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七章 匂いの調べ⑥
ハインツ邸に入ると目の前は直ぐにダンスホールだった。部屋の隅には簡易ながらも食事や飲み物が置かれ、ホール内の至る所には給仕をする使用人が立っている。
緊張から喉が渇いていたイヴは、シンシャの確認と許しを得てから水を口に運んだ。
水を少しずつ飲みながら、チラリと会場内を見渡すと赤い色の多いこと。勿論、それがドレスコードだと充分理解していても、赤が多すぎた。
(これじゃあ、誰が誰だかすぐに区別はつかなさそう……)
そんなことを思っていた矢先のことだった。
「あら〜? そこにいるのはもしかして黒豚のイヴリース?」
「……ッ!」
嫌というほど聞き覚えのある声。そして蔑称に皮膚が総毛立つ。声がしたほうを恐る恐る見ると、そこには義姉であるフレアリーフ・フォン・リセッシュが立っていた。
「お義姉様……どうして此処に?」
「あらぁ、私がいたら問題でもあるのかしら。勿論、ハインツ子爵から招待を受けてよ」
「…………」
ハインツ子爵が女性好きであると前情報で聞いていたものの、まさかリセッシュ家にまで招待状が送られているとは考えていなかった。思えば義姉もシーズンを謳歌していてもおかしくない歳頃ではある。そんな中、こうして巡り合うのは内心最悪だと思った。




