1 里帰りとプレハブ小屋転移
都会暮らしに疲れ切った33歳のサラリーマン、マコトこと久我山真は困惑している。
多分、異世界にいる。
◆◆
マコトは、あと数日で会社を辞める。人はいいが他人の悪意に無防備すぎて、汚い上司の失敗の責任を押しつけられたりした。
海も山もある故郷に帰って田舎暮らしをすることに決めると、幾らか心も軽くなった。仕事も紹介してもらえそうで、病んだ心も持ち直しかけている。今日から田舎に移住する準備を始めた。
両親が亡くなって、たまに手入れしていた過疎の村の家だ。ここに引っ越すから、有給を取って日常物資、調味料まで色々な物を持って車に乗った。
で、家に到着し玄関の鍵を開けた。
大荷物を持って、実家に足を踏み入れたときだ。
「……あ、あれ?」
田舎の広い玄関と廊下、部屋数が自慢だったはずの実家がおかしい。
奥行きがない。玄関もない小屋にいる。
工事現場とかに臨時で設置する、8畳のプレハブ小屋にしか見えない。マコトは左側のスライドドアを開けた感じで立っている。床は板張りで窓の外には木の枝が迫っている。
マコトは驚きのあまり、回れ右した。外には車どころか庭すらなくなり、大きな木が立ち並んでいた。
どう見ても森の中だ。
森を探索する勇気はなく、とりあえず中を確認した。中は電気も点けていないのに明るい。
正面に簡易キッチンと、それに似つかわしくない大型冷蔵庫がある。反対側の角に天井までのパーテーションで囲ったドア付きスペースが2つある。ドアにはトイレとシャワーのマークがある。
そして扉の横の壁に棚があり、10センチの模型と手紙、指輪が置いてある。
模型は屋根の中央にからアンテナが上に伸びたプレハブ小屋のミニチュア。
手紙を開いて読むと日本語で書いてあった。
『時空の狭間に捕らえられた日本人よ。ここは剣と魔法と野蛮人の世界だ。文明も遅れ味付けは、ほぼ塩。だから私が作ったプレハブ小屋を君にやろう。小屋は進化するから、なんとか生き延びてくれ。指輪は言語理解の機能を持つ便利グッズだ。
転移賢者・久我山康介』
「13年前に山で行方不明になった康介叔父さんじゃん。賢者ってなんだよ!」
そこを突っ込むのかと言いたいが、マコトは本来は気楽な性格。
ちなみに叔父・康介は山登りと温泉巡り、ファンタジー小説が好きな公務員だった。マコトは多少なりとも影響を受けている。
「まあ、田舎暮らしする気だったし、外国の田舎に来たと思えばいいか」
断じて良くない。しかし、食べ物、着替えが入ったリュックとキャリーバックもプレハブ小屋に持ち込まれている。
物は整っているし何とかなるかと思いながら、棚のミニチュアのプレハブ小屋に触れた。
ドクン、と胸に何か入ってきた。
ブォンと音がして、すべてが消えた。
プレハブ小屋も荷物もなく、もちろん元の世界にも帰っていない。マコトはダウンジャケット、ジーンズ、スニーカーという格好で薄暗い森の中に放り出された。
「なにが起こった…。そうだ異世界なら、あれだ。ステータスオープン!」
半透明の文字が何もない空間に現れた。
◇マコト◇レベル1◇15歳◇
◇HP10◇MP10
◇筋力10◇知力10◇防御力10◇素早さ10◇魔法耐性10◇器用さ10
◇スキル空間術 プレハブ小屋レベル1 2メートル空間収納
「おお~、出たよ。やっぱり異世界だよ。若返って身長は170センチくらいか。5センチくらい低くなったかな」
そんなことを言っている場合ではない。何も持たないマコトが森に放り出されたのに、日が傾き始めている。
いかにも夜行性の獣が出そうな森。目をこらすと獣道がある。
高い木々の間で、方向も分からない。さらにピンチが迫ってきた。
「ぐるるるるる…」
「シベリアンハスキー?」
体高1メートルのフォレストウルフだ。もう距離は10メートルもない。よだれを垂らしながらマコトを見ている。
いきなり走ってきた。ウルフがジャンプして、牙が迫ってきた。
「なんか出てくれ。空間術、収納、いや、プレハブ小屋!」
すると、マコトの視界が切り替わった。
ウルフから見ると、仕留めたと思った人間がその場から消えた。
消えたマコトは、なんと再びプレハブ小屋の入り口に立っていた。
周りを見渡すと持ってきた物資も、さっきと同じように置いてある。
棚のミニチュアプレハブ小屋は消えている。恐らくマコトの中のどこかでスキルとなっているのだろう。
ふと上を向くと、天井が白黒のモニターのようになっている。マコトがいなくなって戸惑うウルフがいる。音は聞こえない。
意識すると壁も透明モニターになったが、泥と木の根しか映っていない。プレハブ小屋は地面に埋まっているようだ。
「空間術…。なんかすごくないか」
見た目はプレハブ小屋だけど、オーバーテクノロジーの匂いがする。
ウルフが消えたマコトを探してうろうろしているし、去るまで外に出られない。
マコトはプレハブ小屋の中を検証することにした。




