プロローグ
物語というものは待ってはくれぬ。
問われても黙り、差し出されても受け取らず、それでも生き続ける者を──妾は主人公とは呼ばぬ。
其方はいつまで考えているつもりじゃ?
考えるだけの人生は、物語にはならぬぞ。
革命のあと、国を出て、名を隠し、色の異なる国々を渡り歩きながら、其方はずいぶんと長いこと『悪』という言葉を転がしておったのう。
くふふ。実に人間らしい迷いじゃ。
多くの主人公は迷っているうちに終わる。
誰かの言葉を借り、誰かの答えに縋り、己で選ぶことをしない。
主人公。
生まれ落ちたその瞬間から与えられた、極上の役割。
それをただ一つのカメラ役として浪費し、己の人生でありながら、主役の座を他者へ明け渡してしまう者のなんと多いことか。
だが其方は違う──見て、聞いて、拒んで、肯いて、それでもなお答えを保留にした。
悪は必要だ。
じゃが、何でもよいわけではない。
悪人は楽を選ぶ。
善人は日常を選ぶ。
ならば、その狭間に置くべき秩序とは何か。
そこまで辿り着けた主人公は、そう多くない。
もっとも、まだ物語にはなっておらぬがな。
今の其方はただ考えているだけじゃ。
選んではおらぬ。背負ってもおらぬ。何一つ、始めてもおらぬ。
じゃが……、ふむ。
これかもしれない──そう思える何かを、其方はもう手の内に残しておる。
ならば、そろそろよかろう──




