七章 匂いの調べ⑧
それからの舞踏会は順調そうに見えた。
グランツはこちらを気に掛けてくれながらも、特に大きな騒動もなく舞踏会は進んでいく。時折警戒しつつも軽食や飲み物をシンシャと食べつつ、ダンスには控えめに遠くから眺めていた。
(このまま無事に終わってくれたらいいのに……)
そんなことを胸の内で考えていた時だった。
「ダンスは苦手かな?」
「え……?」
不意に声をかけられて、イヴははっとした。
気付くと見慣れぬ紳士が傍に立っていた。だが、見慣れなくとも、男性から香る“匂い”のおかげでどんな人物かは理解できた。
(もしかして、ハインツ子爵……?)
招待状についていた香水の匂いと、漂ってくる匂いが同じだった。イヴは令嬢らしく会釈をしてから微笑むと、「少し人に酔ってしまって……」と誤魔化した。
事実、嘘ではない。
乙女座会と比較するとだいぶ広く人も多い。舞踏会慣れしていないイヴにとっては酔いやすい状況だった。
「失礼、まだ名乗っていなかったね。ハインツと申します」
「ハインツ子爵……! こちらこそご無礼を。イヴリース・フォン・リセッシュと申します」
「……ああ。貴女が例の……」
「え……?」
「いや……なんでもありません。こちらの話です」
「……?」
何かを誤魔化すような物言いに小首を傾げる。
グランツならともかく、ハインツ子爵とは初対面の筈だ。少しだけ、ザワリと心が震えた。




