Lesson3「ぷりん党 IN 聖夜祭」 11
数日後。私は部室に隼人を呼びつけた。
閑散とした冷たい部室が、私の心を締め付ける。椅子に座り、息を吐くと白かった。
しばらくして、コンコンとドアをノックする音が聞こえたので「どうぞ」と返した。
「失礼します」
入ってきた隼人はいままで見てきた隼人だった。違いといえば、今まで満面の笑みを浮かべていた面影が消えている。目を真っ赤に腫らし、下を向いて私を見ようとしない。部室の片隅に立ち、一定の距離を取る。隼人の右手には封筒が握りしめられていた。表面には「退」と書かれてあるのが見える。
この状況で「退」と見れば、想像は付く。
私は視線を隼人から、壁に貼られてある「女子禁制」の半紙に目を移す。
「隼人。そこに書かれてある文字を言ってみろ」
ゆっくりと隼人が目線を移動させる。
「パッ、パンティはラインに有り」
私の言い方が悪かった。
「違う。隣のやつだ」
「女子禁制です」
「そうだ。我が部は女子禁制だ。それが何を意味するか分かるか?」
「……はい」
私は立ち上がり「女子禁制」と書かれた半紙を剥がし、隼人の目の前に持って行く。
「これは、私がぷりん部を創立した際に書いたものだ」
「はい」
隼人が小さく、消え入りそうな声で頷く。
「漢は女性のパンツを見ることが義務である。女性に、その恍惚な信念は理解出来ない。そう思って書いたのだ」
「……」
隼人は何も言わず、小さく肩を震わせた。時折、頬を手で拭う仕草を見せる。
「私は如何なる理由があっても、禁忌を犯した者を罰してきた。信念を貫くことが煩悩に生きる者の義務だと思っていたからだ」
私は手にした半紙を引き裂いた。
ビリビリと細かくちぎり天井に投げ捨てる。パラパラと雪の如く舞い降りる。
「しかし、信念や禁忌はパンツを愛する者の規律であって枷ではない。私の掲げた規則でカワイイ後輩が苦しむのであれば、私は謝らなければならない」
そして、私は隼人に深々と頭を下げた。
「えっ? せっ、先輩」
「すまなかった。この半年間。お前を私のエゴで苦しめてしまった。許して欲しい」
「そんな……」
「女子禁制を白紙に戻した上で、もう一度、隼人に尋ねたい」
「なんですか?」
「我がぷりん部に女子部員一号として入部してくれないか?」
隼人とこれまで過ごしてきた思い出と、私のちっぽけなエゴを天秤に掛けたら一目瞭然である。仲間を思わない漢は漢ではない。
私は下ろした頭を持ち上げ、隼人を見ると、瞳一杯に涙を浮かべながら「はい。どこまででも付いていきます」と満面の笑みをこぼした。
やはり、隼人には涙より笑顔がよく似合う。
私は隼人が持っていた退部届を取ると「これはいらないだろ?」と言ってビリビリに破く。天井に投げると、あの時隼人と見られなかった雪のようだった。
「そうだ、一つ言い忘れていた」
頭に舞い降りた紙片を指先で掴む姿を見て、隼人は首を傾げる。
「言い忘れていた? なんですか」
私は掴んだ紙切れを隼人に手渡し「メリークリスマス」と小さく言った。
隼人も頬を染めながら「メリークリスマス」と返した。
その時。ガラガラとノックもせずドアが開くと、聞き覚えのある声が静かでひっそりとした部室にこだました。
「やったじゃない」
「よかったやないか、隼人」
キララと黒蝶が、拍手をしながら部室に入ってくる。突然のことで、さすがの私もビックリした。
「お前たち。なぜここに!」
「隼人が心配だから隠れてみていたのよ。練習を抜け出してきたんだから、ありがたく思いなさいよ」
「うちは、瞠に会いに来たら、深刻な話しているけん、隠れてたんよ」
「お前たち」
まったく、恥ずかしい場面を見られてしまったものだ。
「しかし、瞠も素直じゃないわね」
「なにがだ?」
「とぼけないでよ。隼人の気持ち、分かっているんでしょ?」
「ああ、わかっている」
当たり前だ。
「パンツを愛する者に性別は関係ない」
「えっ?」
隼人とキララの目が点になる。
「しかし、驚いたぞ。キララもぷりん部に興味があったとは」
「ちょっと、待って。たしかに好きって言ったけど……」
「どうだ? お前もぷりん部に入部するか? パンツに興味があるのだろう?」
「その、好きじゃないいいいいい」
「違いますううううううう」
キララと隼人が同時に叫ぶ。
「あはは。恥ずかしがるな。パンツは誰にでも平等である。どうだ? これを機に、みんなで『年末限定イケナインジャーお守り』でも買いに行くか!」
数日後は元日である。去年は一人でお守りを買いに行った。しかし、今年は仲間がいる。素晴らしいことではないか。私たちが揃えば鬼に金棒である。きっと限定数個のイケナインジャー招き猫も手に入れられるはずだ。
私の隣で隼人が「年末限定お守りがあるんですか? それは楽しみです」と手を叩いて喜んでいる。
「瞠と一緒に初詣が出来るなら、うちはどこにでも行くけん」
「まあ、しょうがないわね」
と、二人も賛同する。
元旦に起こりうる、亡者を相手にした『イケナインジャーお守り争奪戦』を思い描きながら私は「ああ、今から元旦が楽しみだ」と笑った。




