17話「出席者リスト」
誕生日パーティまで、あと一週間を切った。
主賓でありながら、実質的なパーティの主催者でもある私は慌ただしい毎日を過ごしている。
そう私はアラベスク家の令嬢だ。貴族の子女が誕生を祝うとき、その主催者は基本的に家長が務める。
私の場合は父親であるディラン・アラベスクがその立場にあるわけだが――
ハッキリ言って、私のお父様は貴族としては相当にダメダメなのである。
「人の上に立つ才能」「人を取り仕切る才能」というものが、ほぼ欠如している。
人柄はとても良いし、誰からも愛される朗らかな領主ではあるのだけれど……やはり貴族というのは、基本的にはギラギラしていなければ生き残れない。
それもあって、私は一桁の年齢の頃から、アラベスク家の家業に口を出さざるを得なくなっていた。
誕生日パーティの招待状だって差出人の名義はお父様になっているが……実際に書いたのは私だ。
許可を取りに行ったら『誕生日パーティをやりたいんだろう? だったら全部お前が決めなさい、レイチェル。私はパーティを楽しませてもらえればそれで構わない』と、初手でお父様にはノータッチを宣言されてしまった。
もう何年も前からこんな感じだったので、不思議には思わない。
むしろ、私が「世界」から追放されていた一年で、アラベスク家が滅ぼされていなかったことに私は心底ホッとしたものだ。
(とはいえ、家の経済状況は相当悪化していた)
「レイチェルお嬢様。誕生日パーティの出席者リストができあがりました」
「ありがとうございます、セシル」
すっかり生活感を取り戻した自室で作業していた私の元に、使用人のセシルが書類の束を持って来た。
私はそれを受け取り、内容にザッと目を通した。
これは……。
わずかに眉を動かし、セシルの顔を見上げる。
セシルは今年で40歳になるベテランの使用人だ。大昔は家事全般を取り仕切るだけだったが、私が計らずとも家業に口を出さざるを得なくなったあとは細々とした手伝いもしてくれるようになった。
二児の母親でありながら、文句一つ言わずに私を支えてくれる素敵な女性だ。
「招待状は10通出したはずでしたね」
「はい」
「……それにしては出席希望者がやけに多いのは気のせいでしょうか」
出席者リストをぺらり、ぺらりと捲りながら、私は唸った。
リストは3枚。
そこに家名や人名がビッシリと書き込まれている。
もちろん、これが全てではないだろう。当日に「同席者」として、パーティにやって来る者も多くいるはず。
――さすがに想定外すぎないか?
招待状の宛先は、グロリア王国に現在存在する10の貴族領からアラベスク領を抜いた9つ、そしてグロリア王国の国王に対して送った1通を合計して10通だけだ。
確かに私は畏れ多くも「婚約解禁」を宣言したが、それはある意味で各所に「筋を通す」という意味合いも強くあった。
アラベスク家の娘が17歳にもなって、一切浮いた話がないことは、前々から噂になっていたはずだ。
私に「利用価値」があるのは確かなのだから、事態を遠目で伺っていた人もいただろう。
そういう方に対して、いきなり「婚約しました」という事実を突きつけるのは、さすがに不躾だと考えたのだ。
だから、会はささやかでよかったのだ。
しかし、これは……。
「招待状を出していない家や他国からも、出席したいという希望が多数ありましたので」
「他国からもですか……」
「3枚目がグロリア王国以外の出席希望者になります」
セシルが3枚目の書類を指し示しながら言った。
たしかに、このページに記されている家名はすべて他国の貴族だ。
心当たりのある人名はあまり多くないが、家名に関しては有力な名家ばかりだ。
「……これでは出席者は100人どころでは収まりませんね」
「はい。おそらくですが、200人近くなるかと思われます」
「50人も来れば上々と考えていましたが……」
それも「顔見せ」程度でいいとすら思っていた。
たとえば有力な貴族の長男などに来て貰って、関係を築きたいとか、そういう下心は微塵もなかったのだ。
大体、誕生日パーティを開くとは言ったが、これはあくまで私の「遅い社交界デビュー」を果たすための会に過ぎない。
(普通の貴族はどれだけ遅くとも16歳で社交界デビューを果たす。その期限から漏れるのは何らかの「訳有り物件」と見なされるのが通例だ)
その場で、婚約相手を見つけて、決断しようなんて、とてもじゃないが考えていなかった。
これは単なる第一歩なのだ。
――神さまの顔面に拳を叩き込むための。
「それはさすがにレイチェルお嬢様はご自身を低く見積もりすぎです」
不意にセシルが言った。私は訊き返す。
「……といいますと?」
「レイチェル様と結婚されたい殿方は、数え切れないほどいるということです」
「それは何となくわからなくもないですが……」
「――そして、その『おこぼれ』を狙って、参加を表明した令嬢も数多くいるでしょうね」
「…………なるほど」
改めてリストに視線を落とす。
言われてみると、男性と同じくらい女性の名前が記載されている。
しかも、まったく面識がない家、相手ばかりだ。
(この歳になるまで私が貴族の集まりにほとんど参加したことがなく、シャルしか貴族の友達がいないせいでもあるが……)
「なんてことでしょう……私の誕生日パーティだったはずが、半ば婚活パーティ化しているということですね……」
「…………コンカツですか?」
「すいません。これは、その……ま、魔導工学の専門用語です!」
慌てて怪訝な顔を見せたセシルに私は取り繕った。
てっきり、この婚約パーティでは自分のことだけを考えていればいいと思った。
だが、この感じでは、そんな呑気なことは言っていられないだろう。
おそらく、この会は単なる私の思惑を超えて、様々な策謀が渦巻く会になるだろうから――
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