七章 匂いの調べ⑲
「みんな、この屋敷に来て初めて食べたものが好物だったとはね」
突如、背中から投げかけられた声に四人はハッとした。主であるグランツ・フォン・ファブリーゼその人が入り口に立っているのを見ると四人は深々と頭を下げた。
「それは……この屋敷に来れたことが何よりの幸せだからです」
「だからぁ、その……解雇なんてしないでください……!」
「ボク達、ここにいられることが……お二人の役にたてることが生き甲斐なんです」
「お願いします。何卒お考え直しを」
フローライトが口にした言葉に、グランツとイヴは二人して顔を見合わせると言葉を重ねた。
『……解雇?』
「誰だい、そんなことを言ったのは」
「私たち、そんなつもりで貴女たちを呼んだわけじゃないのよ? むしろ日頃の感謝を伝えたくて……」
戸惑った表情を見せる二人に対して、今度はシンシャがおずおずと手を挙げた。
「すみません、彼女たちの不安を煽ってしまうような言動をしたのは私です。フローライトが言付かってきた『私たちは休息しているように』という言葉にそう思ってしまったのです」
「ごめんなさい……そんな意味も意図もないのに、誤解を与えるような言い方をして」
深々と頭を下げる主に対して、シンシャはさらに深く頭を下げる。
「も、申し訳ございませんでした!」
「謝らなくていい。そんなふうに思うような不安と誤解を与えてしまったのはこちらの非だ」
グランツは四人へと歩み寄ると、そう言葉を投げかけた。
「そしてなにより――君たちを解雇する気はない。だから安心してこの宴を楽しんで欲しい」
「ええ、料理が冷めてしまう前に……ね?」
そっとシンシャの手を取ると先導するように席へと案内する。続いてフローライト、フォスフォフィライト、アンデシンをそれぞれ席へと着かせると各々が好きな菓子類を取り分けてはみんなの前に並べる。
「給仕なら任せて? これでもリセッシュにいた頃にはよくしていたのよ」
どこか悪戯っ子がはにかむような笑みを浮かべるイヴリース。




