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後日談7:視界の果ての誓いと、ローマの休日

侯爵としての激務と、バチカンの邸宅で賑やかに過ごす愛しい家族たち。

そんな騒がしくも幸せな日常から少しだけ抜け出して、私とクリスは二人きりでローマの街を歩いていた。


「リーファス様、見てください! スペイン広場です。演劇で見た景色と同じですね」


雲一つない青空の下、大階段を見上げてクリスが弾んだ声を上げる。普段は凛としたメイドである彼女が、今日ばかりは年相応の少女のように目を輝かせていた。

平和を取り戻した街は観光客で溢れていたが、少し人混みが激しくなると、クリスは私の腕にぎゅっとしがみつき、彼女の固有魔法である『空間移動ショートワープ』を発動させた。


「……っ、と」


ほんの一瞬の暗転。気づけば私たちは、人だかりを避けた階段の上部へと移動していた。

クリスの空間魔法は『術者の視界に収まる影への移動』にしか転移できないという制限がある。だが、こうして少しの人目や喧騒を避けて二人きりの空間へ飛ぶには、これ以上なく便利で、なによりも彼女の温もりを間近に感じられる魔法だった。


それから私たちは、悠久の時を刻むパンテオンへと足を運んだ。

巨大なドームの頂上にある円形の天窓オクルスから、一筋の光が神殿の内部へと差し込んでいる。その神秘的な光の柱を見上げながら、クリスはぽつりとこぼした。


「……私の空間魔法は、あの光が届くような、目で見える影にしか飛べません」


彼女の横顔は、どこか愛おしそうに目を細めていた。


「昔は、長距離を飛べない自分の魔法が不便だと思っていました。でも……今は違います」


クリスは私のほうへ向き直り、その美しい瞳で私を真っ直ぐに射抜いた。


「リーファス様から絶対に目を離さなければ。私はいつでも、一瞬であなたの傍に行けるのですから」


その言葉の奥にある、彼女の深すぎる愛情と覚悟。

ただ守られるだけではなく、同じ死線をくぐり抜け、魂の根幹を寄り添わせてきた彼女だからこその重みが、私の胸を熱くさせた。


その後、トレヴィの泉を訪れた私たちは、肩を並べてエメラルドグリーンの水面を見つめた。

クリスは目を閉じ、硬貨を背越しに泉へと投げ入れる。ローマに再び戻ってこられるように、あるいは、愛する人と永遠に結ばれるようにという願いを込めて。


◇◇◇◇◇


そして、ローマ巡りの最後。

私たちは、バチカン宮殿に隣接する『システィーナ礼拝堂』へと足を踏み入れた。


先ほどまでの街の喧騒が嘘のように、堂内には厳かで静謐な空気が満ちていた。

私は密かに『霊力』を練り上げ、周囲に極薄の認識阻害の結界を展開する。誰にも邪魔されない、完全な二人きりの空間を作るために。


見上げれば、ミケランジェロの壮大な天井画が私たちを圧倒する。

神聖な静寂の中、クリスはそっと足元に広がる自身の『影』に手を差し入れた。彼女のもう一つの空間魔法である『影の収納』。

Sランクの探索者である彼女の影の底には、強力な魔力アイテムや貴重な素材が眠っているはずだ。しかし、彼女がその一番奥底から大切そうに取り出したのは――。


「……これは」

「ふふっ。覚えていますか? 出会ったばかりの頃に、リーファス様が私に買ってくださったものです」


彼女の掌に乗っていたのは、決して高価ではない、素朴な髪飾りだった。

激しい戦闘の連続で、いつ壊れてもおかしくなかったような安物。それを彼女は、自分自身の影の一番安全な場所で、今日までずっと大切に守り続けていたのだ。


どんな宝物よりも愛おしそうに、その髪飾りを見つめるクリス。

彼女の不器用なほどに一途な想いに、私はついに堪えきれず、彼女の華奢な肩を引き寄せた。


「クリス。……君の愛の深さに、私はどう報いればいいのだろうな」

「リーファス様……?」


不思議そうに見上げる彼女の左手を取る。

そして私は、自身のポケットから、ずっと渡す機を窺っていた『小さな箱』を取り出した。


「渡すのが遅れてしまったが……この婚約指輪を、君に贈らせてくれ」


箱を開けると、システィーナ礼拝堂の厳かな光を受けて、純白のダイヤモンドがまばゆい輝きを放った。

クリスは大きく息を呑み、両手で口元を覆った。彼女の瞳から、大粒の涙がポロポロとこぼれ落ちる。


「私の命も、私の隣も、すべて君のものだ。クリス、私と結婚してほしい」


誰よりも早く私の手を取り、誰よりも深く私を愛してくれた、私の絶対的な『正妻』。

涙で震える彼女の左手薬指に、冷たくも温かい銀の指輪をゆっくりとはめる。


「はい……っ、はい……! 私のすべては、永遠にリーファス様のもの……あなたの、一番の妻です……っ」


ミケランジェロの描いた神々と聖人たちが見下ろす下で。

影の中に隠し持っていた小さな思い出を、はるかに超える永遠の輝きを与えられたクリスは、世界で一番美しい涙を流しながら、愛する英雄の胸へと力強く飛び込んだ。


挿絵(By みてみん)

これにて『現代陰陽師異世界で魔を祓う』の物語は、後日談を含めてすべて完結となります。

第一部の106話、そしてこの後日談まで、リーファスたちの軌跡を最後まで見届けてくださり、本当にありがとうございました!


皆様の温かい応援のおかげで、本作はこれまでに以下の素晴らしい記録を残すことができました。


【本作の実績】

★日間注目度/すべて 最高7位獲得!

★日間注目度/完結済 最高11位獲得!

★日間異世界転生/転移ファンタジー 最高71位獲得!

★週間異世界転生/転移ファンタジー 最高111位獲得!

★累計10,100ユニーク読者突破!


一万人を超える読者の皆様にこの物語をお届けできたこと、作者としてこれ以上の喜びはありません。改めて、深く御礼申し上げます。


【完結記念のお願い】

もし本作を最後まで楽しんでいただけましたら、ページ下部より【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして評価(星)を入れていただけると大変嬉しいです。

皆様からの評価が、完結済み作品として新たな読者様に届くための大きな力となり、そして何より私の今後の執筆の励みになります!


【完全新作・連載中!】

現在、別枠にて完全新作『英国魔導人形伝奇譚』の連載をスタートしております!


魔力ゼロの最強ホムンクルスが、現代ロンドンを舞台に魔術の常識を拳一つで粉砕する最強無双譚です。リーファスたちの物語を楽しんでくださった皆様にも、きっと熱いカタルシスをお届けできる作品になっておりますので、ぜひこちらもお読みください!

https://ncode.syosetu.com/n5772mj/


読者の皆様、長きにわたる応援、本当にありがとうございました!

また『英国魔導人形伝奇譚』の世界でお会いしましょう!

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