っていった。
――ベッドの中で考える。
ネットゲームを通じて色々なコミュニケーションがとれたとおもう。
俺は陰キャだからこういう方法でしか深く話すことができなかったが、彼女たちはどう感じただろうか。俺の独りよがりになっていなかっただろうか。
何年分も溜め込んだエネルギーを吐き出した気分だ。
ここ最近で一番疲れた。でもこれは心地良い疲れだ。
次から次へと取り留めのない回想が浮かんでは沈んでいく。
まぶたの裏側にうつるあかり君の笑顔、泣き顔。
ヌーもよくよくみると表情が豊かだ。
最後にヌーが見せた顔が気になって、得体のつかめない罪悪感のようなものにチクリと心が痛んだ。
それから睡魔は全てを優しく包み込むようにして、俺の意識をそこから遠くに連れ去っていった。




