六章 月の宴④
4時間後――。
お昼の時間になり、ようやく開放されたイヴはフラフラになりながらも食事の席についた。
「ご、ご無事ですか? イヴリース様」
疲れ果てた様子を見兼ねてシンシャが声を掛けてくれる。
「ぶ、無事です。なんとか……」
そう返事をしながらも、オブシディアンのスパルタっぷりに心が疲弊していた。グランツは毎日そんな指導を受けていたのかと思うと、自分自身の考えの甘さに言葉が詰まってしまう。
「グランツは凄いですね……オブシディアンの指導を毎日受けてたなんて」
お茶を飲みながら、はぁと驚嘆の吐息を零す。
そしてオブシディアンもファブリーゼ家を――グランツを想って厳しい指導をする。その思いに頭が上がらない。辺境伯としての公務をこなす為に、様々な苦労をしてきたに違いない。
目を閉じれば、義母と義妹の言葉や行為が簡単に思い出せるけれど、令嬢としての責務をこなすことができなかった自分はまだまだ考えも行動も甘いのだろう。
(もっとしっかりしなきゃ、グランツの隣りに立てるように……!)
出された食事に手を付け、美味しいと思いながらもイヴは密かに反省していた。
「シンシャ……、私って甘い人間かしら?」
「甘い人間、ですか……?」
「今まで令嬢としての振る舞いをしてこなかった弱い人間、とも言い換えられるかも」
「そんな! イヴリース様はリセッシュ家でその機会を奪われていただけではありませんか! 甘いなどとは思いません。現に今はこうして努力しているじゃないですか! もしイヴリース様の悪口を言う輩がいたら、断固抗議します!」
「シンシャ……」
「イヴリース様ならきっとお出来になられます。自信を持ってください!」
「……ありがとう、シンシャ」
昼食を後にして、自由な時間。
オブシディアンはオブシディアンで仕事があるから、当然イヴに付きっきりでいられることはない。だからイヴはイヴなりにできることを模索した結果、屋敷の書庫に行くことにした。
あそこには珍しい魔術書などもありそうだった。その中にもしイヴが使える魔法があればグランツの役にたてるかも知れない――そんな期待を胸にイヴは書庫にいることを侍女達に伝えてから、中へと足を踏み入れた。




