六章 月の宴⑮
準備を整えた使用人達がそれぞれの役割のために配置につくと、ダンスホールにはイヴとグランツだけになった。緊張と不安から俯きそうになるのを堪え、真っ直ぐにグランツを見据える。
そんなイヴの気持ちを汲み取ってか、グランツは微笑むとそっと手を差し出してきた。
「お姫様、お手をどうぞ」
差し出された手に手を重ねると、イヴはホッと小さく息を吐く。緊張から今までの練習の成果を台無しにしてしまわないように。
そうして音楽隊によって一曲目のワルツがゆったりと奏でられ始めた。一歩目を急がずグランツの呼吸に合わせて踏み出す。
(アイン……ツヴァイ……ドライ)
テンポを合わせながら、呼吸を重ねながら踊るワルツは楽しいものだった。仮面舞踏会の時とは違う一体感に心が踊る。以前はグランツに誘導されてばかりだったが、今では誘導されることなく次のステップが分かる。
苦しかった筈のダンスが楽しいものへと変化していた。
「凄い上達ぶりだね、イヴ」
「ありがとうございます。グランツの隣りに立ちたくて、頑張りましたから」
褒められて思わず本音を漏らしてしまう。
それでもいい。
グランツの傍にいられることが、なにより幸せなのだから。
「グランツ、私考えたことがあるんです。聞いてくれますか?」
「なんだい?」
「貴方の仕事のお手伝いをさせてください。前の仮面舞踏会の時のように」
「え……?」
「私は魔法が使えず、この“鼻”しかありません。だからこそそれを最大限に活かせるよう“鑑別”の仕事がしたいんです。匂いで識別できるような……」
「イヴ……」
「駄目、でしょうか」
「……わかった。キミの気持ちを最大限受け取ろう。キミにも私の仕事を手伝って貰う」




