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プロローグ~未完の刃~

タイトルを分かりやすいように、補足を追加したものに変更しました。

 視界が、急速に色を失っていく。  賀茂時行カモトキユキは、自らの体が世界から切り離される浮遊感の中で、皮肉な笑みを浮かべた。


(まさか、こんな幕切れとはな……)


 享年五十五。独身。

現代日本に仇なす「悪霊」を狩る退魔師として、その生涯の全てを捧げてきた男の末路にしては、あまりにあっけない最期だった。


 相手は、都内の廃ビルに巣食っていた特級の悪霊だ。

戦いは時行の優勢だった。

賀茂の血筋に伝わる術式は、現代に蔓延る有象無象の霊など敵ではない。

追い詰められた悪霊が、自身の魂ごと空間を削り取る自爆技――『異界封印』さえ発動しなければ、今頃は勝利の一服をつけていたはずだ。


 暗黒の空間。

上下の感覚もない虚無の狭間で、時行の命は蝋燭の火のように消えようとしていた。


死への恐怖はない。あるのは、どす黒い**「後悔」**だけだ。


――俺は、不完全燃焼だった。


 時行《トキユキ》は、己の魂に刻まれた膨大な知識と技術を思う。  悪霊の魔力を奪い取る『魔霊反転術まれいはんてんじゅつ』。  そして、古の英傑を己の身に降ろす奥義『英霊降臨えいれいこうりん』。


 どれも至高の技だ。だが、平和ボケした現代日本には、それを使うに値する「好敵手」がいなかった。  強力な悪霊が少なすぎるのだ。反転術で奪える魔力が少なければ、英霊を降ろしてもその力は数分の一も発揮できない。


(俺は、もっとやれたはずだ)


 研ぎ澄ませた刃を、一度も本気で振るうことなく鞘に納める無念。

全力を出し切り、限界を超えて戦う高揚感を知らぬまま朽ちていく虚しさ。

もしも叶うなら。

魔が蔓延り、俺の技術が、俺の力が、真に必要とされる世界があったなら――。


「……あぁ、未練がましいな」


 薄れゆく意識の中で、時行は自嘲する。

だが、その強烈な渇望こそが、魂を次の次元へと繋ぎ止めるクサビとなったことに、彼はまだ気づいていなかった。


 五十五年の修練の果てに、無念という名の燃料をくべて。

男の魂は、次元の壁を超えていく。


 次に目覚める時、そこが望み通りの「地獄」であることを願いながら。

挿絵(By みてみん)

最後までお読みいただき、ありがとうございます!

リーファスとクリスの異世界探索劇、ここから本格的にスタートします。


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