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六章 月の宴⑬

「書斎は如何でしたか?」

「ええ、色々な本があって楽しめたわ。グランツも来てくれて少しだけダンスの練習に付き合ってくれたの」

「それはようございましたね」

 嬉しそうに話すイヴリースに言葉を掛けながらも、傍らではフローライトが紅茶を淹れている。

「週末の舞踏会までには、ダンスは間に合いそうです。でも……少し疲れました」

「あまり根を詰めすぎないように。倒れてしまいますよ」

「ええ。気をつけるわ」

 穏やかに微笑む主の様子にシンシャは微笑みながらも、フローライトが淹れてくれた紅茶をイヴリースの前に置いた。イヴリースがそれに口づけるのを見届けてからシンシャはゆっくりと話を切り出した。

「舞踏会で着るドレスはどれに致しましょうか。あとでゆっくり決めていきましょうね」

「そうね。楽しみだわ」

 イヴリースはまるで子どものような無邪気な笑みを浮かべた。


 それから一週間としないうちに舞踏会の日がやって来た。イヴはシンシャ達に選んで貰った中から自分で決めた桜色のドレスを身に着けていた。これまで過ごしてきた中でたくさんドレスがあるとは思っていたが、まだ身につけたことのないものもある。クローゼットの中にはいったい何着あるかだなんて数えたことすらない。シンシャ達が選んでくれた物を着るのがほとんどだったから……。それでも今日は自分で決めた桜色のドレスにした。グランツの反応がどうか緊張はするものの、髪飾りとお揃いにしたかったから。

「緊張するなぁ……」

 ダンスの練習は散々してきた。それでもやはり緊張はする。フローライトが淹れてくれたミルクティーを飲みながら、時間がくるのをぼんやりと待った。

 ファブリーゼ家に来てからというものの、これまで学ぶ機会が得られなかったことを学んでいる。それはグランツやシンシャ達やオブシディアンのおかげだ。そんな機会を得られることに感謝しながらも、イヴはふと思いを巡らせた。

「お母様は、リセッシュ家でどんな思いをしていたのかしら……」

 記憶の奥底にある母親も、これといって魔法を使っていなかったような気がするのだ。少なくとも、魔法を見せてくれた憶えがない。

 もし今の自分と似たような境遇であったのなら、何か残っていないだろうか。……いや、ないだろう。リセッシュ家から持ち出したものはほぼ自分の物だけしかなくて、母親の何もかもはこの髪飾り以外は無くなってしまっていたのだから。

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