六章 月の宴⑭
「お母様なら、どうしていたのかしら……」
今は亡き母親に想いを募らせる。
そうしたところで、リセッシュ家から渡される物も遺された物も何もないというのに――。それでもグランツの役に立ちたい、そんな気持ちが日に日に強くなっていく。
「匂いで判ることがあるのなら、鑑別のようなことができるかしら」
自分で言ってみて、思いに耽る。待っていても何が生まれるわけでもない。魔法が使えないと悲嘆していても始まらない。それならば自ら始めなければならない。
自分のための、グランツのための“魔法”を生み出したい。たとえ“魔法”に劣るとしても、“魔法”に近づける力を身に着けたい。
オニキスおじ様は言った。
イヴのことを『変わり者』だと――。
それならそれでいい。『変わり者』なら『変わり者』らしくあればいい。『変わり者』らしく、できることを成し遂げよう。
「グランツのために――」
その時、時計の音が鳴った。舞踏会の会場は普段舞踏会が行われた際に使用される部屋だと聞いている。まだ部屋が分からないイヴのために、シンシャが呼びに来ると、案内をしてくれた。
大きなダンスホールが視界いっぱいに拡がる。シャンデリアの眩しさも相まって舞台はとても煌びやかだ。そんな中、複数の使用人に紛れてグランツの姿を見つけた。
「本日はこのような機会を設けて頂き、ありがとうございます」
改めてドレスを摘み会釈をすると、フッとグランツは笑った。
「キミのためならいくらでも――。今日はダンスの成果も見るテストといこうか」
「かしこまりました。喜んでお受け致します」
舞踏会までの間、散々練習してきたのだ。
その成果を試されるというなら望むところだと思った。




