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プロローグ~未完の刃~

5月25日、大幅にブラッシュアップ(加筆・修正)いたしました。

キャラクターの心情や設定をより深く掘り下げていますので、初見の方も、再読の方も楽しんでいただければ幸いです!

 視界が段々もやがかかったようによく見えない。肺に冷たい虚空が渦巻き、55年使い倒した肉体が、内側から崩れていくのが分かる。

賀茂時行カモトキユキは、自身の肉体がこの世界から引き離される浮遊感の中、皮肉な笑みを浮かべた。


(まさか、こんな幕切れとはな……)


享年55。独身。両親は既に鬼籍に入っている。15歳も年の離れた妹はいるが、結婚して子も2人。こちらは問題無いだろう。

現代日本に仇名す「悪霊」を狩る退魔師として、生涯の全てを捧げてきた男の末路にしては、あまりにあっけない気もするが致し方ない…。


 敵は、都内の廃墟ビルに巣くっていた特級悪霊。

戦いはこちらが優勢だった。

賀茂の血筋に伝わる術式は、現代に蔓延る有象無象の霊など敵ではない……はずだった。


追い詰められた特級悪霊が自身の魂ごと空間を削り取る自爆技―『異界封印』さえ発動しなければ、今頃は勝利の一服を紫煙にくゆらせていたはずだ。


 何も無い暗黒の空間。

上下の感覚も消え、虚無の狭間で、時行は命が蝋燭の火のように消えようとしていた。


死への恐怖はない。あるのは、どす黒い**「後悔」**だけ。


―俺は、不完全燃焼だった。


時行トキユキは、己の魂に刻まれた膨大な知識と技術を思う。

悪霊の魔力を奪い取り、霊力へと変える「魔霊反転まれいはんてん」術。

そして、いにしえの英傑を己の身に降ろす奥義『英霊降臨えいれいこうりん』。


 どちらも至高の技だ。しかし、平和ボケした現代日本には、それを使うに値する「好敵手」はいなかった。

強力な悪霊が少なすぎるのだ。

英霊を降ろす霊力は不足し、英霊を降ろしてもその力は数分の一も発揮できなかった。


(俺は、もっとやれたはずだ!)


 研ぎ澄まされた刃を、一度も本気で振るうことなく鞘に納める無念。

全力を出し切り、限界を超えて戦う高揚感を知らないまま朽ち果てる虚しさ。


今回だって、完全な『英霊降臨えいれいこうりん』が出来ていれば!

それに必要な霊力量があれば!

特級の悪霊に『異界封印』など使わせる隙など与えず、倒しきれたのに!


もしも。

魔が蔓延り、俺の技術が、俺の力が!

真に必要とされる世界があったなら!!


「…あぁ…未練がましいな」


 薄れゆく意識の中で、時行は自嘲する。

だが、その強烈な渇望こそ、魂を次の次元へと繋ぎ止めるくさびとなったことに、彼はまだ気づいていなかった。


55年の修練の果てに、無念という名の燃料をくべ。男の魂は、次元の壁を超えていく。


―次があるなら、そこが極上の「地獄」である事を強く願う。


その願いは、皮肉にも最悪な形で聞き届けられることとなる。


挿絵(By みてみん)

最後までお読みいただき、ありがとうございます!

リーファスとクリスの異世界探索劇、ここから本格的にスタートします。

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