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エルフの里の危機と鋼鉄の怪鳥

5月31日、大幅にブラッシュアップ(加筆・修正)いたしました。

キャラクターの心情や設定をより深く掘り下げていますので、初見の方も、再読の方も楽しんでいただければ幸いです!


魔人四天王の一角、焦熱のザガンを討伐したという驚愕の報告を、リーファス、クリス、ディードリットの三人が総長室で行っていた、まさにその時であった。

 部屋の片隅に設置されていた、超高等魔導通信機がけたたましい警告音を鳴り響かせ、真っ赤に発光した。


「総長! ブリタニア王国のロンドン支部より、最上級の緊急通信です!」


血相を変えて部屋に飛び込んできたギルド職員が、声を裏返らせて張り上げる。

「ブリタニア辺境、エルフの里に、突如として魔王軍の残党と思われる強大な魔竜、および数千の魔物の群れが急襲! 現在、防衛結界が突破されつつあり、壊滅寸前とのことです!」


その報告が耳に届いた瞬間、ディードリットの美しい顔から一時に血の気が引いた。

「そんな……アリス! 里にはまだ、病み上がりのアリスがいるのに……っ!」


バチカンからブリタニアの地までは、海を渡るための船便の手配、さらには上陸後に馬や馬車を幾度も乗り継がねばならず、どう急いでも数週間はかかってしまう極遠の道のりだ。しかも、エルフの里はそのブリタニアの中でも、深い原生林に遮られた辺境の秘境。

 今この瞬間にも滅ぼされようとしている故郷へ、物理的に間に合う移動手段など、この世界のどこにも存在しなかった。


絶望のあまり膝から崩れ落ちそうになるディードリットの華奢な肩を、リーファスが力強く、しかし至極落ち着いた手つきでしっかりと支えた。


「落ち着け、ディード。今から最速で向かえば、確実に間に合う」

「最速って……リーファス、あなたは一体どうやって……!? 船の手配だって今からは無理だし、馬をどれだけ飛ばしたって何日もかかるのよ……っ!」


涙目を向け、狂おしく問いかける彼女に対し、リーファスは口角を不敵に、少しだけ上げて見せた。

「簡単なことだよ。地上や海に道がないというのなら――空を駆けていけばいい」


◇◇◇◇◇


リーファスは驚く総長やギルド職員たちを横目に、バチカン本部の広大な中庭へ出ると、静かに碧の目を閉じ、体内の濃密な霊力を一気に練り上げた。


「――英霊降臨。世界初、太平洋無着陸横断飛行の先駆者――『クライド・パングボーン』。そしてその愛機、ミス・ビードル号」


まばゆい白銀の光と共に中庭へと顕現したのは、前世の地球において偉業を成し遂げた、鮮やかなオレンジ色の美しい単葉飛行機であった。リーファスは自身の精密な霊力で機体の構造をいじり、本来の二人乗りの仕様から、ゆったりとした「4人乗りの座席」へと改変して現世に実体化させたのだ。


「な、なんだあの巨大な異形の金属の塊は……!?」

「魔力など一切感知できんぞ! 古代のゴーレムの類いか……!?」


周囲にいた精鋭探索者や高位の魔術師たちが、未知なる「科学の産物」の登場に度肝を抜かれ、騒然とどよめきを上げる。


「さあ、乗ってくれ。席に付いているベルト(シートベルト)をしっかり締めるんだ」


呆然と立ち尽くすディードリットの背中を優しく押し、リーファスは自ら操縦席へと滑り込む。

 助手席にクリス、後部座席にディードリットを乗せると、ミス・ビードル号はプロペラの凄まじい爆音をバチカンの空に響かせながら、滑走路代わりの中庭から、瞬く間に大空へと飛び立っていった。


◇◇◇◇◇


それから、わずか数時間後。

 普通なら船と馬車を乗り継いで絶望的な日数をかけるはずの距離を、ミス・ビードル号は一気に飛び越え、ブリタニア・エルフの里の上空へと到達した。


眼下を見下ろした一行の視界に飛び込んできたのは、美しい緑の里を火の海に変えんと、巨躯の魔竜が今まさに絶大な熱線ブレスを放とうとしている、絶望的な光景だった。さらに地表では、無数のオークや悪魔の群れが、悲鳴を上げる里の結界を文字通り雪崩のように押し包んでいる。


「クリス、ディード! 地上の羽虫どもは任せたよ」


リーファスは遙か上空、高度数百メートルでミス・ビードル号の扉を開け、躊躇なく大空へと身を躍らせた。

「リーファス様、ご武運を!」

「――空間固定ディメンション・ロック! リーファス様の絶対の『足場』を展開します!」


クリスの空間魔法によって虚空に生み出された、透明な静止空間の足場を鋭く蹴り、リーファスが重力を無視して魔竜の真正面へと弾丸のように肉薄していく。それと同時に、クリスとディードリットもまた、戦火の地上へと鮮やかに降下した。


「私の故郷を……アリスのいる大切な里を、その汚らわしい足で踏みにじるなァッ!!」


風の精霊魔法を身に纏い、ふわりと地上に舞い降りたディードリットが、Sランク『絶剣』としての凄まじい覇気を爆発させる。彼女が愛用のレイピアを抜いた瞬間、周囲の空気が一瞬にして、触れるものすべてを切り裂く極薄の刃へと変貌した。


「――『絶風剣・嵐陣ゼファー・ストーム』!」


肉眼では捉えきれない、神速の連続突き。

 その穂先から生み出された数千の真空の烈風刃が巨大な竜巻となって戦場を猛威を振るい、前衛にいた数十匹のオークたちを一瞬にして細切れの肉塊へと変え、消し飛ばした。エルフ流剣術と精霊魔法の極致――まさに『絶剣』の二つ名に恥じぬ、圧倒的な蹂躙劇であった。


「チッ、すばしっこいエルフめ! 構うな、数で押し潰せ!」


指揮を執っていた上位魔族が狂ったように叫び、数十体の悪魔の群れがディードリットの死角から一斉に牙を剥こうとする。

 しかし、その魔物たちの足元に広がる「影」が、突如として底なしの深淵のように漆黒に染まった。


「……リーファス様の華麗な舞台の邪魔をしないで。あなたたちみたいな羽虫が、これ以上ウロチョロ動かないでくれる?」


冷酷なまでに透き通った、美しい声。

 クリスの夜色の髪が、魔力によってふわりと宙に舞い上がる。世間から忌み嫌われる闇魔術――だが、今の彼女にとってそれは、愛する主の背中を完璧に守り抜くための、至高にして最強の矛であった。


「――『影空間断裂シャドウ・ギロチン』」


魔物たちの足元の影から、空間そのものを無理やり切り裂く漆黒の断頭刃が無数に突き出す。

 いかに肉体を強化しようとも、物理的な防御など一切意味を成さない次元の斬撃が、悪魔たちをその鎧ごと一瞬で両断していく。

「空間転移ゲート……そこですね」


さらにクリスは空間の穴を繋ぎ合わせ、魔物の背後の影へと音もなく回り込んでは、的確に心臓の急所を穿っていく。

最高峰のSランクであるディードリットと、彼女に勝るとも劣らない凶悪な空間制御能力を持つクリスのコンビネーションの前に、魔王軍の群れは瞬く間に文字通りのゴミのように掃討されていった。


◇◇◇◇◇


一方、遙か大空の戦いもまた、決着の時を迎えようとしていた。


「グルルルルァァァァッ!!!!」


空間を激しく震わせる咆哮と共に、魔竜の巨大な顎から、里を一撃で消し飛ばすほどの極大の魔力ブレスが放たれた。

 だが、空中を自由自在に駆けるリーファスは逃げる素振りすら見せず、むしろ両手を広げてその滅びの業火を真っ正面から受け止めた。


「お前のその巨大な魔力……すべて、私の霊力ちからとする!」

――『魔霊反転まれいはんてん』。


魔竜が放った必殺の破壊ブレスは、リーファスの身体に触れた瞬間、その因果を完全に書き換えられ、すべて清らかな白銀の「霊力」へと反転吸収されていく。

 絶対的なエネルギーをその身に吸い尽くし、リーファスの全身から、神々しいまでの膨大な霊力のオーラが立ち上った。


「さて……腹ごなしに、少しばかり派手な竜退治といくか」


極限まで高まった霊力をもって、リーファスは歴史上、最も高名な「竜を討ち果たした聖人」をその身へと降臨させる。


「――英霊降臨。『セントジョージ』。探求せよ、聖剣――『アスカロン』!」


リーファスの右手に、神聖なる光をこれでもかと纏った伝説の聖剣アスカロンが顕現した。

「退魔」の絶対の力と、「竜殺し」の概念そのものが完璧に融合したその一閃は、もはやこの世界のいかなる生物であっても、防ぐことなど不可能な絶対の審判であった。


「――シッ!」


鋭い少年らしい呼気と共に、天空を切り裂いて放たれた至高の一閃。

 魔竜の誇る、あらゆる魔術を弾く強固な竜鱗も、その数万トンの巨体も、まるで熱したナイフでバターを断つかのように、あまりにも容易く真っ二つへと両断された。


魔竜は悲鳴を上げる暇すら与えられず、眩い光の粒子となって浄化され、消滅した。

 地上の魔物も一匹残らず掃討され、里には静寂が戻る。燃え盛っていた炎はクリスの魔法で鎮火され、駆け寄ってきた小さな妹アリスをその胸に強く抱きしめながら、ディードリットは涙を流し、リーファスとクリスを見つめて深く、深く頭を下げるのだった。


本日もお読みいただきありがとうございます!

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