七章 匂いの調べ⑭
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目を覚ますと、そこは見慣れた屋敷の寝室だった。ドレスから寝間着に着替えさせられていた。いったいどれくらい寝ていたのか記憶にない。
そして憶えていることとすればハインツ子爵の舞踏会だ。途中、会場を抜け出してからの記憶がまったく無かった。身を起こし額に触れる。
「私……どうして……」
そう呟いた時だった。ガチャリと自室の扉が開く音が聞こえた。そこに立っていたのは、グランツだった。
「グランツ」
「起きていたか、イヴ」
グランツは傍に来ると椅子に座り、優しく頭を撫でてくれた。
「体調のほうはどうだ? 念の為医者にも見せたが、身体に問題はないそうだ」
「あ、ありがとうございます。……グランツ、私……舞踏会の途中からの記憶がなくて」
「……。ハインツ子爵のところでトラブルに巻き込まれたようだね。怖い思いをさせてすまなかった」
グランツはそっとイヴを抱きしめると何度か背中を撫でた。その様子から、迷惑をかけてしまったのだと察したイヴは落ち込んだ。
「また、御力になれなかったのですね。……グランツの足を引っ張ってしまって、ごめんなさい」
「そんなことはいいんだよ。イヴが無事であることが何よりなんだから」
グランツは優しく声をかけてくれるけれど、イヴはキュッと唇を噛み締めた。
「私、これまで自分でできることがなかったから、グランツの役に早く立ちたいと思ったんです。でも、なかなか上手くできませんね……」
「焦る必要はないんだよ、イヴ。キミが焦る気持ちも、私の役に立ちたいという気持ちも良く分かっている。キミに危険が及ばない範囲で、模索していこう」
「……はい」
イヴは俯きながらも小さく頷いた。




